謎の文字を生みだす
2020年3月21日、都内の某漫画喫茶で、コロナウイルスの影響で長年勤めてきたイベント制作会社をリストラされた沢井さん(45)が漫画を読んでいたところ、『子』と『血』と『母』を組み合わせた漢字と遭遇した。言葉変換の霊術が使用された疑いで、幽霊警察が調査していた。
2020年10月12日、午後4時ごろ、同事件を起こした疑いで、西塔佳奈美さん(33)が逮捕された。佳奈美さんは、容疑を全面的に認め、犯行動機について次のように供述している。
「わからない漢字に困っている姿を見て、優越感に浸りたかったのです。相手が幽霊だと、テレパシーを使ってすぐにバレてしまうけど、人間なら、見たこともない漢字を読むことなどできないだろう、と」
人間を脅かそうとする一部幽霊との特質である、ゴーストハウス症候群かにも見えるが、佳奈美さんは、そうではない。明確な動機があった。
「わたしは、幽霊クイズに挑戦していましたが、ずっと予選落ちでした」
幽霊クイズとは、幽霊社会の歴史や科学理論や現象についての網羅的なクイズに挑戦者が挑み、トーナメントを勝ち抜いた優勝者には賞金1000イェーンが支払われるクイズ大会だ。その様子はテレビ配信される。幽霊社会における人気番組だ。誰でも申し込めば挑戦できるが、8割の挑戦者が予選落ちする。
「わたしは、ある大会のとき、見たこともない漢字を出題され、これを読みなさい、と言われました」
幽霊クイズでは、挑戦者が出題者へのテレパシー(頭の中を覗く行為)ができないように、特殊な霊術が用いられている。
「わたしは読むことができなくて、大勢の幽霊に笑われ、赤っ恥をかいたのです。だから、あの沢井という男にも、同じ目に遭わせてやろう、と。それが動機です」
ちなみに、『子』と『血』と『母』を組み合わせた漢字は、なんと読むのかと警察官が訊くと、「母が血を流しながら子を守ること、つまり、愛です」と答えてくれた。なんとも、佳奈美さんには不似合いな漢字としか言えない。
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