第118話:漁労

 リカルド聖帝が考えた漁労方法の一つは弓射だった。

 岸から矢を放って海中の海魔や魔魚を傷つける。

 傷ついた海魔や魔魚を狙って多くの海魔や魔魚が集まってくる。

 そこに一斉に矢を放って海魔や魔魚を狩る。

 矢には回収のために鉄鎖がつけてあり、岸に引き上げる事が可能だ。

 無傷では狩れないが、弓射の訓練にもなる。


 二つ目の漁労法は投げ鎖だ。

 鎖の先には狙う獲物に会わせた大きさの鋭い針を付けてある。

 海に投げて陸上に曳くことで海魔や魔魚を針に引っ掛けるのだ。

 前世の記憶では「ギャング釣り」「引っ掛け釣り」と呼ばれていた。

 これは投げ鎖や投げ縄の訓練にもなる方法だ。


 三つ目の方法は鉄鎖でできた投網だ。

 狙う海魔や魔魚によって鉄鎖の強度が変わってくる。

 強力な相手ほど太く重い鎖で作った投網になる。

 岸に近い場所に居る小物狙いなら細く軽い鎖の投網でも大丈夫だ。

 だが時には岸近くにまで強大な海魔や魔魚が人間を狙ってやってくる。

 海の状況を注意深く観察する必要がある。


「構え、放て」


 隊長の命令が響き渡るが、動きがぎこちない。

 リカルド聖帝と帝室の面々を前にして全員が緊張していた。

 普通の訓練のはずだったのに、急に御前で行うことになっていた。

 閲兵だと分かっていれば軍服にも気をつけ小奇麗にしていたのに。

 海水で濡鼠になると分かっていたから、全員が一番汚い軍服を着ていたのだ。


 弓隊が一斉に鎖付きの矢を射る。

 急いで鎖をひいて矢を回収するが、獲物のついている矢は全くない。

 リカルド聖帝が考えていたほどの成果がない。

 隊長以下の全騎士全徒士が蒼褪めている。

 リカルド聖帝が失敗するなどあってはならない事だった。


「ふむ、弓射は狩りというよりは訓練と考えよう。

 次を試してくれ」


 リカルド聖帝が全く気にしていない事に全員が心から安堵する。

 帝位に就かれても、失敗を許さない暴君になられてはいないのだと。

 

「投針隊、放て」


 次に針付き鎖を投げて海魔や魔魚を引掛ける部隊が動いた。

 全員が名人達人という訳にはいかない。

 始めたばかりの技なので、結構な人数が真直ぐ投げられないのだ。

 距離と方角に多少のずれがあり、絡まる危険があった。


「リッキー、ロナルド、バルトは先に引け」


 方角がずれた三人の顔が引きつっている。

 リカルド聖帝の前で失敗した事が情けないのだろう。

 真っ赤な顔になりながら引っ張る。


 次に隊列を組んだ徒士隊が一斉に投針の鎖を引く。

 今度は針にかかる魔魚がいた。

 それなりの大きさの魔魚のようで徒士の一人が海に引きずり込まれそうになる。

 急いで魔魚がかからなかった徒士が助けに入る。


「弓隊、海からの襲撃に備えろ」


 リカルド聖帝を前にしての緊張感のある実験が繰り返された。

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