第2章 お ば け
いつでも悪いことに備える、のはわかる。しかし、こんな快晴の日に不穏な気配などあるはずもない。詩織はアスファルトの坂道を下っていた。飽きたとは言ったが、習慣は身についているので首を後ろにひねって確認する。すると1人、いた。遠く、100m以上は離れているが、少年が後ろを歩いていた。灰色の上下で、部屋着のようなものを着ている。詩織は特に気にかけず元通り前に首をひねった。小学生の下校時刻は、高校生や会社勤めの大人の帰宅時間よりだいぶ早い。だからいつも、帰り道には小学生が多い。別の学校の小学生もいる。また、詩織は仲良しの子と家が逆方向なのでいつも1人で帰る。しかし、車線が4つあるような広い道路の歩道を歩くので余り心細くはなかった。帰り道が狭くなるのはだいぶ家に近づいた時だ。あの後ろの人、学校は休んだのかなと思って詩織はまた後ろに首をひねった。帰り道はいつしか住宅街の中に入り、両脇に一軒家やアパートが並ぶ。少年は依然として歩いていた。さっきより距離が縮まっているので、顔の様子が見えたがそれが変だった。真っ黒である。肌色が見えない。詩織は歩みを止めて目を凝らした。すると、その少年は奇妙な動きをした。それまでアスファルトの道に沿って真っ直ぐ進んでいたが、急に左へ曲がって、道の脇にある住宅の陰に隠れた。そのままかと思うとすぐに姿を現す。そしてさっきと逆方向に道路を横切り、反対側の住宅の陰に隠れる。その動作を繰り返し、ジグザグに道路を進んでくる。詩織はぎょっとした。そのおかしな歩き方もだが、真っ黒い顔の理由がわかった。いくら前髪が長くて多くても、さっきから目も鼻も口も見えないのはおかしい。実際、それは正面の顔ではなかった。後頭部だった。体の方は胴体も膝関節も爪先もこっちなのに頭だけ完全に後ろを向いている。詩織はそんなバカな信じられないと思ったがだんだん近づいてくるその少年が怖くなった。一目散に駆け出す。ランドセルがゴトゴト激しく揺れる。詩織は足が決して速くない。振り返ってはいけない、近くにいたら足がすくんで走る気を無くすだろう、それはもっとまずい。そう思って、弱い喉をぜいぜい言わせて駆けた。
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