本棚に見知らぬ小説を置く
2020年1月27日、午後5時ごろ、中学3年生である川島雄太くん(15)が長野県内の自宅にてベッドで輾転反側していた際、自室内の本棚に見覚えのない背表紙を発見した。その本には、雄太くん本人の物語が記されており、結末では主人公が病死していた。未来透視と事物生成の霊術が使用された疑いがあると見て、幽霊警察が調査していた。
2020年10月14日、午前10時ごろ、同事件を起こした疑いで、長野県内に在住の幽霊、川島竹信さん(39)が逮捕された。雄太くんが8歳のときに病死した、雄太くんの父親である。竹信さんは全面的に犯行を認め、犯行動機について次のように供述している。
「恋心は罪深いんです」
竹信さんによれば、竹信さんは生前、病死する寸前まで会社の同僚と不倫していた。その関係が妻にバレたため、死ぬ直前の竹信さんの耳元では、妻からの罵詈雑言の囁きが密かにおこなわれていた。ついには、病人にはけっして言ってはならない言葉も放たれた。
竹信さんは屈辱的に昇天した。そのときの経験から、恋心は罪深いと考えるようになった。
「恋心にもてあそばれれば、大切なものを失うのですよ。わたしは、雄太に大切なものを失ってほしくなかった。だから、そんな恋心なんて捨てて、真っ当に生きなさい、と伝えたかったのです」
雄太くんが手にした本には、雄太くんの恋心が成就する姿が描かれていたが、結末では雄太くんが病死していた。恋に溺れれば死ぬ、と暗示した内容である。竹信さんの狙い通り、本に怯えた雄太くんは恋心に背を向けるようになり、いままで、相手に告白していない。
現在は、特別国家公務員の霊士が雄太くんの記憶を正し、竹信さんがしかけた本を読んだ記憶が雄太くんの頭から抹消されている。今後、告白に踏み切る可能性もある。
とはいえ、竹信さんの霊術が与えた影響が消えたわけではない。竹信さんの霊術が、雄太くんの行動を長い間、左右したのだ。近年、生きている家族に対して、霊術を用いてなんらかの影響を与えようとする幽霊が後をたたない。ファミリー・インパルス症候群と呼ばれている。
家族とコミュニケーションを取りたい気持ちは誰にでもあるが、実行したら法令違反である。
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