Ball & Ch(a)in
「申し遅れたが、私はチン・ポウコウという者だ。この先に……」親指で方向を示す。「
「その
「ボスだからこそだ。身内の者には、私の柔らかい部分を握られたくない。それにあんたはカタいと評判なのだ……口がな」
確かにカタさにはそれなりの自信がある。情報を、口に出したことはない。
「ナニよりも私は、おだやかにコトを済ませたいのだ。妻を愛しているから……」
キム氏はそうつけクワエた。
俺は改めて写真を見た。
女は横顔、男はカメラに背を向けている。
「これっきりしかないんですね?」手に持ってブルンブルン振りながら尋ねた。
「そうだ。私が昨晩、車からどうにか撮った。妻をバックから攻め追ったが、数分ばかり見失った。再び見つけたと思ったらその男といたのだ。顔は見えなかった。ようやっと一枚撮れたんだが、群衆がくんずほぐれつで入り乱れている中に消えてしまった」
「単なる男友達、ってことは?」
「ないと思う。私に嘘を言って出かけたから。『今夜は一人で遊んでくる』と……」
チン氏はそう言ってから、額に手を当てた。肉の垂れた顔が熱気でムレている。それはある物体を思い起こさせた。
「……私のどこがまずかったんだろう?」
それは独り言だった。
「ひどいことでも言っただろうか……? 最近様子が変で、まさかとは思ったが……見知らぬ男とあ あなる とは……」
それはシット心ではなかった。不安と哀しみからポロリとハミ出た言葉だった。
キンマンなのに出来た男だ、と俺は素直に感心した。この爺さんは、悪い人間じゃない。
「奥さんの名前は?」
「デッカ・パインだ。英国人でね」
チン氏は優しく、撫でるように言う。
「普段はデビィと呼んでいる」
「わかりました、ヤりましょう」俺は頷いた。
チン氏は顔をこっちに向けた。白いものの多い頭から体液が散った。
「ヤッてくれるかね?」
「えぇ、できるだけ早くヤります」
チン氏は太い、肉の棒のような体を持ち上げて、サウナから出ていった。
俺は俺自身が熱でムレムレになっていくのを感じながら、もう一度、写真を見た。
実は、この事件の解決には一日もいらない。
サウナを出て、着替え、事務所へ戻り、電話を一本かければそれで終わるのであった。
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