一方通行の想いの果てに

悠 -3 Cat Life -

一方通行の想いの果てに

第一部 雨過天晴 ―― 雨過ぎて天晴る ――ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

第1話 想いは一方通行

ㅤㅤㅤㅤㅤ―― Side こう ――



私、こうには好きな人がいる。

幼馴染みのなつ

同い年で、家が近くで、親同士も仲が良くて、小さい頃からいつも一緒で、同じ高校・同じクラスに通う高校一年の女子。


気付けば好きだった。

およそ親友を超えた感情。

それを自覚した中学の時から今に至るまで、何度もそれが恋かどうか何度も思料したけど、ドキドキする気持ちは、 “普通の好きではない” と、思う。

その “普通でない好き” を自覚した相手が女性であった事とか親友だった事とかで色々悩んだけど、意を決して告白する事にした。




何時も一緒に帰る学校の帰り。

なつと私の家とは数件しか離れていないけど、学校の立地上、学校の帰りは私の家のが先に着く。

今日はなんとなくを装ってなつの家の前までやってきたのだ。

ここで一世一代の告白をする。

本来ならもっとロマンチックな場所や演出を考えるべきなんだろうけど。

親友だと思ってた相手に、行き成り恋愛対象として好きだとカミングアウトされた時、精神的なショックを与えるだけで。

もしもショックが強すぎた時、直ぐに家に帰れる様にと思って。




なつ、大事な話があるんだけど、今良いかな?」


家に入ろうとしていたなつを呼び留める。


「んー? 別にいいよ?」

「ありがとう」

「どうしたの?」

「・・・・・・」


いざとなると言葉が出ない。

もしかしたら親友との関係を壊すだけかもしれない。

凄い事をしようとしているのかも。

 

今更ながらにそう思うと膝が振るえる。


でも、この先ずっと悶々としたくはない。

なつは門扉に手をかけた状態で私が話し出すのを待っていてくれる。


意を決する。


「私、ずっとなつに言えなかった事があるの」

「お、おう」


私の真剣な様子に圧され、なつが何を言われるのかと身構えた。


「私もなつも今、恋人がいないよね。私たちって、今までずっと一緒で、幼馴染で親友だったけど、なつもいずれは誰を好きになって付き合いだして、私以上の人が出来る日が来ると思う。親兄弟よりも優先する相手が。でも、出来ればそのポジションが私であって欲しい。私はなつが好きなの。私はなつに恋してる。・・・・・・えっと、私と、恋人として付き合えるか考えて欲しい。返事は幾らでも待つから」


気の利いた事何一つ言えなかった。

 恥ずかしい。

でもここで目を逸らせたら誠意が無さ過ぎて外せない。


私はなつの目を見続けた。


「――あーっと、・・・・・・え? こう、私が好きなの? 嘘。・・・・・・えっと、や、今のはこうのこと疑った訳じゃなく・・・・・・、その、全然気づかなかったから」

「うん、ごめん。女同士だし、表に出して良い感情じゃないと思って、出来るだけ表に出ない様に頑張った」

「そっか。・・・・・・恋人って具体的に何するの?」

「えーっと、手をつないだり、キスしたり?」

「なるほど・・・・・・。親友じゃキスとかはしないよね。うーん、そっか。わたしには解らない感情だね。・・・・・・でも、今まで意識してこなかったけど、もしかしたら意識したら解るかもしれないね。いいよ、付き合おう」

「えっ、そんなに簡単に決めて良いの!?」

「えー、知らない相手でもないんだし、こうならいいかなって」

「あ、そ、そう」

「じゃあ、そういうことでよろしく」

「あ、ありがとう。こちらこそ宜しくお願いします」

「わぁ~、急に固い」

「う、だって、こっちはお願いした身だし」

「うんうん、こうってなんだかんだと真面目だよね」

「そうかな」

「そうだよ」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「じゃっ、じゃあ、今日はありがとう。もう帰るね」

