よだれ地獄に、霊術使用か
2020年3月12日、午前11時ごろ、千葉県内の某印刷会社で、同会社に事務員として勤務する真人の旭さん(23)は、よだれが止まらない事態に陥っていた。よだれが咽喉に詰まり、一時、窒息の危機にも瀕した。
2020年10月9日、午後4時ごろ、同事件で霊術を使用した罪状で、千葉県内の無職の幽霊、福山早千江さん(45)が逮捕された。福山さんは幽霊警察での取り調べにて、次のように供述している。
「わたしはいたずらをしたわけじゃありません。旭さん――彼女のためを思って霊術を使用したのです」
福山さんは、18年前、病気で死亡し、幽霊に転身している。幽霊学校で体内を透かす霊術について学び、たびたび人間の体内をレントゲンのように透かして、病気のチェックをしていた。
「病気があるかどうか、幽霊なら、簡単にわかるんです。この能力は人間のために使うべきですよ」
福山さんの主張は一理あるが、人間と幽霊との間の条約である、霊術の不可侵条約によって幽霊が人間に積極的に関わることはあってはいけないとされている。実際、条約に基づいて、種々の法律が制定されている。たとえ善意であれ、人間に対して霊術を使用するのは法令違反だ。
「わたしたちは、その考えは間違っていると思うのです。霊術を使用すれば、幸せになれる人間が大勢いるのに。どうして、黙って、見ていることしか許されないのでしょうか」
福山さんの言う『わたしたち』とは、福山さんらが所属している、人間への霊術使用の一部許可を求める利益団体『霊術の一部許可を目指す会』である。この団体は、10年以上前から存続しており、一貫して、一部霊術の人間への使用許可を求めている。今のところ、彼らの主張は全面的に拒否されている。
国民投票によって3分の2の賛成を得られえていないうえ、幽霊長官が拒否権を発動できるので、道はかなり長い。
「わたしは、今年の3月12日、旭さんの咽喉元に病気があるのを発見しました。それに気づいてほしくて、旭さんの唾液を多量に分泌させたのです。そうすれば、病院に行って、病気に気づいてもらえるのではないかと思って」
この福山さんの主張には、一部、幽霊国民から賛同の声が上がっている。また、人口爆発の問題を研究する学者は、「人間社会の人々が長寿になることで、幽霊の人口爆発を抑えれば、社会的混乱を抑えられるかもしれない」としている。とはいえ、いまのところ、真人への霊術使用は全面的に禁止である。
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