第4話 皆さんはお金を稼ぐために何をしてますか。俺は絶賛サッカーをしてます
店を閉じて四日が経過した。
俺は宣言通りこの期間は店を閉じ続け日々の光熱費によって徐々に持ち金が溶けていき、このままでは破綻する危機的状況は抜け出せていない。
そして今日で五日目となり臨時閉店の最終日となってるが、俺は──
「へいパス!」
「頼むぜ兄ちゃん!」
「おうよ、任せなぁ!」
子供達と一緒にサッカーをしています。
子供たちのリーダー的存在アルマから蹴られたボールを胸で受け取り、足元へ上手く落として利き足の右で力強く蹴り抜く。
一度右に蹴る振りを入れて左にボールを飛ばす。
キーパーのフランは逆サイドに飛んだボールに手を伸ばすが指先が掠っただけで、止めることができずボールはゴールネットを揺らす。
「アルマ!」
「ナイス兄ちゃん!!」
ゴールを決め逆転した興奮を伝えるため近寄ってきたアルマとハイタッチする。
──やっぱり人間汗を流すのが一番だ
額に浮かぶ汗を拭いながら考えていると横から最大威力のドロップキックが腰を直撃し、地面と熱いキスをする事になった。
「あと少しで店が破綻するのに何を呑気にサッカーなんてやってるんですか」
「普通にその前に死にそうなんですけど、アルマちょっと抜けるわ」
「おうよ!絶対に勝つから安心して喋ってきな」
頼もしい仲間達が親指を立てて背中を後押ししてくれる。目元に涙が浮かび仲間の温かさを
痛いたい!耳を引っ張らないでくれちぎれる。
サッカーを行ってる空き地から少し外れた場所に強制的に移動させられた。
引っ張られ外れそうになった耳を抑えながらニーナの目を見て問いかける。
「せっかく仲間達とサッカーしてるのに妨害すんなよな」
「その間も店はどんどん閉店に近づいているのに?」
「うん」
「私が色々駆け回って店の事を知らせている間に楽しくサッカーですか」
「楽しくだけじゃない。ドリブルやフェイントの特訓をして連携を地道に覚えて、辛い道のりの先にさっきのゴールがあったんだ」
五日間ずっと行ってきたサッカーの努力の解説はニーナにとっては怒りの権化だったのか拳を握り笑ってはいるが怒りのあまり漏れた笑みをしている。
「なら・・・・・・ここで死にますか。そうすれば私の契約も無かった事になりますし」
「タイム!!ターーイム!!え、何謝ればいいの?はいごめんなさい、土下座もしますよほら」
謝ってる人の態度とは思えない物で謝罪をし始め最終的に頭を地面に擦り付けまでしているが、悪いとはどう見ても思っては無い。
逆に殴り殺せるチャンスでは?とより強く拳を握るが、こんな惨めで滑稽な人に感情を動かされたのかと思うと虚しくなるので途端に力を抜く。
「もういいですよ。どうせ店長なりのゲスい作戦あるんですよね」
「おっ、さっすがニーナちゃん。俺と同じ思考に染まってきたねぇ」
「うげっ・・・・・・気持ち悪る」
「ガチトーンで言われるとさすがに俺も傷つくんだよや な」
感情は豊かになったが悪い方向で豊かになったとしか思えない。
とはいえ大人びた受け答えだけをしていた最初よりは大分マシと言える。
「で、例のアレは持ってきたか?」
「一応持ってきたけどこんなに食べる気?」
「チッチっち、これが俺の秘策の要よ」
ただ五日間サボっていた訳じゃないことを証明するため、ニーナから渡されたパンパンに膨らんだ袋を受け取りサッカー仲間の元へ戻っていく。
試合は三対二で逆転勝利し全員が喜びムードである。
逆転の要となった俺は全員から胴上げされていて喝采を浴びていた。
試合終了後は相手のチームの面々とも握手をして互いの健闘を称え合う。
「ありがとうございました」
