115話「迎撃戦決着」
脳のリミッターの解除率を、今の500%から1000%へとさらに外す。
「ま、これくらいで行けんだろ」
漲ってくる力を手で掴み、足で捉える。掴んでいる「これ」を…捉えている「これ」を、奴に全部ぶつけてやるよ。
「こっちはもういいぜ。来いよ」
そう言葉をかけるがミノウは何も応えない。
「………死ネ」
ただ殺意を込めた言葉だけを呟いてから、全ての触手を同時に動員させる。四方八方から一斉に極太の「魔力光線」が飛んでくる。
「せぇーーーのっ!!」
向かい来る四つの光線をギリギリまで引き付け、一点になりかけたところで俺の攻撃を放った。
“
諸手突きを放つと同時に、その両手に込めていた嵐属性と重力属性の魔力を全開で放った。さらに諸手突きを繰り出す際に「連繋稼働」も発動していたから威力は通常の数十倍だ。
その結果、何もかもを破壊する最強の衝撃波が完成した。
属性魔力を纏った状態での武術。その技術をさらにものにしている。精度も威力も以前よりさらに強化されている。
しかし、「魔力光線」の攻撃はこれで終わりではない。すぐさま第二波がとんできた。百近くもある触手があるんだ。一回で終わるわけないよな。
「分かってた。だから、対応できる!」
さっきと同じようにギリギリ引き付けて、一点になったところであらかじめ溜めておいた属性武撃を、再び繰り出した。
「波ぁ!!」
ドン!!
第二波となる光線の束を同じように消し飛ばす。
さらにまた、第三波がくる。俺もまた同じ技を繰り出す。
「波っ!!」
威力は全く同じ、正面から光線の束を力で打ち破る。
まだくる、第四波だ――同じように破る。第五波も――――破る。
(ゾンビだから、魔力が無限なんだ。だから無限に魔力を熾せる、纏える、撃てる!)
第六波、第七波、第八波……何度来ようと同じ諸手突き&衝撃波の合わせ技で悉くぶち破ってやった。
そしてようやく「魔力光線」の嵐が途切れた隙をすかさず突いて一気に駆け出し、眼前に生えている触手二十本程を、「身体武装硬化」でつくりあげた刀で一気に切断して殺す。
それでもまだまだ大量に残っている触手どもは、ミノウ本体のところへ向かい、奴に取り込まれていく。
取り込まれていくことでミノウの体に異変が生じる。だんだん巨大化していき、気が付けばSランクモンストールすら踏み潰す程の超巨大な化け物と化した。
「あ~~……テメーらの世界じゃ知らないことなんだろうけど。
戦いの終盤で巨大化するのは………」
俺の発言を待たずにミノウは爆音のような咆哮を響かせながら、超巨大な両手をハンマーのように固めて振り下ろしてきたから、俺は話すのを中断して武の構えをとる。
迫りくる振り下ろしの一撃を、躱すことも防ぐこともしない。
受ける―――!
ド……ッ
頭で受けて――
(いくぜ―――)
全身の筋骨のフル稼働を開始する!打ち込まれた瞬間、前方へ体を回転。その間受けた攻撃のダメージエネルギーを、頭→首→胸→腹・背→腰→左脚→左足へとパスしていく。
ミノウにくらわされた振り下ろしの一撃のダメージエネルギーは今、左足に全て集まっている。加えて自身のパワーも乗せて、全身全霊を込めた
「―――負けフラグなんだよ!」
ゴキャアアッッッ!!
耳を劈く破砕音が鳴り響く中、振り下ろしてきたミノウの両腕が粉々に砕けて壊れていた。
『ギャアアアアアアッ!!』
腕を破壊されたのがよほど痛かったらしくミノウは断末魔の叫びを上げる。
何はともあれカウンター技成功せり…だ。
「そういやこの技に名前はまだなかったっけ。そうだな……」
苦悶の絶叫を上げているミノウの前で、保留にしていたカウンター技の名前を今決めることにする。名は……
「――“
中国に伝わる四神の霊獣の名を使わせてもらう。技名ってのは自分が分かりさせすれば良い。わざわざ他人・敵に内容を予測させるような技名はつけない方が良い。「玄武」ならどんな技なのか誰にも予測されないからちょうどいい。あと何か響きも良いし。
「さて……仕上げといこうか」
見上げるとミノウが跳躍して、全身を使った捨て身のタックルを仕掛けようとしている。全身には全て熾したであろう魔力をしっかり纏わせている。
もしこれを避けたなら、アレンたちがいる亜人族の里をも壊滅させてしまうだろうな。たぶん大陸の10分の1近くが吹き飛ぶ威力だ。
だから今度は真正面から迎え撃つ。こっちも、全身を武器としたタックルで勝負する!
前傾姿勢を取り、自身の腕を胴体全体に巻き付けていく。ゾンビなので腕の可動域を無理矢理引き延ばしてガッチリと巻き付ける。さらに全身を雑巾のようにギュ~~~~~~っと捻じっていく。
その状態のまま力を最大限まで溜めて…一気に解き放つ!
