「人間に戻りたかった」証言

 2020年4月6日、午前11時ごろ、大阪市内の自宅でパソコンに向かって仕事をしていた滝さん(23)は、パソコンのキーボードに『Reset』と記されたボタンがあることを発見した。『Reset』ボタンを押すと、一度押すごとに一分間、時間が戻った。本事件にて事物生成の霊術が使用された疑いがあると見て、幽霊警察が調査していた。


 2020年10月19日、午後3時ごろ、同事件を起こした疑いで、大阪市内に在住の幽霊、金口裕太さん(享年49、現在55)が逮捕された。金口さんは犯行内容について全面的に認め、犯行動機について次のように供述している。


「どうしても、人間に戻りたかったんです。そのためには、滝さん――彼女に自分の人生をリセットしてもらうしかありませんでした」


 金口さんは、人間のとき、大阪市内の私立高校で数学教師として働いていた。49歳のとき、金口さんが勤める高校に不審者が侵入し、全校放送が流れた。金口さんは、そのとき授業を担当していた教室を内側から施錠した。しかし、トイレに出たままの女子生徒がひとり教室に戻っていない事実に気づいた。


 金口さんは、女子生徒の安全を守るために、教室を出た。ちょうどそのとき、廊下に奥にいた不審者に見つかり、追いかけられ、刃渡り30㎝の包丁に刺され、死亡した。


「俺には、小さな子供がいるんです。まだ死ぬわけにはいかなかったんです」


 そう語る金口さんは、幽霊になったのち、霊術に関する書籍を大量に読み込んで、霊術を独学した。そうして、『Reset』ボタンの生成術を習得した。


「そのボタンで時間を戻ろうとしたのですが、何度、試しても、人間には戻ることができなかったんです。幽霊になってからの時間内でしか、戻れなかったんです」


 そこで、金口さんは、自分が使用するのではなく、自分を殺す原因になった人に『Reset』ボタンを使用してもらおうと考えた。金口さんを殺した犯人はすでに病死していた。


「だから、滝さん――俺が担当していた授業の生徒で、不審者が侵入したときにトイレに出ていっていた女子生徒――に、『Reset』ボタンを渡しました」


 滝さんが時間を戻り、事件の当日にトイレに出ない選択をすれば、金口さんも教室を出ることはなく、死亡しなかった。


 結局、金口さんのその願いは果たされることなく、2020年の4月中には霊士によって『Reset』ボタンは除去されている。

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