異世界コンビニ転生~転生特典コンビニを選び一〇〇〇億稼いでやる!!~

ゆでむぎ

第一章 コンビニは異世界でも偉大です

第1話 異世界に行っても元気に仕事をしましょう

 東京都内、人々は他人に興味を示さずイヤホンを耳に当て足を進める。通勤ラッシュの七時三〇分なため駅には早足の大人でごった返しているが、少し外れた所にある日本各地に展開してる有名コンビニ店は暇そうにしていた。

 客が全く居ない訳では無いがそれでも駅前店に比べれば少ない。今店内を見回してもいるのは六人程度だ。


「いやーまじで早起きは身体に良いっすね」

「夏休み中生活習慣乱れてただろ」

「それはしゃーないっすよ。なにせゲームは深夜が一番面白いんすから」

「いいねぇ若者は、俺もそんな無茶したいよ」

「今の発言はジジくさいっす店長」


 手元に揚げ物の廃棄時間が書かれた紙を見つつバイトの芥はちゃちゃを入れるようにツッコミを入れる。

 芥の髪色は僅かに茶色がかっていて染めているのは明白だが、店長の俺ががそれを許可して働いている。口調は荒いが接客態度は丁寧で仕事と私情をきっちり分ける最近にしては珍しいタイプの若者のためだ。

 こんな発言をしている俺だが三〇歳とまだまだ肉体的には若者に違いない。


「ほらそんな事を言ってないで仕事しろ」

「うーーす」


 これ以上続けると大人としての尊厳が無くなると感じすぐさま仕事へと意識を向けた。



 なぜ仕事として効率が悪いコンビニなんて仕事をしようと思ったのか。それを考え始めれば始まりは父親の病死だろうか。

 昔ながらの一家の大黒柱に憧れてほとんど毎日仕事に明け暮れていた。お陰で貯蓄は十分あって俺の妹の二人が同時に学校へ通うことも無理はなかった。が、父親も所詮は人間。疲労の蓄積で倒れそのまま風邪を拗らせあっという間にこの世を去った。

 残された母さんがいきなり一人で二人の学費を払える訳もなく、俺が高校を中退しとりあえず近場でコンビニのバイトをする事にした。そしてバイトを始めたコンビニが日本の三大コンビニ店の一つ「ファミリームードマート」略してファムドである。

 他の効率のいい仕事を探しつつ当面の間の資金調達のつもりで始めたのだが、当時の店長に進められ気づけば正社員、店長へとなっていた。

 一度店長になると他の仕事へ着くのもめんどくさくなり辞める事は考えなくなった。


「うーーーん、とりあえず発注は終わりと」


 店長としての数少ない仕事の発注を早々に終わらせ毛伸びをして机に肘をつく。

 視線の先にあるのは店内を写しているモニター達だ。

 通勤ラッシュも終わり次の人員の秋山が来た時点で裏に引っ込み黙々と仕事を終わらせていき、本日最後の仕事が終わったので二人の様子を確認していた。

 ──まぁ問題はないな。それじゃあ

 帰るかという言葉を言い切る前に手短にまとめた荷物を背負い、スタッフルームのスライドドアを動かし店内へ出る。


「おつかれー、後は頼むぞ」

「「はい、お疲れ様です」」


 店長の収益とは勤務時間ではなく売上なので店内に無駄に居ても時間の無駄でしかない。そのため一三時とまだ早い時間だが店を後にする。

 道行く人の多くが家事に追われたり遊び帰りという人ばかりで、仕事帰りなのは俺ぐらいだ。

 そんな小さな愉悦感に浸りながら一歩足を──出した。


「おめでとーうございます!!貴方は選ばれましたよ遠山真斗さん」

「は?」


 いつもの日常はその日壊れて無くなってしまったのだ。



 視界が真っ白に染まったかと思えば突然視界は移り変わる。

 空は一面の星空で太陽ではなく月が空に浮かんでいる。店を出た時刻が一三時だったはずなので、日本では確実にありえない空模様である。

 が、それよりも問題視すべき物が目の前にある。

 それはこの世の美を全て集めたような女性だった。黄金という言葉では表せない艶やかな髪は見るものを虜にして、身体のプロポーションに絶大の自身があるのか胸元は大きく露出し太ももの中腹まで切込みの入っているワンピースを着ている。そんな格好をしているのだ、必然的に胸に目がいくのも仕方がない。見るなと言うのが無理だ。

 胸に目が吸い込まれるように視点が動かなくなり堂々と注視していると、右手で髪をかきあげて視線を上へ向けさせる。


「私は恥ずかしくないから見ててもいいけど、これ以上こんな事で時間を潰して欲しくないの。いいかしら?」

「な、な、な、べ別に胸なんか見てないし!俺はぺっちゃんこの方が好きだし」

「あら残念ね。私の胸触らせてあげようと思ったのに・・・・・・無い方がいいなら」

「──嘘でーす!!めっちゃ好きっすおっぱい!!おっぱいラブ!おっぱいゴッド!おっぱい愛してるーー!!!」

「貴方には羞恥心という物がないのかしら」

「羞恥心があって生きていけると思ってるんですか?自販機の下にお金が落ちてるか覗き込んだり、試食を数回回って腹を満たしたりしてきました。ならばおっぱいを触るために愛を告げるなど安いこと!!この通り頭だって下げますから!!どうか!!!私におっぱいを!!」


 コンビニ仕事歴一〇年以上になれば身につく絶技、音速土下座を披露する。

 足を高速で畳みこんで支えを失った身体が自重で落下する僅かな時間の内に身体を地面と水平にして、両手を前へ差し出して額を地面へ擦り付ける。

 どんなモンスタークレーマーだろうとその必死さにドン引きさせて、有耶無耶にしてきた技だ。デメリットとしてプライドを捨て去る必要があるが、コンビニ業界ではプライドなど足でまといでしかなく勤務数年で犬に食わせたので問題ない。


「分かったわよとりあえず後でね」

「よっしゃー!!!」


 ──勝った!!お風呂入ってくるぅぅ!!

 俺はあのたわわに実った果実に貪る権利を合法的に手に入れた。その勝利の快感は何者にも変え難い。


「まずは」

「おっぱい」

「についてね。ここは」

「おっぱい」

「で、私は」

「おっぱい」

「・・・・・・」

「おっぱい」

「あーーーもう!分かったわよほら触りなさいよ!!これ以上話を遅らせないで」

「いやっほーーう」


 今日、命の尊さを学びました。おっぱいとは人類の宝ですアーメン。


「は・・・・・・ありえない。ありえないわよこんな事」

「いやすみません、おっぱいが目の前にあるのに触らないのは無作法かと思って」

「逆に触る方が無作法よ!!」


 自分で触らせると言って何故ここまで怒ってるのだろうか?また、俺なにかやっちゃいました?

 おっぱいが指を鳴らすとおっぱいと俺の間に一つの机と挟むようにおっぱいが──おっと、椅子が現れた。椅子は自然に後ろ下がり座ることを促している様子で大人しく座る。


「大抵はここに来た瞬間、ここはどこ?やお前は誰だ!!って言う物なのに、おっぱいおっぱい連呼したのは貴方が初めてよ」

「いやー面目次第もございません、はい」

「はぁー、でまずは名乗ろうかしら私は女神シルヴィーよ」


 シルヴィーと名乗る女神は重そうに胸を持ち上げて机の上に置いて気だるそうに答えた。

 触った時も思ったが並のおっぱいの次元ではなく人間離れしていて正に神と崇めてもおかしくない。


「ここは天界よ。あぁ別に貴方が死んだとかそういう訳じゃないから」

「死んでないのに天界?」

「そうよ、無作為に地球の人類をランダムに選んだ結果、貴方みたいな変態が来たというわけ」

「ほほう、シルヴィー様側に私に頼らなければならない事情があるのですね」

「変態のくせに頭の回転は早いのね」


 意外な特徴に関心するがつい少し前の出来事を踏まえれば感情的にはマイナスのまま。


「私達女神は今リーダーを決めようとしてるの」

「リーダー?」

「近年女神の数は無数に増えてきたの。元は日本が原因なんだけど、八百万やおよろずとか言って何でもかんでも神と連想するから増えすぎたのよ。年号を擬人化させてる時点で相当化け物よ日本人」

「それは否定できない」


 俺も擬人化とかには乗り気だがよく良く考えれば他国で年号を擬人化とか聞いたことがない。というより病気や家電とかも擬人化させてる人もいることを踏まえると、国民性が病気なのかもしれないと本気で考えてしまう。

