くじに『怒』の文字

 2020年1月3日、午前9時45分ごろ、宮崎県内の神社にて、同県在住の自営業、山本さん(34)が友人らと共にくじを引いたところ、『怒』という不可解な文字を引く事件が発生した。その影響か、同年の2月3日、山本さんが経営する会社の従業員ら17名が、山本さんのパワハラを訴え、退職した。山本さんの運命を変更させる霊術が使用された疑いがあると見て、幽霊警察は調査を進めていた。


 2020年10月23日、午前9時ごろ、同事件を起こした疑いで、生前に山本さんの会社で働いていた、早見青雲さん(享年26、現在28)が逮捕された。早見さんは犯行内容について一部を否認し、犯行動機について次のように供述している。


「信じてくれないかもしれませんが、わたしは、山本さんの運命を悪いほうへ変えるつもりはなかったのです。ただ、山本さんの運命が変わっているのに気づいて、それを警告しようと思い、山本さんに『怒』の文字を渡しました」


 周知のとおり、すべての人たちの運命は、運命統括委員会によって監視されている。運命統括委員会は、あらかじめ1年先までの運命を受信し、記録している。もしも運命統括委員会の記録と違った現実になった場合、霊術が使用されたか、人並み外れた意志が生まれたか、の二択である。


 今回の事件でも、運命統括委員会の記録と現実との間に差異があったため、霊術が使用された疑いが浮上していた。


「しかし、わたしは、山本さんの運命を変えていません。ほかの何者かが変えたのだと思います」


 そう語る早見さんは、生前、山本さんからのパワハラを苦にして自殺している。そのため、山本さんの運命が変更されれば真っ先に自分が疑われるだろうと思い、運命をふたたび変更するために、山本さんに『怒』の文字で警告した。運命は個人の意志でも変えられるからだ。


 山本さんの運命が変更された事実に気づいたのは、早見さんが、真人の運命を見透かす特殊能力を持っていたからである。


 結局のところ、早見さんの供述が事実であれ、早見さんへの疑いが強まる結果となった。「信じてくれないと思いますけど」と早見さんは何度も口にしているという。

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