「ああ、じゃーまた明日な。バイバイ」

「また明日。ばいばい」



 ――っと、信じられない。

 まさかのOK。


最初は驚いてた彼女だけど、恋人としての付き合いをOKしてくれた。

結構簡単に決めてたから不安だけど、まさかOKされるとは流石に思ってなかったから、嬉しくて狂喜乱舞しそうだった。 

ちょっと泣きかけたのは内緒。


解ってたから。

なつは私に恋愛感情がない。

でも、これだけ一緒にいるんだ。

少しずつでも、親友を超えた先の関係に何か感じてくれれば良いと思った。

少しずつでも、私に恋愛感情を抱いていってくれたら良いと思った。




今迄もいつも一緒に登校していたけど、それからは手をつなぐ様になった。

なつの、戸惑う様な、恥じらう様なしぐさが無性に可愛くて、キスしたくなる。


キスして良いかと聞けば少し思案してOKをくれた。


並ぶと私より少し背の高いなつに、僅かにかかとを浮かし背伸びをして、そっと唇を重ねた。

ファーストキスはレモンの味だと聞くけど、残念ながら唇を重ねただけのキスでは味までは解らない。

ただ、凄く柔らかかった。

頬にかかる僅かな吐息。

彼女の香りが鼻をくすぐる。

そっと離れた。

長かったような、短かったような、多分数秒しかしていない。

顔を離した後、なつは恥ずかしかったのか顔を赤くして背け、私は高ぶった顔を見られまいと背けた。

それ以上をしたくなるけどまだ気が早い。




――私たちは元々幼馴染だ。

家が近所で小中高とも学校が一緒だった。

一緒じゃなかったのは中学の修学旅行の班ぐらい。

この時、私は理由を適当にこじつけてお互い別々の班に入った。

修学旅行のお風呂は班別で入る事になっていたのが理由。

流石に好きな人の裸を見て冷静でいられる自信がなかったから。

顔に出たら恥ずかしいし、気持ちを気づかれて嫌われるのが怖かったから。

幼馴染とはいえお風呂に一緒にするのは小学生以降していなかったけど、なつを好きだと自覚してしまった以上、尚更一緒に入れない。



そう、今迄も親友として散々一緒にいた。

それをなぜ敢えて恋人関係を望んだかと聞かれれば、恥ずかしながら、私は親友を超えた関係、それより “その先” を望んていると答える。

ぶっちゃければ、私はなつの事を性の対象として見ている。

色々想像すれば欲情もする。


最近は、友達とでもキスをするのがアリと言う風潮があるようだけど、私の周りではそのような事はない。

私自身も、キスはやはり恋愛感情で好きな人とするものだと思う。

て、言うか好きでない人とのキスなんてしたくないし、して欲しいとも思わない。


だから恋人になりたかった。

幼馴染、親友じゃ足りない。

キスをしたい、その先も、もっと触れ合いたい、抱きしめたい、抱きしめ合いたい、と、欲して止まないのだ。

 

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤ ㅤ≫≫≫≫≫≫



恋人になれてからというもの、不意に身体を寄せた時のドギマギするなつがとても愛おしくて、こんな風に恋人として付き合える事が嬉しくて、有頂天になってた。


だから、気付かなかった。

過度に接するようになってしまって、それに戸惑う彼女を「まだ馴れないから」と解釈してしまった。




ある日、私達の共通の友人の友寧ゆうねに、私たちが付き合ってるのがバレた。

懸念だった女性同士の恋愛に拒否反応な無かったものの、友寧ゆうねは何か言いたそうだった。

仕方のない事かもしれないと思っていたら、原因は別にあった。


私だけ友寧ゆうねに呼び出されて言われた。


なつには好きな男子がいたのだと。

なつはあんたに気を使ってるだけだと。

あんたの片思いだと。

開放してあげろと。



最初は信じられなかったけど、思い返せば心当たりがあった。

なつは未だにスキンシップには馴れないし、キスもあまり乗り気じゃない。

なつからのキスをせがんだ時もあったけど、彼女からしてくれた事は一度もない。


私に、そうされたいという気持ちが無いのだ。

私に、そうしたいという欲求も無いのだ。


今更ながらに思い知った。


それに最近私といる時楽しそうに笑っていない。

いつも何処か申し訳なさそうに笑ってた。

私と目を合わせない事も増えて来ていた。

私はそれも、恥ずかしくてドギマギしたり、女性同士で付き合ってる後ろめたさがあるからと勝手に解釈していた。

全て違った。


それからはなつの何気ない仕草にまで気を配った。

私の受け答えでする少し困った顔。

作り笑顔。

目を見れば逸らされる。


 もうどうしようもない。


付き合う前、楽しそうに笑っていた、それを奪ったのは私だ。



そして、

一瞬何処かを見て止まる。

すぐ元に戻す。

一日の内で幾度かそれを繰り返す。

なつが一瞬見た先、クラスメイトの男の子。


 ああ、そうなんだ。

 そうだったんだ。


他の友達は知ってたって事を、私だけ知らなかった。




 ごめん。


 独りよがりで。


 貴方の事、何も考えて無かった。

 何も見てなかった。

 何が幼馴染だ。

 何が親友だ。

 付き合う前、親友だと思ってた事すら私の過信だった。


だから、貴女を開放する事にした。

なんだか上から目線な言い方だけど、そんなつもりはない。



ㅤㅤ━━━━━━ (´·ω·̥`) ━━━━━━ 



「我儘言ってごめん、友達に戻りたい」


ある日の学校の帰り道、なつの家の前で私はそう切り出した。


それすらも我儘だけど、そう言った時、なつは心底ホッとした顔をした。

胸が掻き毟られる。


なつの了承を得て私たちは友達に戻った。

それから私はなつの幸せを心から応援する為と贖罪を兼ねて、なつの恋の後押しをした。




そしてなつは例のクラスメイトの男子と付きい出した。

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