1000文字超の作品
第2話 クラス転移で大惨事
まぶしい光が少しづつ収まり、周りが見え始めると、声をかけられた。
「勇者様方!!ようこそ我が国へ!お出でいただきあり……がと……ござい……ま……」
尻すぼみになる声の方へ目をやると、中世ヨーロッパ風コスプレ集団がいた。
歓迎されているのかと思ったが、そうではないようだ。
集団の代表と思われる煌びやかなドレスの女の子が、汚いものを見るようにオレ達を見ていた。彼女だけではない。周りのコスプレイヤーも同じような目つきだ。
オレ達男子は、汚れていた。
ここに来る前の6時間目が、体育だったから。
白熱したサッカーの授業だった。体育祭の練習や台風で久しぶりのグラウンド授業。いやー、楽しかった。汗と土にまみれて、体操服が茶色いから、いや、服だけじゃなく、腕や足、顔も土まみれ。すり傷多数。一応、洗ったり、払ったりしたが、そこまできれいにはならない。
結局、ここに呼ばれた説明の前に、入浴を命じられた。案内人の後について、浴場へ向かう。素直についていく。みんながこんなに簡単に受け入れているのは、一部のクラスメイトのせいだ。
さっきの部屋でコスプレ集団を見てから、「クラス転移だ!」「異世界召喚だ!」テンションが高い。周りが引くほどのはしゃぎっぷりだ。そんなヤツラを見ていると、動揺している自分がバカみたいだ。みんなもそうなのだろう。
男女別の扉に入る。脱衣所があり、メイドさんがいた。オレ達の担当らしい。なぜこんなトコにとおもったら、服の回収のためらしい。魔術師たちの研究材料になるそうだ。
メイドさんが出て行ってから、服を脱ぎ指定されたカゴに入れる。風呂場に入り、まず、はしゃいでいたクラスメイトにオレ達の現状を解説してもらう。
それによると
・魔王軍などの敵と戦う戦力として、召喚される。
・一クラスや数人のグループ、一人など人数はいろいろ。
・召喚されると強力なスキルを与えられて、勇者として戦う。
・勇者はこの国の人々よりステータスが高く、伝説の武器や魔法が使えることもある。
・敵に勝利すると、帰ることができる。 等々
他にもいろいろ言っていたが、あまりのファンタジーに半信半疑だ。他にここにいる理由を説明できる人がいないので、信じるしかないようだ。
考えつつ、お湯で髪や身体を洗う。茶色くなったお湯が流れていくのを見て、急に現実的なことを思う。
土、詰まらないよね。掃除誰がするんだろう。魔法でパパパッとできるのかな。掃除担当者が、タワシでゴシゴシなのかな。
お掃除の人ごめんなさい。
風呂場を出ると、自分たちの服はなく別のがあり、それを着る。みんなが着終わってから、外の人に声を掛けると召喚された部屋とは別の部屋に案内された。
そこで、コスプレ集団から説明を受ける。
魔王軍と戦うための勇者を召喚するのに集められたのが、コスプレ集団らしい。第一王女、魔術師数人、騎士数人。コスプレではないようだ。
「この国から争いを無くすために、お願いします」
オレ達と同じ年くらいの王女が、頭を下げた。
長々と説明されたが、大筋は風呂場で聞いた話と大差なかった。
夕食の後、男女別の大部屋へ案内された。個室じゃないことに文句いうヤツもいたが、オレはみんなと一緒でよかった。口に出さないけどね。
これが召喚一日目のこと。
二日目から、剣や魔法の特訓が始まった。
オレ達のステータスを鑑定した魔術師が、武器グループと魔法グループに分けた。
騎士や魔術師から各グループ指導を受ける。勇者補正のおかげか、大きなケガもなく特訓は進んだ。訓練場の周りに咲く赤い花。花に癒されるなんて、思っているより、疲れているのか。
四日目に異変があった。担当メイドさんが、違う人になった。
今までの人は熱を出して倒れてしまったそうだ。
変じゃないか?
回復魔法もポーションもある世界なのに。
五日目。
回復魔法もポーションも効かない熱を出し、魔術師二人が寝込み、魔法グループの特訓内容が変更になった。
翌日、翌々日は何事もなく、過ぎた。
嵐の前の静けさだった。
それからは毎日のように人が倒れていった。
原因がわからず、城内で働いている人が倒れていく。
オレ達も特訓どころではない。看病や食事の支度などクラス全員で手伝った。
国中から薬草を取り寄せ、調合師が、配合を変えポーションを作るが、効果なし。
魔術師を何十人と呼び寄せるが、誰の回復魔法も効かない。みんな熱で倒れていく。
どうしていいか分からない日々を過ごすうち、衝撃的な知らせが入ってきた。
最初に熱を出したメイドさんが亡くなった。
それだけではなかった。
城の外にも、患者が出たのだ。王都だけではなく、それ以外の街にも。
熱はどんどん広がり、城内では死者が増えていく。いずれ、外にも死者が出るのだろう。
オレ達もみんな倒れそうだった。勇者だからなのか熱は出ていないが、体も心も疲れていた。
イヤな考えが浮かぶが、考えないようにして働く。
国内だけではなく、隣の国にも患者が出た。驚いたことに、魔王軍にも被害が広がっていった。
魔族が熱を出して倒れる。不謹慎だが笑ってしまった。が、すぐに真顔になる。
今、この世界で、はやっているのは、魔族すら倒す病。
考えないようにしていたことが、頭に浮かんでくる。
なぜオレ達は、無事なのか?
勇者だからなのか?
オレ達には影響はないが、異世界の住人には害を与えるナニカのせいではないのか?
そして、それを持ち込んでしまったのは、オレ達ではないのか?
いや、もう考えないようにしよう。
オレ達は、生きている。
ああ、この世界の人に出会わなくなって、どれくらい経ったのだろう。
また、赤い花が咲く季節が始まる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます