111話「side美羽・ダンク」
進撃しようとするモンストールの群勢を亜人戦士たちが必死に食い止めている。その筆頭が亜人全員をまとめているダンクだ。
「オオオオオオ!!」
ダンクは亜人戦士たちの先頭にたち武器である大剣を片手軽々と振るってモンストールを次々と斬り伏せていく。Bランク程度の敵なら全て一太刀で討伐する実力を持つダンク。そんな彼の勢いに他の亜人戦士たちもついていき奮闘する。
(凄い……リーダーのダンクさんがああやって先頭で奮闘するのを見せることで、みんなの士気を最大限に高めてる。こうなった集団は……とても強い)
彼らと共に戦っている美羽もまた昂揚感に包まれていた。後衛に回り傷ついた戦士たちを癒すのが彼女の主な役割となっている。もちろんそれだけではなく時々前に出て魔法攻撃を放って援護もしている。
亜人族一の突破力を持つダンクと治癒も出来て攻撃面にも優れている美羽がいることで戦士たちの士気は十二分に高まっている。迫り来るモンストールたちを次々に討伐している状況だ。
しかしそんな迎撃戦が順調にいくのは長くは続かない。Gランクモンストールが数体襲いかかってきたからだ。
ここで戦い続けたことで並みの兵士・戦士以上の実力がある彼らでも、単独でGランクの敵を倒すには至らず、苦戦を強いられる。モンストール一体につき5~10人の編成でようやくといった様だ。
しかしそんな中で、
「っらァア!!」
ズバァン! 「ギャアアア……ッ」
ダンクはなおも一人でGランクの化け物たちと相対し、斬って斬りまくっていた。
「“硬質化”……鋼鉄の剣へと化せ」
ダンクが持つ大剣に鋼鉄のコーティングが施される。大地魔法による武器の強化を実施したのだ。重さは倍増するが攻撃力も倍以上となる。
「“亜人族剣術”……」
大剣を両手で持ち直して深呼吸してから、ダンクは爆発的な瞬発力を発揮して敵に接近・瞬時に斬りにかかる。モンストールの体の部位を容易に切断してみせる。反撃の攻撃が飛んでくるも大剣の腹でガードする。
「“絶壁”―――“
そして敵の攻撃を勢いを吸収して自分の力も乗せた返し技を放ってGランクモンストールを瞬殺する。
「Gランクモンストールを、進化もしないで圧倒してる…!」
離れたところからダンクの戦いを見ていた美羽は感嘆の声を上げる。そう、ダンクはまだ本気を出していない。彼の実力は竜人族のエルザレスにも引けを取らないくらいの水準まで達している。
「あの時のようなことにはさせん……誰一人として殺させないぞモンストールども!!」
ダンクはそう叫んで次のモンストールへ斬りかかる。皇雅やクィンのような切断を目的としたものではなく、「叩き斬る」という剣撃がダンクの剣術だ。大剣という高火力を持つ武器。破壊力もある故にそういった斬撃でも敵にとっては十分脅威となるものだ。
そして何よりも、
「ウオオオオオオ!!」
ダンク本人の気迫が、彼自身の戦闘力を数値以上に引き出している。その様子は味方ですら圧倒されるくらいだ。
(これが亜人族の戦士序列元1位の実力……)
美羽は襲撃前に聞いた亜人たちの話を思い出す。ダンクの戦闘実績は、国王のディウルに比肩もしくは上回っていたとか。
ダンクが実際に戦っているところを見た美羽はあの話は事実であることを確信した。
「よし……私も戦いに集中、しなきゃ…っ!!」
美羽はそう言いながら、魔法杖から強力な複合魔法を撃ち出す。「聖水」の性質を帯びた豪炎が、襲いかかるGランクモンストールを瀕死寸前まで弱らせる。一緒にいた亜人戦士たちがそこに止めを刺して討伐する。
「ダンクさんみたいにはいかないよね、やっぱり。凄いなあの人は」
たははと苦笑する美羽に、亜人たちは心の中で呟いた。
(((あんたも十分凄いって……)))
……と。
その亜人戦士たちも、徐々に余裕が出来てきている。美羽による「聖水」の付与の恩恵が大きい。武器を持つ者は特に強化されて、上位モンストールを容易に討伐していく。
「っはァア!!」
ダンクは魔力を込めた大剣を横薙ぎに振るい、魔力の斬撃を飛ばして、モンストールを両断する。これでGランクモンストール3体目の討伐だ。
