Ball & Ch(a)in

「申し遅れたが、私はチン・ポウコウという者だ。この先に……」親指で方向を示す。「珍陳桜ちんちんろうという店があるだろう。アソコを所有している」

 珍陳楼ちんちんろうと言えば、全米に支店を持つチャイニーズ・レストランだ。

「その珍陳楼ちんちんろうのボスが、何故俺に浮気調査なんかを? 下のモノを使えば一発でしょう」

「ボスだからこそだ。身内の者には、私の柔らかい部分を握られたくない。それにあんたはカタいと評判なのだ……口がな」

 確かにカタさにはそれなりの自信がある。情報を、口に出したことはない。

「ナニよりも私は、おだやかにコトを済ませたいのだ。妻を愛しているから……」

 キム氏はそうつけクワエた。


 俺は改めて写真を見た。

 女は横顔、男はカメラに背を向けている。

「これっきりしかないんですね?」手に持ってブルンブルン振りながら尋ねた。

「そうだ。私が昨晩、車からどうにか撮った。妻をバックから攻め追ったが、数分ばかり見失った。再び見つけたと思ったらその男といたのだ。顔は見えなかった。ようやっと一枚撮れたんだが、群衆がくんずほぐれつで入り乱れている中に消えてしまった」

「単なる男友達、ってことは?」

「ないと思う。私に嘘を言って出かけたから。『今夜は一人で遊んでくる』と……」

 チン氏はそう言ってから、額に手を当てた。肉の垂れた顔が熱気でムレている。それはある物体を思い起こさせた。

「……私のどこがまずかったんだろう?」

 それは独り言だった。

「ひどいことでも言っただろうか……? 最近様子が変で、まさかとは思ったが……見知らぬ男とあ あなる とは……」

 それはシット心ではなかった。不安と哀しみからポロリとハミ出た言葉だった。

 キンマンなのに出来た男だ、と俺は素直に感心した。この爺さんは、悪い人間じゃない。 

「奥さんの名前は?」 

「デッカ・パインだ。英国人でね」

 チン氏は優しく、撫でるように言う。

「普段はデビィと呼んでいる」

「わかりました、ヤりましょう」俺は頷いた。

 チン氏は顔をこっちに向けた。白いものの多い頭から体液が散った。

「ヤッてくれるかね?」 

「えぇ、できるだけ早くヤります」



 チン氏は太い、肉の棒のような体を持ち上げて、サウナから出ていった。

 俺は俺自身が熱でムレムレになっていくのを感じながら、もう一度、写真を見た。


 実は、この事件の解決には一日もいらない。

 サウナを出て、着替え、事務所へ戻り、電話を一本かければそれで終わるのであった。


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