第37話:人質・レイラ第三皇女視点

 皇帝陛下と皇太子殿下が不機嫌な気持ちを隠そうともしていません。

 いえ、他の皇子達も同じように不機嫌な表情を浮かべています。

 多分私も同じように不機嫌な表情を浮かべているのでしょう。

 それも当然でしょう、目の前に皇国の名誉を地に落としたクズ共がいるのです。

 先程から愚にもつかない言い訳を並べ立てていますが、それがなおさら私の怒りを掻き立てますが、皇族全員が同じ気持ちでしょう。


「それがどうした、リカルド王太子が何を言おうと、それでお前達が朕を欺いて利を貪った事がなくなるわけではないぞ。

 庇っている者共も、証拠が見つかっていないだけで、横領に加担していない事が証明されたわけではない。

 いや、今の言葉ではっきりした、お前達も一味同心だ、死ね」


「お待ちください、誤解でございます。

 リカルドの捏造でございます、今一度調べ直してください」


 皇帝陛下はこれを機会に皇国を変えようとされています。

 元々他の王国よりは皇帝陛下に権力が集中していましたが、逆にその分、皇帝陛下の寵臣が好き勝手に権力を振るう事も可能でした。

 今回の件も、皇帝陛下が宰相を信じすぎた事が原因です。

 宰相自身は直接悪事に加担していませんでしたが、配下の者にやらせていました。

 配下の悪事が露見した時には言葉だけ厳しく糾弾していましたが、最後には先祖の功名や反対派の言葉に妥協した形で温情を与えていました。

 それが全部、宰相以下の家臣達がグルになってやっていた演技なのです。


「ぐずぐずするな、近衛騎士もこいつらの手先か、朕よりも宰相に仕えるか。

 近衛騎士が宰相の私兵ならば、朕自らの手で斬って捨ててやる」


 皇帝陛下が剣に手をかけた事で、ようやく近衛騎士が宰相たちを斬りました。

 このような残虐な光景を見たいわけではありませんが、リカルド王太子は自らの手で魔王軍や謀叛人を斬って捨てたと聞きます。

 我ら皇族が遅れを取るわけにはいきません。

 人族の敵に自ら剣を取って戦う気概を見せなければ、地に落ちた皇室の名誉と誇りを取り戻す事などできません。


「レイラ、お前にはリカルド王太子に嫁いでもらわねば、皇室の名誉が保てない。

 リカルド王太子が人族を裏切らないための人質になってもらわねばならない。

 だが最後には罪を捏造されて離婚される可能性もある。

 それでも、フィフス王家に嫁いでもらわなければ、人族は滅んでしまう」


 皇帝陛下が頭を下げてくれました。

 その眼は、父親としての苦悩が読み取れます。

 父親としての情愛を無視して、皇帝として皇国のためにやらねばならない事だと、私も十分理解しています。

 魔王軍遊撃隊が暴れ回るだけで大陸は大混乱しているのです。

 魔王軍本隊を防いでいるフィフス王国が、魔王軍に寝返って先兵となったら、人族は簡単に滅んでしまうでしょう。

 私は誇りをもって皇女としての責任を果たします。

 

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