112話「sideアレン」


 ハーベスタン王国の時同様、アレン・セン・ガーデル・ギルス・ルマンドといったパーティで戦いに臨んでいる。


 「また、このメンバーでSランクモンストールと戦うことになったね」

 「そうだな。前は苦戦したよな。初めてだったから」

 「でも今なら…」

 「うん。5人揃った私たちは、Sランクの敵も余裕よ!」


 彼女たちが敵対する相手は、体長が10数mある巨大な怪獣型のモンストールだ。ひと月程前のアレンたちではまだ勝てないレベルの敵だ。

 しかし今の彼女たちは全く動じることはない。「どう立ち回れば楽に勝てるか」と、既に勝つ前提で思考する余裕まであるくらいだ。


 「みんな、進化して……行くよ」


 アレンの号令に4人とも応えて、一斉に「限定進化」を発動する。

 ハーベスタン王国での戦いを経たことで5人の戦闘力はさらに上昇している。彼女たちにその気があるなら大国の兵士団を半壊もしくは壊滅寸前にまで追い込める程の力はある。


 モンストールもその力を感じたらしく、魔力を全力で熾して本気の攻撃を放つ準備をする。


 “悪鬼の口腔デビル・ゲート


 先手を取ったのはギルスだ。得意の暗黒魔法を発動し、悪魔を思わせる巨鬼の口が現れる。大口を開ければモンストールの半身以上を飲み込める程のサイズとなり、嚙み砕きにかかる。

 モンストールは4本ある腕で巨鬼の上の歯と下の歯をそれぞれ掴んで押し止める。力は拮抗しておりギルスの魔法攻撃は失敗に終わる。

 

 「足止めありがとギルス!ガーデル、合わせるよ!」


 モンストールの真上からセンとガーデルが飛び出してモンストールに狙いを定める。


 「うん!せーのっ」


 「「――――――っ!!」」


 二人は同時に「咆哮」をモンストールに浴びせる。その数秒後モンストールに異変が生じる。誰もいないところや空に向かって魔法攻撃をでたらめに撃ちまくる。さらには唸り声も上げて暴れまわる。

 二人が放った「咆哮」には「幻術」が組み込まれており、二人の声を聞いた時点で幻術に嵌まってしまったのだ。

 

 「二人分の幻術をくらったから、立ち直るのにしばらく時間がかかるでしょうね」

 「というわけだから、強力な一撃、頼むわね!」


 二人は次の攻撃を仕掛けに出た二人に声をかける。モンストールの真上に一人、正面に一人。


 “神通力”

 

 真上からはルマンドが超能力による渦状の魔力波動を撃ち出す。


 “雷撃拳らいげきけん


 正面からはアレンが雷の魔力を込めた拳術を繰り出す。ルマンドの「神通力」はモンストールの頭から全身まで全てを蹂躙し、アレンの拳は胴体の急所部分を正確に打ち抜いた。

 特にアレンの拳は自身の数倍のサイズの敵をぶっ飛ばす威力を発揮した。


 「凄い、また力が増してる」


 味方であるセンたちも驚嘆していた。

 「幻術」が解けたモンストールは5人を捉えて殺意を乗せた魔法攻撃を次々に放つ。炎と風を混ぜて爆炎を放ち、水と土を混ぜて巨大な礫が混じった水の放射線を時間差で撃ってくる。


 「炎は俺が!水は任せる!」


 先に迫りくる爆炎の巨球にギルスが立ち向かい、両手から複合魔法を放つ。


 “ハイドロン・スパーク”


 水と雷が混じった砲撃。放電状態の水砲がモンストールの爆炎を撃ち抜く。さらには内側から水に纏っていた雷も炎を破っていく。大爆発が起こりモンストールの爆炎は消えて無くなった。同時にギルスは後ろへ下がる。入れ替わるようにしてルマンドが前に立つ。

 直後爆発の煙を水の放射線がかき消し、ルマンドに迫りくる。


 「私の番ね――」


 ルマンドは右手をかざし、ありったけの魔力を熾して収束した極太の光線を放つ。光線はモンストールの水を蒸発させ水に混じっている礫も消滅していく。


 「………魔力を使った戦いなら、ルマンドの右に出る者はいないわ」


 センの呟きにガーデルとギルスも同意する。その言葉通り、ルマンドの光線が水の放射線を消し飛ばし、そのままモンストールをも撃ち抜いた。

 しかし威力が落ちていたので仕留めるには至らない。モンストールは今度は自身の肉体を武器にして5人に迫りだす。


 「近接戦に出たわね。なら今度は私たちの番!」


 センとガーデル、そしてアレンがモンストールに立ち向かう。

 モンストールが両腕を振り上げて勢いよく叩きつけに出る。


 「私は右を!」

 「じゃあ左ね!」


 センは右腕を、ガーデルは左腕を受け持ち、同時に武撃を繰り出す。


 “弩蹴撃どしゅうげき

 “破砕斧はさいふ


 二人とも全体重と魔力を乗せた渾身の蹴りを腕目がけて放つ。蹴りの威力は腕の倍以上を持つ。モンストールに対しても例外に漏れず、モンストールの両腕が上へ勢いよく打ち上げられた。

 バンザイ状態となり隙を晒したモンストールの顔面に、飛び上がったアレンが雷を纏った渾身の蹴りを繰り出す。


 “雷撃蹴らいげきげり”


 ――チュドッッッバリィイイイ…!