しかしモンストールの群勢はまだ無くならない。Gランクモンストールがさらに10体以上も進撃してくる。
「む……多いな。このままではしんどいか」
ダンクは険しい目つきでモンストールの群れを睨む。大剣を地面に突き刺して脱力を図る。その様子を見た亜人たちは瞬時に察する。彼が「本気」を出す、と。
「 限定進化 」
ダンクの全身から強い光が生じる。輝きは一瞬で終わり、そこには存在感を増したダンクの姿がいる。
「見た目は…アレンちゃんたちと違ってあまり変わってない…?」
「超人種の亜人は、進化しても見た目はそんなに変わらない。ダンクさんの場合は見た目はほぼ同じだ。けれど、その強さは、初期状態とは比べ物にならない」
美羽の傍にいた亜人が希望に満ちた目で答える。他の亜人たちも進化したダンクを見て活気や士気がより一層増した。誰もがこの戦いの勝利を確信するムードをつくりだしたダンクに、美羽も期待せずにはいられない。
そのダンクは、鋼鉄を纏った大剣を片手で軽々と持つ。大剣であるにも関わらずそこには重みが全く感じられない。彼の筋力がそれ程までに上がっているのだ。
「ゆくぞ―――」
そう呟いた次の瞬間、いちばん前にいたGランクモンストールの体が頭から下腹まで縦に両断されていた。
「速くも…なってる」
その速さはアレンと変わらないレベル。そしてパワーはアレンたち鬼族を凌駕している。
仲間が斬り殺されたことで危険を察知した残りのモンストールたちはダンクを囲んで一斉に攻撃しにかかる。それを見たダンクは、地面に手をついて大地魔法を発動する。すると一体を除いたモンストールたちの地面が勢いよく隆起し、上へ打ち上げる。残ったモンストールへ迫り大剣を振るう。
「単体相手ならお前らなど苦労しない」
自分よりもはるかに大きいモンストールを正面から叩き斬り、破壊する。しかしまだ倒れることなくモンストールは反撃に出る。魔力を纏った前足で引き裂きにかかるが、ダンクはそれを見切ってさらに早く迎撃する。
“連戟”
両手で大剣を持ち直してパワーとスピードを倍増させた状態で、高速の連続斬りを繰り出す。シンプルだが凄まじい攻撃力だ。モンストールは微塵切りの如く全身を斬られ、絶命した。
上から残りのモンストールが一斉にかかってくる。大地魔法で分断しようとするが全て躱され、一体がダンクにぶつかりにくる。
大剣で受け止めて斬りかかるが対抗される。その隙に他のモンストールたちもダンクに攻撃を仕掛けにくる。
さすがのダンクも苦しげに眉を顰める。窮地に陥ったダンクに炎熱魔法が放たれる。
「“水魔法”!」
その炎を水の魔法攻撃がかき消した。美羽による水魔法だ。魔法攻撃の名前が覚えられず名前をつけるのも苦手な彼女はあまり攻撃名を唱えない。
その美羽は既に「限定強化」を発動して本気状態だ。
「………人族にこれ程の高魔力の魔法攻撃を放つ者がいるとは。それに戦気もさっきの倍以上だ。お前は何者なんだ?」
「ええと……異世界召喚の恩恵って言いますか…とにかく、特別な力ってやつです!」
「そうか…。いずれにしろ頼もしい。共に戦ってくれ」
「はい!」
こうしてダンクと美羽が並び立ち、ダンクが前に出て斬りかかり、美羽と遠距離攻撃が得意な亜人たちが彼の援護という形で、Gランクモンストールたちを圧倒していった。
“聖水付与
高出力の水射線に大岩の大砲を乗せて撃つ砲撃。さらに「聖水」も込めているのでモンストールに対してダメージが数倍になる。Gランクモンストールの一体を一撃で粉砕してみせる。
「強くなってる…。Gランクを一人で倒せるくらいに…!」
美羽は自身の成長を実感し密かに喜んだ。
そうして主にダンクと美羽の活躍により、Gランクモンストールの群れも撃破した。
しかしそんな美羽たちのところにさらなる敵が出現する。
「あ、あれって…」
「うむ、Sランクだな」
美羽が微かに身を竦ませ、ダンクが強敵を見る目をする。亜人戦士たちも緊張・恐怖・覚悟などそれぞれ滲ませて、Sランクモンストールと対峙する。
「前のような犠牲は出させはしない!!俺が勝利の道を切り開く!皆、俺に続けぇ!!」
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