第105話:追い込み

 リカルド王太子は徐々に追い込まれて行った。

 リカルド王太子の前世の性格には権力欲がない。

 むしろ責任は背負いたくない本性がある。

 だが今生のリカルド王太子は責任感が強い。

 誰よりも王侯貴族の誇りと責任感を持っている。

 今回はその二面性を周りの行動が追い詰める結果になった。


「王太子殿下、全ての民に選挙を行いましょう。

 選帝侯が皇帝や王を選んだように。

 枢機卿団で話し合って教皇を選んだように。

 殿下を皇帝に望むか、全ての民に問えばいいのです」


 リカルド王太子の側近達は、昔大陸で行われた選挙を提案した。

 それも一部の者が権力者を選ぶのではなく、全ての民が皇帝を選ぶという画期的な方法を提案したのだ。

 前世の記憶と知識があるリカルド王太子は、選挙制度のよい所も悪い所も熟知していたから、その場で完全否定できなかった。


「確かに画期的なよい方法だが、永続的に取り入れると人気取りに走る弊害もある。

 必要もない戦争を引き起こして人気取りを行う危険もある。

 票のために民におもねったり、民を堕落させる人気取りの政策を行う危険もある。

 よい方法だけに、いきなり取り入れるのは禍根を残すことになる」


「ではせめて爵位と士族位を持つ者だけで選挙させて下さい」


「それはもっと悪手になる。

 民の事を犠牲にして、貴族士族に利を与える政策を行ってしまう可能性がある。

 それは絶対にあってはならないことだ」


「ではどうやって民の心を吸い上げると申されるのですか、王太子殿下」


「まずは国王陛下に相談しよう。

 国王陛下に相談もせずに皇帝に就くわけにはいかない。

 それに家族とも相談しなければいけない。

 皇帝や帝王の位にはそれに伴う責任がある。

 単なる王位とは比較にならない責任と重圧があるのだ。

 後継者になるかもしれない子供達の事や、共に責任と重圧を背負ってくれる家族に相談もせず、軽々しく受ける事などできない」


 リカルド王太子の言葉を聞いて、側近達は心から反省した。

 自分達が戦勝に浮かれていた事にようやく気がついた。

 全てリカルド王太子の力で勝っているいるのに、リカルド王太子だけが心から大陸の生末を考えて統治を決めているのに、自分達は単に地位や名誉に目が行っていた。


 だがもう後には引けなかった。

 一旦皇位や帝位の話が出た以上なかったことには出来ない。

 既にリカルド王太子の支配域だけに留まらず、大陸中に噂が広まっている。

 リカルド王太子の不安と心配を考慮した上で、皇帝に成ってもらう方法を考えなければいけないと、深く覚悟させることになった。

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