 顔面の急所…人中につま先蹴りが炸裂。さらには雷による衝撃も顔面に多段ヒットする。その威力は凄まじく、数倍の対格差があるモンストールを大きく退けた。

 

 「………頑丈。まだ倒せない」


 着地したアレンは深呼吸して構えをとる。渾身の一撃をしっかり叩き込んだにも関わらず倒れるどころか瀕死にすらならないことに落胆もしている。


 「一気にいくよ!」


 アレンは4人に掛け声をかけて、センとガーデルとともに猛攻に出た。モンストールは両腕両足、牙を武器に迎え撃った。

 アレン一人の力では今はSランクの敵に正面からはまだ敵わない。なので攻撃する時は常にセンとガーデルと合わせて同時に武撃を放った。3人合わさった火力はSランク敵を凌ぐ。

 さらにはルマンドとギルスが合わさった魔法攻撃の火力もSランクを超えるものだった。

 3人と2人。武術と魔法攻撃。両方ともSランクを倒せるだけの火力を有するレベルに達したアレンたちは、討伐するなら兵士数百人は必要とされるSランクモンストールを今では5人で追いつめている形となっていた。


 ――

 ―――

 ――――


 そして戦いは終局を迎える。


 「はぁ、はぁ、はぁ……」

 「ふーーっ」

 「ふぅ、はぁ……」

 「ぜーはー…」

 「………っ」


 「限定進化」は名前のとおり限定された時間の中で形態が変わり大幅に強くなれることを言う。ただしそれを維持出来るのも限定的で、維持するにはかなりの体力を要される。

 Sランクモンストール一体と5分程戦い続けたアレンたちには疲労の色が濃く出ていた。

 しかしその甲斐もあり、Sランクモンストールをようやく討伐寸前まで追いつめていた。


 “神通力 金縛り”

 

 ルマンドの「神通力」でモンストールの動きを数秒間完全に封じる。その数秒でアレンたちが止めを刺しに向かった。


 “雷槍突らいそうとつ

 ““弩拳突どけんとつ””


 アレンがモンストールの脳天に両足揃えての刺突(雷纏い状態)を、センとガーデルが揃って心臓部分に弓なりに構えた拳を同時に打ちこむ。

 脳と心臓にクリーンヒットしたモンストールはとうとう倒れ、絶命した。


 「疲れた……!やっぱりSランクは手強かったね…」

 「“手強い”か…。この旅を始める前の俺たちはGランクすら敵わない化け物だって思ってたのにな」

 「ねー?何だかいつの間にか、私たちかなりの高みに来たかも」


 「限定進化」を解いたセンとギルスとガーデルは自身たちの成長を実感する。その一方で、アレンはどこか納得していない様子だ。


 「アレン……?」

 「………まだダメ。このレベルじゃ魔人族には及ばない。Sランク程度の敵にこんなに手こずってたらダメ。コウガが今戦ってる魔人族をみんなで倒せるくらいに強くならないと……」


 アレンはルマンドにそうつぶやくように言う。アレンは魔人族への復讐を第一に考えている。それこそが彼女の旅の終着点であり全てでもある。

 危険度・戦闘力が測定不能のⅩランクと評されている魔人族を倒すには当然Sランクの敵につまずいてはいられない。

 そう考えているアレンは、この勝利はまだ通過点に過ぎないとみていた。


 「………ごめん。みんな必死に戦ってくれたのに。まだ足りないって言ってしまったみたいで…」

 「ううん。アレンの言うことは正しいわ。私たちにとって魔人族はいずれ戦い殺さなければならない怨敵。しかもその力はSランクモンストールを圧倒し従わせる程。

 私たちは…まだまだ強くならないと、ね」


 仲間たちを労おうとするアレンにルマンドはアレンの言葉を肯定する。センたちもそれに同意して顔を引き締めた。


 「この戦いでもっと強くなりましょう。魔人族と戦うまでの戦いは全てステップアップだと考えましょう」

 「うん……!」


 センの言葉にアレンは力強く頷く。携帯していた回復薬を摂取して体力をある程度回復させてから、アレンたちは次の戦場へ向かった。



 

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