第67話:蜂起と侵攻

 大陸の民が追い込まれて最初の蜂起がおこるまでに一カ月かかった。

 それだけの時間がかかったのは、民が食糧不足で追い込まれる時間が必要だった事と、叛乱組織を構築するまでに時間がかかった事にある。

 更に言えば、フィフス王国、セント・ジオン皇国、リストン大公国に領地を接している国の民は、三カ国に逃げ込むことができた。

 リストン大公国はエルフ族の国で、人間を好いてはいないが、餓死寸前の難民を見捨てるような情け知らずではなかったのだ。


 その間リカルド王太子は毎日食糧生産を行った。

 西魔境近くの農地では毎日二十五万人一年分の穀物が生産される。

 北魔境近くの農地でも毎日二十五万人一年分の穀物が生産される。

 だがその分魔境から大量の落葉や腐葉土を運ばなければいけない。

 それでなくても築城のための材木を切り出し輸送しなければいけないのだ。

 しかも築城現場に義勇兵の大軍を駐屯させる予定なのだ。

 

 以前ならば何かを諦めなければいけなかったのだが、国内貴族のほとんどを誅滅させ、領地を王太子直轄領としていた事で、十分な労働力を確保することができた。

 フィフス王国内だけでも、何とか五百万の国民を養うだけの穀物生産力がある。

 しかもリカルド王太子の力で三年分の食糧備蓄がある。

 更に三十日の間に千五百万の民を一年間養うだけの穀物が確保できた。


 だが民の蜂起が起きると同時に、謀っていたように強力な魔王軍がトンネルを使って大陸に侵攻してきた。

 リカルド王太子がもっとも恐れていた、魔王軍主力が攻め寄せてきたのだ。

 大陸中が蜂の巣をつついたような大混乱となった。

 大陸中の多くの国が、今回の侵攻軍が魔王軍の主力だと思っていた。

 実際に今までの魔王軍の十倍前後の戦闘力があり、民の蜂起で混乱する某国の王都が、わずか一日で落城していた。


 だが臆病なくらい慎重なリカルド王太子は、今回の侵攻すら魔王軍の陽動で、本当の主力軍は北と西の魔境から襲いかかってくるのではないかと疑っていた。

 妻子を心から愛するリカルド王太子は、国を離れる決断ができないでいた。

 そんなリカルド王太子に、ライラとローザが喝を入れたのだ。


「何を躊躇っておられるのです、リカルド殿下。

 私達は殿下に魔力を高めていただいていますから、大丈夫です。

 何も心配されずに、苦しむ民を救ってやってください」


「そうだぜ、殿下、私達をなめてんじゃねーぞ。

 これでも歴戦の傭兵だったんだぜ、生き残るための逃げ時は心得ているよ。

 危ないと思ったら、殿下の創り出してくれた転移魔法陣を使って、殿下の所に跳んで逃げていくから、子供達のために領地を切り取って来てくれよ。

 多くの王家が放り出した領地がたくさんあるんだろ、切り取って非難されても卑怯者の言う事なんか気にすることはないさ、なあライラ」


「その通りですわ、子供達のために二カ国切り取って来てくださいませ」

 


 

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