第110話:凋落の元勇者ロイド

「グッハッア、毒か、口に毒を仕込んでやがったのか。

 腐れ女が外道な真似しやがって」


 ロイドは自分の事を棚に上げて罵り声をあげていた。

 局部を喰い千切られ、そこから猛毒が身体中に流れ込んでいた。

 このままでは確実に死ぬ、そう言う状況に追い込まれていた。


「くそ、クソ、糞、これも効かねぇのかよ。

 エルナ、どこにいるエルナ、さっさと俺様を治しやがれ」


 猜疑心の強いロイドは武器と解毒剤は肌身離さず持っていた。

 だが効果が強く汎用性のあるはずの解毒剤がどれも効果を表さない。

 刺客を放った者は特殊な毒を使っていたのだ。

 南部でもごく限られ地域でしか取れない特殊な毒だった。

 だからロイドは手持ちの体力回復薬を飲んで時間稼ぎをしつつ、聖女を騙る治癒術士のエルナを探していた。


「なによ、今日は女どもを手懐ける日でしょ。

 私に構ってないで向うで……

 キャアアアア、ロイド、ロイド、ロイド」


 最初はロイドの姿も見ずに嫉妬丸出しで話していたエルナだった。

 だがあまりにロイドの様子がおかしいので視線を向けた。

 そこには局所を噛み千切られ毒に犯され、脂汗を流すロイドがいた。

 エルナは直ぐに解毒魔術を使った。


 だがエルナの魔術では一度で全て毒に対応はできなかった。

 二度三度四度と色んな解毒魔術を使うことになった。

 直ぐに効果を表さないので、途中で体力回復の魔術を使う必要もあった。

 ようやく多少効果がある解毒魔術が分かったが、それも一度では効果がなかった。

 二度三度四度と同じ魔術を使わなければいけなかった。


 ロイドはエルナの能力不足に苛立っていた。

 アセリカなら一度で解毒を成功させていただろう。

 いつもならそんな感情を表情に出すようなロイドではない。

 だが昔からの仲間四人に裏切られ苛立っていた。

 媚薬で完全に支配していたはずの女に殺されかけた。

 そんな状況がロイドを精神的に追い込んでいたのだろう。


「なによ、そんな顔して、私がいなければ死んでいたのよ。

 この恩知らず、なんだかんだ言って、私とアセリカを比べているんでしょう」


 まだ毒が残っていたのか、それとも痛みと苦しみの所為か、ロイドは湧き上がる怒りを抑えられなかった。

 アセリカと比べて苛立っていた事を言い当てられたからかもしれない。

 まだ局所の治療が完治していないのに我慢できなかった。


「やかましいわ、この役立たずが」


 ロイドは持っていた剣でエルナを斬り殺してしまった。

 頭から股にかけて一刀両断していた。

 これがロイドの支配を崩壊させてしまった。

 ロイドが血塗れ姿でエルナを探し回る姿は、四将軍に裏切られ著しく低下していたロイドの信用を地の底まで落として。


 その状態で最後に残った勇者パーティーのエルナを自分の手で斬り殺したのだ。

 ロイドが支配する城と都市に残っていた将兵にもう駄目だと思わせてしまった。

 彼らは一斉に城から逃げだした。

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