影を人質に脅迫か

 2020年3月5日、正午過ぎ、鳥取県内の公園でランニングをしていた真人の神田さん(31)が、快晴であるにもかかわらず、自分の影がないことに気が付いた。その日は懸命に捜索したが、発見にはいたらなかった。


 同日、午後11時ごろ、幽霊警察のもとに不審な男から連絡が入った。「神田さんの影を人質にとった。いますぐ10万イェンを用意しろ。さもなくば、神田さんの影を闇に埋没させてしまうぞ」との脅迫だった。


 日を跨がないうちに、幽霊警察は、その不審な男が人影切り離しの霊術を使用して神田さんの影を盗んだ疑いがあると見て、本事件の捜査に乗り出した。当時の捜査責任者だった幽霊警察部長の長浜氏(享年38、当時49)は、会見にて、「影も我々の生命の一部だ。守りぬかねばならない。犯人は、覚悟するべきだ」と強い言葉で牽制した。


 幽霊警察は脅迫には応じず、懸命な捜査の末に、2020年の5月3日には、犯人を確保し、神田さんの影も生存された状態で保護された。犯行に及んでいたのは、鳥取県内に在住のフリーターの幽霊、秋雨さん(享年24、当時28)だった。自宅地下室の薄明かりの中で、神田さんの影を監禁していた。そこには、電話ボックス大の暗闇ボックスが置かれていた。


 周知のとおり、影は光がなくては存在することができない。完全に光が消えることは基本的にないので、幽霊にでもならない限り、人間の影は死なない。だが、完全なる闇を創出することができる暗闇ボックスが1990年代に発売されてからは、そのボックスの中に真人を連れ込み、真人の影を殺害する事件が相次いでいた。


 暗闇ボックスは、2000年度の法改正によって、市場での流通が規制されていた。秋雨さんは、「兄から譲りうけたものだ」と答えており、その暗闇ボックスを用いて神田さんの影を殺害することを考えていたものと思われる。秋雨さんは、犯行内容について全面的に認め、犯行動機について次のように供述した。


「お金が欲しかった。ただ、それだけだった。お金が手に入らなければ、神田さんの影を闇に没させるつもりだった」


 神田さんの影は、神田さんに返却され、神田さんの記憶も修正された。本事件は無事に解決を迎えた。影を盗むという新手の誘拐事件として、今後の防犯対策に生かしていくべきかもしれない。

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