「いやいや、こっちこそ負けたのは久しぶりだから負けを味わえてより成長出来そうだぜ」
チームのリーダー二人は息があったのか長く話し込んでいる。
試合開始が一〇時からで今の時刻は一二時と丁度お昼時である。皆それぞれ弁当を持ってきてはいるがどれも似た物ばかり。
魔法を使えない市民はコンロ、冷蔵庫、蛇口など地球では化学の発展で得た物を、魔力の結晶体の魔石をはめ込んだ魔道具を用いて生活している。
しかし、市民のために便利にする動きは少なく数々の欠点がある。特に顕著なのが食事でコンロは火力調整ができないので主食のパンはカチカチに焼かれた物だけ。フワフワのパンはめでたい時に高値で購入し味わう高級品である。
子供たちはバケットから取り出したカチカチのパンに肉の薄切りと葉野菜を挟んだ、サンドイッチもどきを口に運んで何度も何度も噛んで飲み込む。
「はぁ・・・・・・ほんと、不味いよなこれ」
「誕生日で食べたフワフワの方を食いたい」
「晩御飯もまたこれを食べんのか」
口々に食事についての不満を漏らす。
これから家に帰り晩御飯となれば硬いパンをスープでふやかして食べるいつもの食事が待っている。
日常的に食べれない事を知ってはいるが何とかしてまた食べたいと常々考えていた。
「それじゃあ俺も」
周りの子供たちを尻目にカバンから取り出すのはフワフワのパンにハムを挟んだ、ジューシーハムサンドである。
外のパッケージを外して中のサンドイッチを一つ掴んで口へ運ぶ。
口の中でハムとパンが優しく混じり合い、カラシマヨネーズが程よい辛みをくれる。水分を失った口内に急ぎオレンジジュースを流し込んで潤いを保つ。
「おい、兄ちゃんなんだそれ」
「これか?俺の店で売ってるサンドイッチだぜ」
「サンドイッチ・・・・・・一つ貰ってもいいか」
「おうよ俺たちは友達だからな」
悪魔の如き笑みで地獄の契約を結ぼうとする。
フワフワのパンに触れ驚くと共に口に運ぶと涙を流して美味さに感動する。
平日の昼間から飲む酒、コタツの中で食べるアイスクリーム。冒涜的だが最強に旨味をます方法が通常では味わえない食べ方だ。
特別な日にしか食べられないパンを何でもない日に食べるのは通常の二倍は美味く感じた。
「いいなー」
「俺も欲しい」
「美味そう・・・・・・」
たった一人のみに許された贅沢に周りは羨望の眼差しを向けていた。
池の中にいる鯉に餌を投げ入れるようにニーナから渡された袋から大量の料理を広げる。
「俺らは友達だろ?なら全員分持ってくるのは当たり前だ!!敵だったあんた達も、試合が終われば仲間だからな食べてくれよ」
「いいのか!?」
「もちろん遠慮はいらないどうぞ召し上がれ」
うおーーーー。と子供たち全員は群がり涙を浮かべて満面の笑みで食べ尽くしていく。
総額三万ガルドもあった料理が一瞬で消え、子供たちは満足気にその場へ腰を下ろす。
この料理を食べた時点で俺の作戦は成功した。もう何もしなくてもいい、後は勝手に鴨がネギを背負ってやってくる。
「ありがとうな兄ちゃん」
「いやいいよ。どうせ俺の店の売上は全然低いからね」
「そう言えば店って言ってたけど売ってんのかこれ?」
「あぁ、一週間ぐらい前にできたガラス張りの店分かるかい?」
「突然現れたあの謎の店?」
「そう。あそこの店の店主でねこういう商品を格安で売ってるんだ」
俺の言葉に辺りは騒然とする。
贅沢品とまで言われるフワフワのパンはブフーリ領の中でも貴族街と呼ばれる方まで行かなければ手に入れられない。その上高価で一つ買うだけで二〇〇〇ガルドはする。
本来高価であるはずのパンが格安と言われては興味が向かないわけが無い。
「ちなみにいくらなんだ?」
