第2話 ロリ勇者降臨!?
異世界に転生してからすでに三日が経過していた。
シルヴィーから教えられた通りの世界観であった。コーランド帝国・ブフーリ領に本拠を置いているが、世界自体が貧富の差が強い事からか、市民の住まう住居の材質は石や木が使われていて一階建てが多い。
道も舗装されていて基本的な移動手段の馬が安全に行き来出来るようになっている。
その住宅街の中に一夜にして現れたコンビニの中のさらに奥、スタッフルームで電話の受話器に耳を当てていた。
「もしもし?昨日の売上はどれぐらい──」
「ゼロだよ!!売り上げなんか出来るわけないだろ!!」
「もーーう、うるさいわね。そんなにカリカリして・・・・・・あっ、カルシウム少ないんじゃない」
「やかましいわ!それよりあんたには常識が無いのか!」
俺がここまで激怒するのも仕方がないはずだ。現在利益が一切得られず光熱費、不足品の補充とマイナスにしかなってない。それが俺だけの責任ならまだしも・・・・・・
「周りの建物を見てみろ!!ガラスなんか使ってる家一つもないし、そもそも材質としてコンクリートなんか使ってないだろ。露骨にこの店浮いてるんだよ」
「それがどうかしたの?問題ないじゃない」
「なら例えばだが、自分の周りに明らかに文明レベルが違う建物が一夜で出現して、見たことも無い食べ物を売ってたら美味しそうとか思って買うか?」
「そんな怪しい物食べるわけないじゃない。毒でも入ってるんじゃない?」
「それが今起きてんだよ!!普通、コンビニとは言え文明レベルは合わせんだろ!!」
「あっ、テヘペロ?」
「疑問形じゃなく振り切ってくれ、てか悪いと思うなら触らせろやゴラァ!」
「私そっちの世界に行けないのよーーごめんね」
コンビニの外観は地球の物と酷似しているが一部異なる点があった。東と北側にそれぞれ自動ドアがあって、その二面はドア以外は全てガラス張りで中の様子が丸見えだ。西と南側はスタッフルームがあるのでコンクリートでしっかり固められている。
本来ならそこで終わりだがコンビニに住むという手段を取るため二階が作られていて、スタッフルームから上へ登れる階段が隣接している。
直接視認できていた頃はまだウザくても顔の美しさでプラマイゼロどころかプラスだったのだが、異世界に来てから連絡手段が声だけのやり取りになる電話になると相当苛立ちが募る。
受話器を握る手とは逆の手に力が入り殴ってやろうかと息を荒くする。
その思惑と裏腹に女神は一度咳払いをしてから契約内容を告げた。
「貴方が指定したのは商品の追加方法と軍資金だけよね?とりあえず軍資金は一〇〇万ガルド用意して、商品の発注に関してはパットで選択すれば一瞬で配送する事にしたのよ?さらに私の慈悲で仕入れ値は相当安くしたわよね?」
「それについては感謝してるけど、これじゃあいずれ破綻する。せめて店の外観だけでも今からなんとか出来ないか?」
「無理ね、基本的に大きく干渉するのは最初だけって決まりがあるのよ。だってそれならこの魔獣倒すためのチート変更させてと言ってるようなものなの」
「そりゃそうか・・・・・・分かったよ一応こっちでも努力する」
「頑張ってねー」
最後の望みも絶たれ絶望に打ちひしがれていた。
このような状況では日本では定番の初動客呼び込み術が使えないので、このままではいずれ資金が尽きる。
日本では開店祝いに開店セールや特別商品等で客の呼び込みをするが、それは顧客自体に購買意欲──買いたいという思いがあるから呼べるのであって、今の怪しい店怪しいものを売ってる状況で安くすればより問題は悪化する。まずは購買意欲を沸き立たせなければならないのだが。
「だーーくそ!そんな経営方法教わってないっての」
店長になる上で経営方法というのを教わっているのだが、どれも〇を一にする方法はない。一に数をかける事しか教わっていないのだ。
とはいえ何もしてない訳では無い。
自動ドアを常時解放して店内を見やすくし、開けたドアから外へ揚げ物の匂いを放ち胃袋へ直接語りかけている。それでも足りないのだ、決定的な一ピースが。
ふと、時刻を確認すると一応開店時間としている九時になっていた。
二日の異世界生活により市民の本格的な仕事を始めるのは九時三〇分頃なのは分かっているので、少し早めに開けて準備を終わらせなければならない。
