114話「戦闘力は分裂体以下だ」
「グ、ウ……ッ」
巨大な闘牛モンストールのタックルを、大剣と自身の体で受け止めるダンク。彼の後ろにはソーンがいる。
ダンクはその身を盾にして彼女を庇ったのだ。
「な……!?」
「うそ……」
キシリトとスーロンが信じられないと言わんばかりの表情でダンクを見る。
「な……んで………」
ソーンは見開き切った目でダンクの背を凝視する。しかしすぐに我に返りダンクを抱えて「神速」でモンストールの射程圏内から離れる。
「大丈夫だ、一人で立てる」
ソーンに降ろしてもらいダンクは地に立つ。その頭からは血がまだ流れている。
「あ、あんた……」
ソーンは戸惑いの感情をあらわにしてダンクに話しかける。ダンクは懐からタオルを取り出して頭の血を拭き取る。
「………かつて、俺はお前の仲間によって窮地から救われた。結果その鬼は命を落とした。
俺は、その恩返しをずっとしたかったんだ…。それが今だっただけの話だ」
ダンクが話したのはかつて同じような迎撃戦が起きた時に、危機に瀕したダンクをスーロンたちの仲間が救い、その者は命を落としたというものだった。
彼は命を救ってくれた恩人に何も返してあげられないまま死なせてしまったことを悔いていたのだ。あの日から今日に至る時までずっと…。
今のダンクは排斥派を名乗った頃とは違う。鬼族を恨み憎む亜人ではなくなったのだ。
「………こんなので、あんたがしたことを赦すだなんて思わないでよ?た、助かったのは事実だけど…」
「ああ、赦さなくても良い。俺がしたくてやったことだからな。
それと……あのモンストールを討伐したい、力を貸してくれ!」
頭にタオルを鉢巻のように巻いて止血したダンクは、その存在感を大きくさせて大剣をモンストールに向ける。続いて亜人戦士たちもダンクの後ろに立ち勢いづく。
さらにダンクの隣にアレンが並び立つ。
「行くよ、私たち鬼族とあなたたち亜人族とでアレを殺す」
「ああ!」
二人のリーダーが並び立ち、共に敵を討たんとする姿勢を見た鬼たちと亜人たちは大いに沸き立ち奮闘せんと活気づいた。
(うん。これなら、大丈夫!)
美羽は後ろから両族が共闘しようとするのを見て感動し目を潤ませていた。
(こっちはもう大丈夫。甲斐田君も、大丈夫だよね、きっと。信じてるから)
そしてここにはいないもう一人の仲間に向けて、心の中で信頼の言葉を送った。
*
アレンたちと美羽、亜人族たちがいるところから遠く離れた地帯―――
「くそっ、くそクソクソ……!!」
魔人族の男、ミノウが性懲りなく何本もの触手から魔法攻撃を撃ってくる。
「くそを連呼とか、汚い奴だなー」
苛立ってる様子のミノウに対し、初めからずっと無表情を貫いている俺は、嵐魔法と重力魔法(斥力)を複合させて全ての魔法攻撃を楽々弾いて吹き飛ばす。
「が、なぁああ……!」
ミノウは既に「限定進化」を発動して大幅に強化されている。魔法攻撃の威力はSランクモンストールも簡単に滅ぼせるレベル。
進化した触手による物理攻撃は同じくSランクの奴らを殴り殺せるレベル。
アレンたちや藤原ならとっくに殺されてただろう。誰も奴には勝てないだろう。
が、相手が悪かったな。俺はそうはならない。
「この程度じゃ俺は殺れない」
人差し指をチッチッと振って挑発するとミノウはまたキレて、間合いを詰めにかかる。背中や地面から生えている触手が奴にまとわりつき鎧へと変貌する。
「ぐちゃぐちゃにしてやるッッ!!」
殺意がこもった拳と蹴りが音速超えの速度で繰り出される。
「はいはい」
「複眼」全て見切ってるから簡単に弾き、防ぎ、躱してみせる。そしてカウンターパンチ・キックを見舞ってやり逆にぶっ飛ばしてやる。
「ぐふァ…!こんな馬鹿なことがっ!?」
