第107話:家内安全2

 リカルド王太子の一番の不安であり願いでもあること。

 それは家族が仲良く暮らすことだった。

 間違っても子供達に権力争いだけはさせたくない。

 幸いといっていいかどうかは別にして、この世界では身分が当たり前にある。

 前世の知識のような遺産の公平分配を考えなくていい。

 王権や領地を公平分配するなど悪夢以外の何物でもない。


 皇位であろうと王位であろうとレイラ王太子妃の長男が継ぐ。

 この事に疑問を持つ者や異論をはさむ者は誰もいない。

 問題は子供が出来ない事、男子が産まれない事だけだ。

 そして今はその心配もなくなった。

 無事に五体満足な男子が産まれたのだ。

 だからこそリカルド王太子は考えていた方法を断行した。


「やはり家族は一緒に暮らさなければいけない。

 寝食を供にするからこそ家族には絆が生まれるのだ。

 時に笑い時に泣き、場合によっては喧嘩するくらいでなければいけない」


 元々ライラとローザは同じ釜の飯を食った仲だ。

 肩を並べて戦い、危機に陥った時には背中を預け合った事すらある。

 一時は子供と共に一つ屋根の下で暮らしていた。

 まあ、その屋根は巨大な王宮の屋根なのだが。

 だからライラとローザには特に反対意見はなかった。


 問題があるとしたらレイラ王太子妃だった。

 具体的にはレイラ王太子妃の側近達だった。

 身分差に凝り固まる皇国出身の侍女や女官の悪意が問題だった。

 だが幸いなことに身分差に拘る性格の悪い連中は粛清された後だった。


 残された者達も、リカルド王太子に逆らったらどうなるか身に染みて分かった。

 少しでもリカルド王太子の意向に逆らったら、確実に殺される。

 いや、自分達だけではなく、レイラ王太子妃と御子までが殺される。

 今回の件が、愛する公妾を王太子妃に直し、愛する子供に王位を継がせるための罠だと言う可能性すらあると、彼女達は恐れおののいていた。


「承りました、喜んで御一緒させていただきます」


 一方レイラ王太子妃は少しも疑っていなかった。

 リカルド王太子が公妾と彼女達が産んだ子供を愛していればこそ、彼女達を争わせないために自分との子供を跡目に継がせると確信していた。

 いや、それだけではなく、リカルド王太子が自分も子供のアルフレッドも大切にしてくれていると確信していた。

 それはリカルド王太子の言葉からも確かだった


「レイラ、アルフレッドに魔力を与える。

 バートランドとコンラッド、ヒューイとボライソーに与えたよりも強い魔力を与えるが、その分厳しく躾ける事になる。

 だからレイラはアルフレッドに優しくしてやってくれ」

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