第68話 人生をダメにするクッション

 友人をダメにしたクッションを見に彼女の部屋に行った。

 それまでの彼女は活動的で、休日にはいろんな場所へ出かけていたが、誘われなくなったし、誘っても誘っても断られる。

 彼女の予定とかぶったので断られるのではなく、出かけたくないからと聞いたときは信じられなかった。

 別の友人に彼女はクッションを買ってから外に出なくなったと聞いたので確かめに来たのだ。この友人もクッションを見に行ったが、クッションが柔らかすぎてよくなかったと言っていた。

 彼女は部屋で何もしていなかった。ただクッションに座っているだけ。

 クッションに座っていてもできることはある。

 本を読む、音楽を聴く、たまった録画や映画を観る。

 でも何もしない。SNSのチェックすらしていない。

 試しに座らせてもらったが、案外気持ちいい。柔らかすぎとも思わなかった。そこらは人によって相性があるのかもしれない。

 

 ……注文してしまった。

 あのクッションがあれば、おうち時間が心地よくなる。

 外出を減らすのではなくて、今までの生活を変えるのではなく、あくまでおうち時間を充実させるため。

 同じ時間を過ごすのでも、心地いい方がいいから。

 などと言い訳しつつ、数日後に届いたクッションに座る。

 ゆっくりと沈む体をやさしく包み込む。

 座っているだけでいやされる。

 ゆっくりとゆっくりと沈む。

 沈んで沈んで沈んで……、何もない空間にいた。

 

 クッションとの相性が良すぎたらしい。

 

 


 

 

 

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