腹に数発カウンターが入ったミノウはとうとう狼狽する。進化してからも攻撃が全く通じないことに怒り、動揺している。
「魔人族だぞ……世界を支配する最強の魔族なんだぞ!無敵の力を得たこの俺が、同胞のなり損ないのガキなんかにィイイ!!」
絶叫しながら再度突っ込んでくる。飛んでくる拳に合わせてこっちも拳技を繰り出す。
“
ゴッッッ 「ごぉえ!?」
いいところに拳が入り、ミノウは吐血して吹っ飛ぶ。しかし吹っ飛びながらも地面から飛び出した触手から「魔力光線」を撃つという反撃に出た。
まあこっちも「魔力光線」で難無く相殺したけど。
「………魔人族が出てきたってんで、ドラグニアの時みたいなヤバい奴と戦うのか…って思ってたけど、とんだ買い被りだったな」
溜息ついて愚痴を漏らす。体勢を立て直したミノウは大きな触手を生やしてそこから高魔力がこもった複合魔法を一斉に放つ。
“
“
左から真っ黒い炎の砲撃、右から隕石を思わせる闇色の雷の塊が飛んでくる。
“極大魔力光線”×2
左に水属性純度100%の「魔力光線」、右に嵐属性純度100%の「魔力光線」をそれぞれ片手で放つ。両方とも消し飛ばしてやる。
「おらアアアアア!!」
さらに攻撃が飛んでくる。巨大な触手そのものが武器となり、俺目がけて振り下ろされる。
“
魔力を纏った鋼の巨大な鞭(触手)を俺は、
“
――チュドッッッッッッ
「
「ク、オオオオオオ………ッ」
自身の本気であろう攻撃を続けさまに破られて平静さがすっかりなくなった様子のミノウに、俺はゆっくり近づく。
「はっきり言うけどさ、テメーは――」
「瞬神速」でミノウに急接近して、奴の腹を蹴ってぶっ飛ばす」
「げぁ…!」
ふらつくミノウとの距離をまた詰める。
「テメーの戦闘力は、ドラグニアで遭遇した分裂体のザイート以下だ。俺の敵じゃねぇ。話にならねぇ」
この発言を聞いたミノウが目に憤怒を湛えて怒声を上げる。
「この俺が……話に、ならないだと…!?」
「そう言ってんだよ。というかテメーも薄々気付いてんだろ、格が違うって」
「ふざ、けるなぁ!!魔人族であるこの俺が、魔人族でない貴様に劣るなどあってはならない!!俺が、上だぁ!!」
「あーあ。もう完全に冷静じゃなくなってんじゃねーか。図星も突かれてさー」
「黙れ!!それに貴様、ザイート様の名を言ったか!?貴様が何故あの方の名を語る!?」
「知らないんだ?俺は以前ドラグニアで奴の分裂体と戦った。そして退けた」
「馬鹿、な……分裂体とはいえこの世界の頂点に君臨されるザイート様が、こんなガキに!?」
ミノウはさらに狼狽する。さっきと同じくらい巨大な触手を生やして物理攻撃を仕掛けてきたので、今まで習ってきた武術を駆使していなしていく。
「この俺でも、分裂体のザイート様には敵わないのだぞ!?貴様があの方を退けただと!?信じられるか!!」
「うるせーなさっきから。俺が言ったことが事実かどうかの証明はもうできてると思うんだが?この状況がその証拠だ。
テメーが勝てなかった相手を退けた実績を持つ俺が、テメーをこうして追い詰めてる。まあそういうことだ」
ミノウはとうとう喋らなくなる。俺が言ったことが正しいと認めたも同然。分かりやすいくらい怒りに震え、全身から怒りの熱や殺気が湧き出ているように見える。
そしてその感情を行動に移しに出た。奴の全身から魔力がバチバチと湧き、百にも及ぶ数の巨大な触手が奴の周囲から一斉に出現する。どの触手も濃密な魔力が宿っている。
「殺す……ブチ殺ス…!!」
どう見てもこれから自身の全てを出しにかかるのだろう。奴の本気の全てだ。
「じゃあ、ケリつけてやるか」
俺もそこそこの本気を出して、迎え撃つことにする。
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