第4話 あなたのための晩ごはん

 あなたのために心を込めて晩ごはんを作るの。

 

 おばあちゃんに教えてもらったこと、お母さんに教えてもらったこと、料理の本や動画、それらを使っておいしい晩ごはんを作るの。


 毎晩十時過ぎに帰ってくる夫のアキラさんは、仕事の疲れをとるために、まずお風呂に入る。その間に私は作っておいたおかずやお味噌汁を温めなおす。

 以前はいっしょに食べていたけれど、この時間に食べると胃が重くて次の日もツライ。それとなくそんな話をしたら「僕のことはいいから。先に食べて」

 三年くらい前のことだったかしら。あなたが優しくそう言ってくれたのは。それからは、先に晩ごはんを食べてあなたが食べるときは、ハーブティーを飲んでいる。そして、その日にあったことをお互いに話す。時間は短いけれど大切な時間だった。


 「アキラさん、食事のときはスマホを見ないで」

 初めて言ったのは、いつだったかしら。最近は、毎日のように言っている。

 今日もそう言うと、あなたはスマホを握ったままテーブルを見る。少し顔をしかめるが、何も言わずに椅子に座り、食べ始める。

 今日のメインは天ぷら。スイカサラダに、昨日の残ったおかず。一昨日のも。

 ねえ、何も言わないの? 変な組み合わせだって、思っているんでしょ。

 気になるなら、片時も手放さないスマホで調べたらいいのに。


「明日、晩ごはん食べてきて。私、友達と食べに行くから。駅ビルに新しく入ったパスタのお店」

 会話というよりも、必要事項の伝達よね。返事も「ああ」だけ。それだけなの?先週食べに行ったけど、おいしかったよ、とか言わないの?言えないの?


 あなたのための晩ごはんに何を作ろうか考える。

 食欲の秋だもの、たくさん食べてもらわなきゃ。

 そばとナスの漬物だけだと、寂しいわね。天ぷら。天ぷらがいいわ。ごちそうって感じが出るし。後片付けは、面倒だけど。

 この前ネットで見た、鰻蒲焼おいしそうだった。刻んだ梅干しを混ぜた梅ごはんと食べるの、いいかも。

 秋は柿よね。そばの食後に出せばいいかしら。

 あ、松茸。松茸ごはんとアサリの味噌汁。うーん、高いよね、国産松茸。

 

 そうか、もっと積極的に攻めていけばいいのよ。

 私が、キノコ狩りにいけばいいのよ。

 松茸は取れなくても、他にもいろいろなキノコがあるわ。今の時期なら山には、いろいろなキノコが生えている。いろいろなキノコが。

 

 次の休みの日にキノコ狩りにいこう。

 今から楽しくなってきたわ。


 心を込めてあなたに晩ごはんを作ろう。

 私が採ってきたキノコで。

 



 


 

 



 


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