113話「鬼と亜人」
排斥派亜人族の里は既に半分近くモンストールに侵食されている。しかしそのモンストールは既に半分以上狩り尽くされている。
スーロンら隷属中の鬼族組、ダンク・美羽組、アレンら旅の鬼族組による活躍のお陰である。
しかしそれでも敵の数の力は凄まじいもので、主戦力であるダンクや美羽、鬼族たちにも疲労が重くのしかかってきていた。
「………フジワラミワ、大丈夫か?」
「はぁー、はぁー……!ごめんなさい、下がります!」
「限定進化」状態で連戦を続けているダンクは、同じく連戦に臨んでいる美羽を気遣う。その美羽は「限定強化」を解いてしまい、疲労困憊に陥っている。この特殊技能を発現してから日はまだ浅い故に、コントロールと維持がまだ未熟である。ダンクと違って長時間戦うことが出来ずにいる美羽は、止む無く後退して自製の回復ポーションを摂取する。
(ダメね……前回の戦いも体力切れがすぐにきてしまって足を引っ張ってしまった。今回は連戦続きが増えてるから、維持しないといけないのに……)
美羽は「限定強化」の維持時間の延長という課題を達成出来ずにいる。その結果ダンクたちに後れを取ることになってしまっている。
(“限定強化”出来るのは次の一回がラスト…。維持出来る時間は……3分程度が限界…)
強化状態の活動限界を予測した美羽は覚悟を決めて再び「限定強化」を発動する。
「お待たせしました!魔法攻撃を撃ちます!」
ダンクの隣に立ち、魔法杖を眼前の敵……顔がいくつも生えている巨人のモンストール(Sランク)に向ける。その全長は25mにも及ぶ。
Gランクモンストールの群れを討伐した直後に現れたこのモンストールに、美羽たちは苦戦を強いられている。Sランクの敵一体につき兵士団の大半を総動員せざるを得ないというのがこの世界では当たり前とされている。それが大げさでなく真実であることであると美羽は痛感している。
(大丈夫。私の力はSランクにも届いてる。前回の戦いで証明してる!)
自身を鼓舞して気分を高める。そして全力を込めて魔法攻撃を放つ。
“コルド・フレア”
青い炎に包まれた氷の巨砲弾が放たれる。炎も絶対零度の氷となっている。さらには「聖水」も込められているのでモンストールに対する威力は絶大だ。
巨人のモンストールは自慢としている巨大な腕を武器に氷の巨弾を砕きにかかる。
双方が激突するとしばらく拮抗した後、モンストールの腕に異変が生じる。「聖水」が付与された氷が腕を侵食して凍傷、そして破壊したのだ。モンストールの左腕は凍り付き、肘から先が崩れ落ちた。
モンストールは自身に起こったことを理解すると絶叫し、その顔を怒りで歪めた。
(今までのモンストールとはどこか違う。あんな顔をするモンストールは初めて見るわ…)
美羽は油断なく次の攻撃に移る。しかし巨人のモンストールに気を取られていたせいで、他のモンストールが彼女自身に迫っていたことに気づくのが遅れる。
「フジワラミワ!左右から来るぞ!」
「っ!しまっ……」
上位レベルのモンストールが一斉に襲い掛かってくる。亜人戦士たちが何体かを止めるがそれでも数体が美羽に爪や牙、「魔力光線」を飛ばしてくる。「限定強化」状態とはいえ上位レベルの不意討ちをくらえばただでは済まない。すぐに「回復」出来るようくらう覚悟を決める。
“
ドドドドドドドドドッ
窮地に立たされていた美羽の目の前にアレンが降り立ち、渾身のラッシュ技を打ち放った。モンストールたちは突然の拳の雨に対応出来ずモロにくらい吹っ飛んでいく。
「あ、ありがとうアレンちゃん」
「ん。残りの敵も早く全滅させるよ」
アレンはそう言って目の前にいるモンストールたちを殴り蹴って瞬殺していく。今のアレンは上位レベルの敵など相手にならないくらい強くなっている。センやルマンドたちの猛攻もあってあっという間に上位レベルモンストールは全滅した。
「凄い……」
美羽はアレンたちの活躍に思わず見とれていたがすぐに気を持ち直して巨人モンストールに向き合う。
「あれもSランクなんだ。さっきのより手強そう」
「何?お前たちSランクモンストールを討伐してきたのか!?」
「うん、5人でかかれば勝てる」
アレンたちの返答にダンクは思わず反応してしまう。
「………大した連中だ。鬼族、やはりお前たちは……いや、それよりも、助力を頼めるか」
「…………分かった」
ダンクの要請にアレンは承諾して「限定進化」を発動する。ダンクと同時に飛び出して巨人モンストールと正面から戦う。
「Gランクどもは私たちがやるわ!ミワはアレンたちと一緒に!」
センの素早い指示を聞いた美羽はその通りに動く。今度は不意を突かれまいと周囲を警戒しながら巨人モンストールに魔法攻撃を放つ体勢に入る。
“
“亜人族剣術”――
アレンが蹴りでの激しい連撃を、ダンクが鋼鉄を纏った大剣で亜人族の剣術を存分に繰り出す。両者の本気の攻撃が同時にきたことに巨人モンストールはどちらを処理すべきか対応に追い付かず。咄嗟に防御の構えをとるが焼け石に水だった。
一撃一撃が磨き上げられた鋭い槍の如く貫通力をもつ蹴りの連打はモンストールの 肉を穿ちまくり、鋼の硬度と世界最高レベルの切れ味を誇る大剣による斬撃はモンストールの肉を切り落とし削いでいく。
重なり続ける激痛の嵐にモンストールは耐え切れず防御を解く。そして跳び上がりからの、捨て身の全身プレスを仕掛ける。いくつもの顔が飛び出してアレンとダンクを捕食するつもりでもいる。そんなモンストールに対し、アレンとダンクは後ろへ退く。逃がさんとばかりにモンストールは二人に狙いを定めるが、その目線の先には別の者が魔法攻撃を放つ体勢にいた。
「「今っ!!」」
「はい!!―――」
二人の合図を受けた美羽は魔力を最大限に込めて魔法攻撃を放つ。
“プロメテウスの火”
神話になぞらえた名をつけた美羽が持つ最大の炎熱魔法。彼女の魔法杖から放たれた炎はまるで太陽そのもの。超巨大な豪火球は落ちてくる巨人モンストールをも呑み込み、そのまま跡形残さず消滅させた。
「「「「「……………………」」」」」
その有様を目にした亜人たちは茫然自失となった。ダンクも、センたちですら驚いていた。アレンだけは満足げに頷いていた。
「ひ……人族の戦士が到達できるレベルなのか?あれって…」
「でも実際に見てしまったしなぁ、あんな巨大な化け物を一撃で…」
「ミワが本気出したらあそこまでやれるんだねぇ。正直たまげたわ…」
「ん、さすがコウガの先生なだけある」
「彼女は先生なのか……」
アレンたちとダンクたちが口々に評価する中、美羽は「限定強化」を解いて膝をついて激しい息切れをおこしていた。
「――っ!は、あぁ……。モンストールを消せたのは……“聖水”を火に込めてたから…それも、膨大な量を……。だから、魔力がもう完全に、底をついちゃった…。さ、さすがにもうこれ以上、は……」
魔法杖を支えによろよろと立ち上がる美羽の足は震えまくっている。それを見たアレンは彼女のリタイアを受け入れる。
「ここで休んでて。けど、体力と魔力が少しでも戻ったら、“回復”してほしい」
「わ、分かったわ…。ごめんなさい、後は……お願いします……」
息を切らしながら美羽はアレンたちに後を託す。ダンクも美羽に敬意の視線を向けてから残りのモンストールの掃討にかかる。
Gランクモンストールも全て討伐してようやく迎撃戦も終わりを迎えたかと思えたが、ここに迫りくる新たな敵の気配を感知した。
その正体がモンストールであると皆すぐに理解する。それも、
「またSランクモンストールか…!」
数十mもの体躯を持つ巨大な化け物。その見た目は鰐の顎を持ち、筋骨隆々の猛牛の巨躯を持った合成獣だ。
そのモンストールに対し後退しながらも戦っている者たちがいる。
「スーロンたちよ、あれ!」
「押されてるな。3人だけじゃ無理な相手だ、Sランクというのは」
「あれ…かなりまずいかも、早く加勢しに行こ――」
スーロンたちのピンチを察したアレンがセンたちに呼び掛けて出ようとしたその時、彼女たちよりも早く飛び出した者がいた。
「え―――?」
その直後、モンストールがソーン目がけて闘牛の突進を思わせる殺人タックルをくらわせに出た。今の彼女の防御力ではタックルに耐えられない。今の彼女の攻撃力では相殺することも弾くことも無理に等しい。
スーロンとキシリトが割って入ろうとしてるが間に合わない。覚悟を決めた様子のスーロンは目を瞑り「絶牢」を発動する。自身の体が無事で済まないことは承知。くらった直後「吸血」で少しでも回復を、と考えるソーン。
しかし、そんなソーンの覚悟は、空振りに終わることとなる。
ガイィン!!
「………え?」
ソーンの目の前には、モンストールのタックルを大剣で受け止めて、頭から血を流しているダンクの姿があった。
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