第119話:遊牧放牧

 リカルド聖帝と帝室の面々は常に一緒に行動した。

 普通は継承権者が全員殺される事のないように、意識して別行動になる。

 だがリカルド聖帝は、敵に襲われる危険よりも継承権争いを恐れた。

 愛する子供達が権力に眼が眩んで殺し合う事の方が怖かった。

 だから常に一緒に行動して家族愛兄弟愛が育つようにしていた。


「さあ、今日はレイラが準備してくれていた砂漠緑化をしようか」


 海の収穫に目途がついたので、リカルド聖帝は陸の収穫を増やそうとした。

 そこで以前からレイラが調べてくれていた砂漠を緑化することにしたのだ。

 砂漠を緑化するために必要なモノは水だ。

 土壌の改良も大切だが、それ以前の問題として水がなければ話にならない。

 幸い砂漠地帯の近くには大陸一の水量を誇る大河があった。


「さて、まずは大河の水の一部を砂漠に引く。

 いずれは運河にする心算だが、まずは牧草が生える程度でいい。

 牧草さえ生えてくれれば、野生動物を増やして狩りの獲物を増やせるからね」


 レイラもライラもローザも、運河という単語が分からなかった。

 だが運河は将来の話だというので質問するのはやめた。

 それよりは砂漠に牧草を増やすという事の方が大切だった。

 牧草を増やすことができるのなら、家畜の放牧や遊牧が可能だからだ。


「どれくらいの早さで牧草地が増えますか」


 砂漠緑化を目標に準備を進めていたレイラが質問した。

 用水路を作り耕作地にする事が一番の目的だったのだが、莫大な数の民が死んでしまったので、新たに砂漠に創る農地よりも放棄されている農地を利用する方が楽だ。

 特に何とか生き残った人達は、故郷に戻って平和に暮らしたいのだ。

 故郷に十分な農地があるのに、砂漠に移民しようとは思わない。


「そうだね、普通の牧草でも二カ月ほどで十分な背丈になるだろうね。

 でも今回は魔境で集めた薬草と果樹を中心に植えてみようと思う。

 定着するかどうかは分からないし、薬効が残るかもわからないけれど、魔境でしか育たない薬草がここで栽培できたらいいからね。

 果樹もそうだよ、ここで果実が実ってくれれば、食糧生産力が飛躍的に多くなる」


 リカルド聖帝には新しい大きな目標があった。

 リカルド聖帝は大陸の人口を三倍にしたかった。

 平和で豊かな大陸になれば不可能ではない数だと思っていた。

 今まで全く作物が採れなかった広大な砂漠で多くの食糧が栽培できれば、大陸で養える人口が飛躍的に多くなる。


「さあ、よく見ておくんだよ。

 私が死んだ後は、お前達が引き継いでやっていくんだよ。

 大陸には水で困っている場所が沢山あるんだ。

 お前達には私がやれなかった所を同じようにしてもらうんだよ」

 

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