未だに店員が俺だけなのでオールでやるとすぐに過労死するので今は、九時~二一時の間にしている。
諦めに近いため息を吐きながらまず東側の自動ドアに近づき、割れ目の部分に手を入れて左右に広げる。大元の電源を入れてなくてもこれぐらいは問題なくできる。そして北側の方に移動しドアを開けると
「──ん?」
ドアの前にボロボロな服に身を包んだ少女が剣を傍らに置いて倒れていた。
☆
ブフーリ領から一〇〇kmほど離れた地点にある魔獣の森と呼ばれる森林の入口に自身の身体と同じぐらいの刀身がある剣を引きずりながら歩いている少女がいた。
胸には冒険者の金等級である事を示すゴールドのプレート。左右の腕、左右の足、上半身の五箇所を守る簡素なプロテクターを身につけている。
身長はそこまで高くなく女性という言葉よりも女の子が近い。
そんな若い少女なのだが髪は美容のために整える事はしておらず、長くて邪魔なので切断したのか髪先はボロボロでかなり短髪だ。
「馬車が横転して、食料も持ってあと二日ですか・・・・・・ここで死ぬのでしょうか」
魔獣の森とはその名の通り数多くの魔獣が生息していて冒険者と言えど避ける森である。幸いある程度の知能がここに住む魔獣達にはあるので足を踏み入れなければ襲われることはない。
だがここを迂回して歩くとブフーリ領へと戻るには最低森の周りを歩くのに二日、森からブフーリ領まで二日の計四日かかる事になる。さらに疲労も相当溜まっていてすでに二日は歩き続けている。
この森を迂回する体力は少女には残されていない。
「でも私は勇者です。勇者なんです。こんな事で諦める訳にはいきません」
どこか虚ろな目で森を見つめながら森に近づく。
自殺行為だと見ている人が居たなら止めただろうがそんな人は今はいない。
何かを覚悟したのか息を吸い込み無けなしの体力で上に剣を振り上げる。
木々の隙間から顔を見せるウルフ型モンスターの上位種ハード・ウルフはやせ細ってはいるがいい獲物だと、足を踏み入れるのを今か今かと待っていた。
正面にはハード・ウルフ達のボス格の二回りは大きいハード・ウルフが先制攻撃のため牙を光らせる。
少女は気づいたのか気づいていないのか分からないが剣を振り上げたまま口ずさむ。
「私が振るうは世界を救う力なり、盟約に従い汝の力を糧とし最速にして最強の一撃をその身に束ねる」
周辺の自然から魔力を吸い上げ刀身に途方もない魔力が集結していく。
柄の部分にある青い宝玉が極彩色の光を放ち始め、魔力は天を突き破るまでに成長を遂げた。
光の柱とも取れるそれを少女の身ながら平然と持ち上げ構えたまま、目標の地面に向けゆっくりと起動する。
「目前の障害を焼き払え──」
射程圏内にいるハード・ウルフのボスは自信に起きた現象が理解出来ず動けずにいた。
そんなモンスターの事はつゆ知らず少女は聖剣を解放させた。
「
瞬間、光の柱は森を一直線に焼き払う。
モンスターの血肉も、自然も何も残らない。あるのは何もかもが無くなったという事実である。
ブフーリ領に向けて一直線の道ができその道を少女は当たり前のように歩む。
獲物が素通りしているが手下のハード・ウルフ達はボスを瞬きの間に失い、恐怖から手を出せずにいた。そんなモンスターにとっては歩く厄災の政権使い──勇者は早くブフーリ領へ戻ろうと歩き続けた。
二日間歩き続けどうにか戻れたが宿まで歩く体力がなく道中で倒れてしまう。意識を失う寸前に見えたのは外に出た時には見たことがない謎のガラス張りの建物であった。
☆
これは誘拐に当たるのではないだろうか。いくら非常事態だったとはいえ、連れてきてしまったのはやはりまずいのでは。
店前で倒れていた少女を担ぎあげスタッフルームに連れていき、椅子を連結させてソファー擬きを作ってそこへ寝かせていた。
二階から毛布を持ってきて少女を被せた後に外に落ちていた剣も回収して、ひとまず店を閉めて少女の様子を見ていた。
日本では性別に関係なく未成年を家へ招くと誘拐犯として捕まる事になっている。この世界に日本の法律がないというのは分かっているが、もし似たような法律があって捕まったとしたら夜も眠れなくなる。
少女の安否と自身の逮捕の二つの不安に苛まれ頭を抑える他になかった。
「と、とりあえず電話を」
