第112話:仇討ち
アイルはギリギリの速さで急いだ。
死力を尽くして急ぐことも可能だ。
だがそんな事をしてしまったら、ロイドを見つけても戦えない。
仇討ちしようとして返り討ちにあう。
そんな恥さらしな事はない。
だから歯を食いしばってギリギリの速さでロイドを探し求めた。
アイルは神を信じない。
フィエン公爵とアセリカ様にあのような運命を与えた神を信じない。
だからアイルが神に祈り願う事はない。
神に感謝する事など絶対にない。
恥ずかしく媚を売っていると思われるのが嫌なので、絶対に口に出したりはしないが、アイルが信じ願い感謝するのはリカルド王太子だけだった。
アイルは心からリカルド王太子に感謝していた。
重要な役目を返上する事を許してくれたことを感謝した。
仇討ちを許してくれたことに感謝した。
ロイドに追いつけた事を心から感謝した。
そして湧き上がる激情をロイドに叩きつけた。
「ぐっぎゃあああああ。
おのれ、後ろから斬りつけるなど卑怯だぞ」
ロイドが自分の事を棚に上げてアイルを罵った。
「やかましいわ、お前のような腐れ外道に卑怯も糞もねぇえ」
アイルが歯ぎしりする想いでロイドを罵った。
いや、心の中では自分の事も罵っていた。
一撃でロイドを殺せなかった自分の力のなさを罵っていた。
だが自分を責めてばかりもいられない。
そんな暇があるのならロイドを殺す事に全精力を注がなければいけない。
相手は腐っても元勇者なのだから。
腐った勇者だからこそ、アイルの一撃で即死しなくてすんだのだ。
フィエン公爵家で騎士団長を務めていたアイル。
リカルド王太子が第三騎士団を任せ魔境に備えさせたほどの騎士。
そんな騎士が放った背後からの必殺の一撃。
避ける事も受ける事もできなかったが、致命傷にならないようにできたのは、腐れ外道とは言え見事なモノだった。
ロイドは流石に歴戦の戦士だった。
腐れ外道とは言え戦い慣れしている。
アイルから受けた傷を癒すべく即座に回復薬を服用していた。
常に回復薬を口に含んでいるのだ。
アイルが自分を狙ってる事など知らなかったのにだ。
常在戦場の精神、まあ、憎まれている事を自覚しているというのもある。
アイルが追撃の連撃を繰り出しても、ギリギリ避け続けている。
だがアイルにはロイドの動きがいつもより鈍いのが分かった。
一緒に戦っていた頃よりも体の切れが悪い。
何よりパーティーではなく単独だ。
勇者パーティーに連携されたら絶対に勝てなかった。
一対一なら互いに万全の状態であっても勝てなかった。
だが今なら一対一でも勝てそうだった。
一瞬悩んだアイルだったが、直ぐに踏ん切りをつけた。
自分の欲望に負けて一対一に拘ってロイドを取り逃がしたり、返り討ちにあってしまったらリカルド王太子に顔向けできない。
「作戦通りに包囲して確実に殺せ」
アイルは配下の暗殺団に命じた。
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