「さっき上げたサンドイッチで三〇〇ガルドだね。こっちのパンに至っては一〇〇ガルドだよ」
餡子が詰められたミニあんぱん五個セットのパンを懐から出して見せながら値段を言う。
格安所ではない子供たちのお小遣いでも十分買えるラインである。
「けど最近ずっと閉じてないか?」
店の近くに住んでいる少年が声を上げた。
「そう実は格安で仕入れて皆のために売ろうとしてるんだが、中々売れなくてね。ここ最近は店を閉じて気分転換にこの場に来てたんだ」
「大丈夫なのかお店?」
「ううん。明後日にはこのままだと潰れてしまう。明日からは店を再開しようと思うからここには来れなくなるけど、店が潰れたらまた皆とサッカーができるかな」
俯いた時に目薬を瞬時に指して涙を流したように見せる。
観客は子供だから臭い演技でも問題は無い。それっぽく見えればいいからだ。
「父ちゃんと母ちゃん連れて明日店に行くよ!!」
「俺も周りの大人に言って回る!」
「俺だって」
「私も」
仲間のピンチに立ち上がらない子供はいない。
小さなコミュニティだからこそ強い結束となる子供たちのグループは、仲間認定されるのに年齢差は関係なくどれだけ貢献したかが重要になってくる。そのためサッカーの練習に料理の提供と貢献度を稼ぎ潜り込むのに五日もかかった。
今日は最後の仕上げ、仲間のピンチを演出し団結する子供の感情を利用した外道な所業。
事実に一人気づいたニーナはため息を吐きながら何も知らないと現実から目を背けるしか出来なかった。
「ありがとうみんな・・・・・・みんなのおかげで俺は頑張れるよ」
「もっかい兄ちゃんを胴上げだ!!」
『おおぉぉぉぉぉぉぉ!!』
泣いたまねをしながら胴上げをして仲間を救うという思いを重ね合わせる。
子供たちは知らなかった。悪魔の手のひらで踊っている事に。
「それじゃあみんなこれを親に渡して説明してね」
「おう任せとけ」
「それじゃあ早速やってくるよ」
さっきまでの騒がしさは瞬く間に霧散していき空き地に残ったのはニーナと俺だけ。
手土産に渡したパンは親へ実物を示す事で行きやすくする効果と共に、子供の証言を否定させにくくする二つの効果がある。特に実際食べた子供は純粋に信じているため泣き叫ぶように伝えるだろう。
「けど良かったの?これだけでかなりのマイナスじゃない」
ニーナの言葉通り純粋に考えれば大きなマイナスだ。総勢二〇人の子供がいてそれぞれに三〇〇ガルド相当の手土産を渡したので、六〇〇〇ガルドを無料で使い食事費用には三万ガルドとかなりの額を使った。
明後日には潰れてもおかしくないというのにこんな贅沢な使い方していれば余計に早く潰れるのでは?と疑問に思っているのだ。
「問題ないなぜなら賞味期限切れの廃棄品だからな」
「え?賞味期限ってのは分からないけど、廃棄品って事は商品にならない物って事?」
「そうだ。ちなみに俺らの飯も今のとこ全部廃棄品な。消費期限切れなきゃ食えるから大丈夫だ」
コンビニ店員の大きな悩みが接客によるストレスでも仕事の大変さでもなく、廃棄品を食べる事で太る事を上げる。
毎日五〇〇〇~一万ほどの額で廃棄がでるので店員は特権としてそれを自由に飲み食いできる。だからこそ毎日出勤前に廃棄品のチェックをするのは欠かせない。
当然異世界に来てからも幾度となく廃棄品は出ているので、ただ捨てるのではなく作戦の要として再利用しかなりの費用削減を可能とした。
ぐへへへへと極悪な笑みを浮かべて勝利を確信する。
恩人にあるまじき犯罪者ズラに恐怖を覚えながらこの作戦の効果を翌日実感する事になるのだ。
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