第61話:陰謀四・ペンドラ国王視点

 愚かな貴族共がリカルドの逆鱗に触れ、何時大虐殺が始まるか分からない。

 今度のリカルドの怒りは、婚約者と親友に裏切られた時とは比較にならない。

 遠く離れた王都にまで、リカルドの怒りの炎が感じられるほどだ。

 愚かな貴族共は、婚約者と親友の件でリカルドを甘く見ていたのかもしれない。

 あの時のリカルドは心痛のあまり気絶してしまった。

 それに婚約者と親友を直接手をかけて殺したわけではない。

 貴族共は少々の事では自分達が厳しい罰を受ける事はないと思っていたのだろう。

 重臣達が粛清された事は都合よく忘れてしまっている、真性の馬鹿だ。


 本当に愚かな者達だ、王太子としてのリカルドと、一人の人間としてのリカルドを同一視してはいけないのだ。

 常に魔王軍と対峙しているこの国では、王族には理想的な振舞いが求められる。

 自国の貴族や民が一致団結するだけではなく、他国の支援まで求めなければ魔王軍の侵攻を抑えられない厳しい状態で、王家は代を重ねてきたのだ。

 後継者に徹底的な帝王学を学ばさなければ、王になる者の力量一つに、国の存続どころか人族の存亡までかかっているのだ。


 余のような中途半端で力量不足の王ではない、理想的な王として育ったのだ。

 国を保ち人族を繁栄させるに相応しい王者として、教育されてきたのだ。

 その為に理想的な立ち振る舞いが自然にできるように、個人の好き嫌いではなく、フィフス王国の次期国王として清濁併せ呑む決断ができるように教育を受けてきた。

 そんなリカルドが、魔王軍と最前線で戦っているフィエン公爵家令嬢の婚約者として、理想的な立ち振る舞いをするのは自分の好き嫌いではないのだ。

 勇者を名乗って魔王軍と戦い続け、軍功を重ね続ける者と親友になるのも、個人の好き嫌いを周りにも自分にも全く感じさせず振舞えるのだ。


 そんなリカルドが、王家王国の不利になるのを承知で、初めて自分の欲を表に出して公妾にした二人の女性と、彼女達が産んだ子供に手を出して、少々の罰で済むと思うなど、愚かにもほどがあるだろう。

 実の父の余でも、二人の公妾と子供達の事には、絶対に口を挟まないというのに。

 だが、余も愚かな貴族共を馬鹿にはできない。

 今回の件でも、自分の無能と人を見る眼のない事に死にたくなった。


 無能と判断して役職に就けなかった貴族が馬鹿をするのはいい、リカルドがそのような愚か者共に落としいられる事などない。

 だが、有能で誠実だと思って重臣に登用した者の半数が、今回の件に係わっていたのだ、リカルドとの能力差に血の涙が出る。

 本心は直ぐにでもリカルドに王位を譲って隠居したいが、それもできない。

 無能ではあっても余もリカルドの父親だ、リカルドが少しでも動きやすくなるように、愚王と謗られ続けても王であり続けなければいけない。

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