幽霊社会の構造について
幽霊社会は、直接民主制を採用している。
国会のような国民の代表機関は存在せず、幽霊たちが逐一選挙することによって、国全体の政策を決める。
それができるのは、テレパシーを使えるためだ。日本中のどこにいても、テレパシーで会話できるため、選挙をおこなうのも簡単である。選挙仲介人5人のもとに自分の投票をテレパシーで送信する――それをすべての幽霊がやれば、ただちに、全体の得票数がわかる。
霊術をほとんど使えない幽人でさえ、テレパシーを利用することはできる。
ほとんど投票コストがかからないので、直接民主制でも社会が回るのだ。しかし、近年、大衆の選択が好ましいとは限らないとする学術研究が盛んであり、幽霊社会にも議会を立ち上げようとする幽霊団体も存在する。
幽霊を取りまとめているのは、幽霊府の官僚らであり、幽霊府の長である幽霊長官は国民の選挙によって決定する。
近年の政治的な問題は、人口が増え続けている人口爆発の問題であり、幽霊長官は人間社会の長である内閣総理大臣向けに、『高齢者が長生きするようにお願いしたい』との通達をしているが、現状は厳しい。今後も、幽霊人口は増えつづける見通しだ。人間社会と同じく少子高齢化であり、今後、深刻な食糧問題、介護問題に発展する可能性が示唆されている。
80歳や90歳で幽霊となった人たちは、幽霊になってからも数年のうちに死んでしまうが、その間の介護は必要になる。もともと若年で亡くなる人は少ないため、年寄りが圧倒的に多いという歪んだ社会構造になりつつある。
幽霊社会で流通しているのは、イェンという通貨だ。1イェン=2円として換算される。幽霊サラリイマンの平均的な月収は10万イェンであり、ここ20年間は一切経済成長していないため、給料が上がっていない。
幽霊の経済学者によれば、人間社会と幽霊社会には経済学的な関連性が幅広く存在するという。
幽霊たちは22歳ほどから働きはじめ、65歳には定年するため、年金事業も国がおこなっている。幽霊社会の消費税は現在10%であり、人口爆発の影響で、徐々に税率を上げていく方針だ。
幽霊社会では、偉人歓迎、悪人侮蔑、という文化がある。その名のとおり、人間社会で偉人だった人を歓迎し、人間社会で悪人だった人を侮蔑する文化だ。人間社会との取り決めにより、人間社会で死刑執行された死刑囚は、幽霊社会でもただちに死刑執行される。また、懲役が終わる前に病気などで死亡した囚人もまた、幽霊社会で残りのぶんを受ける。
ときどき、問題になるのは、異形の怪物として幽霊社会に生まれてくる者だ。人間社会で辛い思いをした者が異形になる確率が高い。鬼やろくろ首や般若などの姿になるのである。それらの怪物を取り締まるのは、異形取締官であり、人気の国家公務員だ。
続いて、人間と幽霊の関係について見ていこう。
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