受話器に手を伸ばし判断を仰ごうとしたが今の事実を伝えた場合の反応をふと想像してしまう。
『うわーーガチのゴミクズ変態じゃないですか。私の胸を今は揉めないからっ年端もいかない少女を捕まえるとか──さすが変態ロリコンゴミ野郎ですね☆アハッ。お願いですから二度と電話をしてこないでください。あまりの気持ち悪さに喋ってるだけで吐き気がしますので』
そっと受話器を取る手を止めた。
無理だな直接これ言われたら死ぬ自信しかない。
彼女にも(居たことがないが)言われた事すらない罵倒を浴びたら人生立ち直れないのは間違いない。とりあえず少女が目覚めて土下座をする事しか現状を解決できないので、廃棄品の確認でもしようかと椅子から立ち上がる。
その時視線の端に少女の持っていた剣が写る。
正常な精神状態なら絶対にしなかったはずの行為。初めて見た本物の剣に触れてみたいと思ってしまった。
一度運ぶ時に触ったがアレは気が動転しててしっかりと触れてはいないのでノーカン。これが実質初めての接触だ。
「おほほほ・・・・・・すっげ、銃刀法違反になるから持てなかったけど、やっぱり男はこういうの持ちたいよな。やっぱりチート系にして冒険者になるべきだったか」
ずっしりと手に伝わる鉄の重さに感動する。
日本刀とは違う両刃の剣。電灯の光に妖艶に反射する刀身にそっと指を添わせ本物の剣を味わう。
ツルツルとしていながら冷たく硬いそれにより興奮し剣唯一の装飾に触ってしまった。
「これ宝石か?異世界の宝石とかどんな──」
触れたのをこの時ばかり公開することは無かった。
指で突いた途端にゴミが付いていたかのように簡単に外れて床へ落下し無惨に砕け散った。
「は?はァァァァァァ!?」
パラパラと足を動かす度に音がなり余計に宝玉は砕けていく。
やばいやばい!もしこのタイミングで目覚めたら弁償しなくちゃいけなくなる!そんな金無いぞ。
いつ少女が目覚めるのか分からないがこのまま悠長にしてていいはずも無い。どうにか形だけでも直さなければいけない。
──は!そうか形だけでも直せばいいんだ。
悪魔の閃が舞い降りた。
すぐさまレジ方向へ駆け出し、レジ前に売られている瞬間接着剤を確保。急ぎスタッフルームへ戻り地面に転がった宝玉の欠片をかき集め形だけを瞬間接着剤で固めていく。
柄のぽっかり空いた部分に瞬間接着剤大量に流し込み、形だけは歪ながらも整えた宝玉偽を押しはめる。
いけいけ!これでくっつけば
心の中で初めて神様に祈りを捧げ、見事祈りは届いたのか剣に宝玉はくっつき表面上は再現出来た。
「は・・・・・・はは、俺ってばやればできるぅぅ」
「うぅ、うーーん」
「ヒョっ目覚めですか」
心臓が飛び出でるかと思った。
修繕直後に少女は意識を取り戻したので声が一瞬裏返るが、剣をゆっくり隠して何事も無かったかのように語りかける。
「貴方は誰ですか?」
「私は遠山真斗と申します。以後お見知り置きを」
「これはご丁寧に私はニーナ・グランデンです。ニーナと呼んでください。えっとーナオトさん?」
「分かりましたニーナさん」
敬語と笑顔の店員スタイルで最初の変態コールは回避し心の中で一先ず安堵する。それでもここからが本番とも言えた。
ニーナは少し辺りを見渡し見たことのない物に驚きを隠せていないようだ。
スタッフルームには店内を監視する七個のカメラ映像がモニターに七分割で映し出されていて、火や魔法ではなく人工の光で部屋中を明るく照らしている。
モニターのある机の反対側にある棚にはダンボールが引き戸代わりに入れられていて、その中に沢山の菓子が詰められている。
バルムの技術力で考えればありえない光景だろう。
「ここは私の店でして」
「お店ですか・・・・・・すみません私なんかがお邪魔をして」
「いえいえ構いません。それに困ってる人は見過ごせませんから」
「優しいですね。私も勇者として貴方を見習わないといけませんね」
勇者・・・・・・あぁーなるほど。これはごっこ遊びの一巻なんだな。それなら簡単に外れて壊れた石も玩具だとすれば納得だ。店前に倒れていたのは遊び疲れたのか。
点と点が繋がるどころか完全に勘違いなのだがまだこの時は彼女という物が何をしでかすのか知る由もなかった。
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