 そんな事はさておき女神のリーダーを決めるために偶然選ばれたという事ならば、これから何かしらのレースをやらされる事になるはずだ。


「で、リーダーを決める方法ってか俺が解放される条件は?」

「ほんとさっきのが無ければ優勝間違いなしと喜べたのに・・・・・・まぁいいわ、その方法だけど異世界にて一〇〇〇億円稼ぐ事よ」

「一〇〇〇億円?異世界なのに?」

「そっち!?普通一〇〇〇億円も稼がなきゃいけない事に驚くべきでしょ」

「稼がなきゃいけないのに何でそれに驚くんだ?ラーメン食べるのに熱いって驚けというようなもんだぞ。おかしな女神様だ」

「理解できない何この人間」


 シルヴィーとしては予想していた反応とは違う反応ばかりするので相当気が参ってる様子だった。

 とはいえよく考えてみれば額で驚かれては稼ぐどころの話ではなく、額より単位を気にするのはやる気に満ち満ちていて申し分ない。


「貴方の危惧通り単位は円ではなくガルドよ。単純に言えば一〇〇〇億ガルド集めてという事ね。ちなみに稼いだ一〇〇〇億ガルドは円に直して、地球に持って帰れるわ。けど優勝する事が前提だけどね。」


 獲得した金を現実世界に持って行けるそれも大金となれば、妹の養育費は簡単に賄えるし母さんが親父と同じ運命を辿らなくて済む。俄然やる気が出てきた。


「なるほどな。こういう事に詳しくないので分からないのだが、具体的な方法は何がある?」

「そうねそれにはまず転生特典について説明するべきね。転生するに当たり私達女神から一つだけ恩恵を授けるの。例えば無限の魔力や全魔法適正なんかね。それを用いて冒険者になって魔物を殺しお金を得るのが基本よ。分からないならとりあえず冒険」

「──却下だ。冒険者なんて物にはならない」

「ちょっ、どうしてよ」


 予想を超える返答ではあったが否定される事は無かったので初めての否定に声を上げる。


「簡単だ。話を聞いた限り冒険者は魔物を殺すのだろ?なら、稼ぎのいい魔物を狩るにはそれだけ危険が付きまとう。その純利益が少ない」

「純利益?」

「魔物を狩るにはある程度の防具が必要で戦闘で傷つけばメンテナンスをする、これは武器も同じで固定費用だろう。当然怪我をすればその間の仕事の利益はゼロ、ゲームのように治療薬的なのがあるとしてもそれを常時一定量確保しておかなければ命の危険だ。そこから宿泊代、食事代を算出するとなるとさらなる出費でまともに利益を得られない。その日暮らしが限度だな。これがレースだとするならこれではダメだ、それ以外の危険の少なく稼げるものでは無いと」


 シルヴィーは言葉を失った。

 それは真斗が変態すぎるからではなくもう既に稼ぐ方針を固めていた事だ。過去にも何度か転生は経験しているが、その全てが冒険者になるためのチートを貰ってすぐに出発だけだった。別にそれに異を唱えるつもりはなく異世界では定番だからそれでいいだろうと思考を止めていた。

 それがどうだおっぱい狂の変態生ゴミは定番では勝てないと早々に決断し、冒険者ではない別の仕事をしようとしている。


(これは勝てるかもしれない)

「聞きたいことがある。その異世界の生活水準について知りたい」

「そうね行く前に情報を得るのは良いことよそれじゃあ、バルムと地球の相互点から語るわ。大きく違うのは魔法がある事と階級制度が続いてる事。もちろん化学もあるのだけど、進歩しているのは魔法の方で魔法を扱う事に長けている貴族が力を誇示してしまうのは仕方がないの。それによって貧富の差がより激しいわね」

「貴族じゃない市民側はどれぐらいの生活をしてる?」

「平均月一二万ガルドで一人が生活できるぐらいだから、二人家族なら消耗品や必需品が共通になって二〇万ガルドそこそこかしらね」


 日本より低いとは思うがお金が無くて貧乏という状況ではなく、毎日を不自由なくおくれる程度には安定しているようだ。となれば冒険者より稼げるのは物品販売、それも貴族ではなく市民に向けた物だろう。

 そうすると今まで生きてきた三〇年を活用できるような商業は一つしかない。


「シルヴィー様特典を決めた」

「どんな物かしら?」

「コンビニをくれ!!」


 日常は崩壊したが異世界で一からコンビニを経営する門出の日となった。

 目指せ一〇〇〇億円!!!地球に帰って豪遊だ!


──────────────

この度投稿をする運びとなりました。

正直今までは見る専だったのですが、近年稀に見る暇さに新たな楽しみを見出そうと足掻いた結果このようになりました。


構想時点のふわふわだった物が、明確に小説となるのは心のワクワクを止められませんね。

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