第95話
「なんか賑やかだと思ったら……あんたたちなにしてんの?」
シズクちゃんと入れ替わるように後ろからやって来たのは相原ミナミと新井ホノカだった。
「二人とも来てたんだな」
「うん。松方君が教えてくれたんだ」
わかりやすいリキヤはそっぽを向いて知らん顔をしている。
「てかなに?その恰好?」
「見てわかるだろ。ドラキュラだよ」
「それはわかるけど、エツジがそんな恰好するなんて珍しいでしょ」
「どうせお前も似合ってないって言いたいんだろ?」
「ひねくれてんねー。珍しいって言っただけでうちは案外悪くないと思うよ」
「ミナミちゃーん!」
会話の途中でマコトが相原に勢いよく抱き着いた。マコトと相原は仲がいいと聞いてはいたが、顔を合わせるのは久しぶりのはずだ。結局バスケの練習に連れていくよりも先に文化祭を迎えてしまった。
積もる話もあったのか、そのままずるずるとマコトに相原を奪われてしまった。女子たちは全員面識があるようで、いつの間にか女の子同士で盛り上がっている。コウキもそこに混ざり、俺とリキヤだけが取り残されてしまった。
「ちゃんと声かけてたんだな」
「俺はただ文化祭があるってことだけ伝えただけだ」
腕を組んで険しい表情をしているリキヤだが、決して機嫌が悪いわけではないことはわかった。
「この後はどうする?誘ってみるか?」
「いや、あいつらはあいつらで回るってよ。悪いがちょっとしょんべん行ってくる」
リキヤは背を向けて行ってしまった。
「あれ?リキヤは?」
女子たちのところにいた相原が再び俺の下へやって来る。
「トイレだってよ」
「ちょうどよかった。聞きたいことがあったんだよね」
「なにを?」
「リキヤってさ、一人になるタイミングとかないの?ほら、自分のクラスの当番とかさ」
何故その情報を知りたいのかは理由を聞かずともわかる。相原も事情を知っている俺には説明も誤魔化しも省いていた。
「確か午後から自分のクラスの当番でちょっと抜けるって言ってたな。コウキたちの劇には間に合うって言ってたから多分二時とか三時だと思う」
「なるほどね。あいつのクラスだったらチャンスね」
リキヤのクラスは各自制作したアートの展示をしている。アートと言っても熱を入れた作品は少なく、正直人もまばらだ。俺たちも覗いてみたが、皆感想に困っていた。
もし俺が想像している理由で聞いてきているのならうってつけだろう。
「あれから進展はあったのか?」
「やり取りはしてるみたいだけどね。どうにも一押しがなー…」
相原が新井さんに向けた眼差しに、まるで妹に向けるような、母性にも似た暖かいものを感じる。
「リキヤが抜けたタイミングで連絡するよ。それくらいは手伝ってもいいだろ?」
以前、出過ぎたことはしないほうがいいと言われたが、俺としても二人のことは気になる。強制はしたくないが、できることなら応援したい。相原も同じ気持ちのようで「ありがと」と素直に受け入れてくれた。
「……ちなみにそん時ってエツジはなにしてんの?」
「俺?俺はどうだろうな……俺も自分のクラスの様子を見に行くかな。そこでなにもなければぶらっとして、それからコウキたちの劇を観に行く感じかな」
「……ふーん……あっそ」
相原から聞いておいてそっけないように感じたが、リキヤの延長線上の会話と思えば妥当だろう。
リキヤが戻ってくると、相原も戻っていった。それから少し話して、相原たちと別れた。
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