―――ドキュウウウウウゥ!!
飛び出した瞬間、ライフル銃の発砲音のような音が出た。いや、今の俺は、本当に一発の弾丸となっている。俺自身が弾となって放たれているのだ。
速度は光の速さの約4分の1。威力は何でも貫通し撃ち抜く!
必殺のジャイロ回転突進。名は―――
“
――――ズ……ドッッッッッッ!!!
両者がぶつかり、拮抗したのはほんの一瞬だった。俺が競り勝ってミノウの頭を貫通していく。感触からして脳を完全に貫いたようだ。
「………ア”ッ、カ――――ッ」
ミノウは糸が切れた人形のように落下し、受け身も取ることなく地に落ちた。直後、奴の体が連鎖式に爆発した。多分だけど…熾した魔力が暴走してボン!ってなったんだろうな。よく分からないが。
「白虎」。またも中国の霊獣の名を使わせてもらった。虎の如く獲物に向かって猛然と突撃する……って感じだ。
空中で浮きながらミノウの状態を確認する。連鎖式の爆発が終わり、奴の全身は黒焦げになっていた。頭からは血と脳漿?(リアルで見たことないから分からん)らしきものが絶え間なく漏れ出ている。しばらく見つめるがピクリとも動かない。勝負あったと見て良いな。
重力を解いて地面に降り立ったところで、ミノウの体が縮んで元の体型へと戻る。奴が倒れている地には奴の血と頭の中身が溢れていてグロいことになっている。さすがの俺も引く光景だ…。
「………こ、ん……な。ば、か…な。こ……と、が………」
俺が近づいていくる気配を察したのか、というかまだ生きていたミノウが掠れた声で喋る。
「やっぱり、大したことなかったなテメー。分裂体ザイートみたいな苦戦を予想してたけど、拍子抜けだったわ」
戦いに敗れて今にも死にそうな戦士に、俺は容赦の無い言葉を、相手を貶める発言を投げつける。まあ世界を滅ぼそうと考えてるロクでもない連中だから、別に構わないよな。
「さ……い、ごに……笑う、のは…………われ、ら……魔人族―――」
遺言を聞く気のない俺は、死に絶える前にミノウの肉を喰らう。
これにて魔人族ミノウを討伐。Ⅹランクだけあってレベルがまた上がった。
「
「魔人族……こんなもんじゃないよなぁきっと………」
今回戦った魔人は、ドラグニアで遭遇した分裂体ザイート…ではなく、もう一人いたあの魔人と同レベルだった。Ⅹランクになったばかりの出来損ない……と言ったところか。
まあ俺やザイートレベルからみた評価であって、今のアレンたちにとってはあんな奴でも世界を脅かす災厄に等しいんだろうな。
「………この世界で魔人族とまともに戦える奴って、もしかしたら俺だけなのだろうか。だとするなら……」
――それ以上のことを口に出すのは止めた。とりあえず思うことは、この世界の敵はこの世界で生きてる人間たちが倒すべきだってことだ。
まあ、そいつらが俺やアレンたちに牙を向けるってんなら、出しゃばって戦ってやるけどな―――
*
「瞬神速」で里へすぐに戻った。ここに来たばかりの頃と比べて、里は壊滅状態となっていた。ハーベスタン王国の時のようなモンストールの群れに侵略されてしまったようだな。
けれども…家や集落は無残な形となっているに対し、人の死体は一つも見当たらない。どうやら亜人たちは上手くやれているようだ。もちろんアレンたちも。
で、そのアレンたちだが、今まさに戦闘中だ。彼女たちからはまだ離れたところにいるが、ここからでも見えるくらいデカいモンストールが暴れているのが分かる(サイズからしてSランクだろうな)。
入ってやった方が良いか……
「いや、どうやら必要無いみたいだ」
さらに近づいて目にした光景は――
“
“亜人剣術奥義”
アレンが金剛力士の構えから繰り出す全身全霊の一撃を、
亜人のダンクが大地魔法で倍の大きさに変えた鋼の大剣による必殺の一太刀を、
「はっっっ!!」
「ぬぅんッッッ!!」
二人揃って同じタイミングでモンストールにくらわせているところだった。
最強の武と剣の一撃を同時にくらったモンストールは、打ち上げられた直後全身が爆ぜて、木端微塵になって死んだ。
アレンとダンクは「限定進化」を解いて、その場に倒れた。
「………助けられた。礼を、言う」
「ん………」
よほど疲弊しているせいか、二人の口数はそれきりだった。ここからじゃよくは見えないが、二人とも……お互いを讃え合っている、そんな気がした。
センたち鬼族と亜人たちがそれぞれ歓声を上げている光景を目にしたところで、俺はアレンのところへ降り立った。
「コウガ…………」
疲れ切って座り込んでいるアレンの肩に手を置いて労う。
「コウガも、終わったんだね」
「おう。楽勝だったぜ」
少し笑って言うとアレンは歯を少し見せて可愛らしく笑った。
これにて、モンストール群れおよび魔人族との戦いは幕を閉じた。
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