幽霊の生活について

 幽霊とて、食わねば死んでしまう。


 幽霊は、なにも食べずに生きられると考えるのは誤解だった。幽霊の主食は、生きている人間の感情である。喜怒哀楽など、どの感情であれ、それぞれに違う味がして、美味しい。


 しかし、基本的には雑食であり、人間と同じようなものも食べられる。人間の感情しか食べられないわけではない。


 幽霊の中には、特定の人間にへばりついて、その人の感情を逐一食べてしまう者もいるが、これは厳密には、禁止されている。感情摂取に関する法律において、特定の人につきまとって感情を食べる行為は『幽霊として、絶対にやってはならぬ行為』と定められている。しかし、禁止はされていても、刑罰は用意されていないため、取り締まることはできない。


 実際には、このような行為に及ぶ幽霊も多くいる。これは人間の社会では『守護霊』と呼ばれており、ありがたがれることもあるが、実際には、感情を食べているだけだ。逐一感情を食べられた人間は、感情が平らになり、精神的に安定するため、ありがたがっているだけである。


 法律を守ろうとする誠実な幽霊たちは、真面目にサラリイマンとして働く。そこで稼いだお金で、コンビニで売られている食べ物を購入し、食べる。食べるために働きつづける。


 中には、過労死やパワハラによって命を絶つ幽霊も存在する。幽霊の死後にどのような世界が広がっているかについては、いまだ判然としたことはわかっていない。


 しかし、多くの幽霊は、同じように別次元の幽霊社会が存在するのだと考えている。


 幽霊は結婚することもあるが、子供はつくれない。近年は、単独世帯が増えており、死ぬまで独り身の幽霊が多い。ちなみに、幽霊の寿命は上昇傾向にあるが、人間として生きた年数も含めて、80歳程度で老衰を迎える。


 サラリイマン以外の幽霊としては、フリーランスの幽霊が近年になって急上昇している。今後も、この傾向は続くものと思われる。


 続いて、幽霊たちの年間行事についてお伝えしよう。

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