第64話

 チーム分けは俺と相原、リキヤと新井さんというペアに決定した。そうなるように誘導したのは有言実行の相原だ。4人なので組み分けのパターンは少なくローテーションもするのだが、少しでも話す時間が増えるのを狙ったのだろう。同じチームだと協力したり一緒に喜んだりと、感情を共有できるのでより仲も深まる。

 始まってみれば相原の思惑通り、久しぶりに会ったのを感じさせないくらい現役バスケ部2人の息はピッタリでチームワークは抜群だった。その熱にあてられて俺たちも熱くなるが、俺は経験者というだけなので一方的ではないにしろ終始押されぎみだった。よくよく考えればパワーバランスが偏っている気もするが、少しでも新井さんの助けとなるため必死でリキヤに喰らいついた。


「まだまだいけるな、エツジ!やっぱり俺と一緒にバスケ部で全国を目指そうぜ!」


「いや…もうすでにギリギリなんだけど…」


 謙虚なわけではなく、本当のことだ。リキヤは軽くプレイしているのに俺は全力を出さないとついていけない。2対2ということで運動量も多く、それに加えて体格差があるので倍くらい体力を消耗している。形だけはまともだったが、シュート精度も大分落ちていて少しショックを受けた。

 相原は俺と違って新井さんと互角に渡り合っている。運動神経が良く、バスケ経験者とは聞いていたがここまでできるとは思っていなかった。顔も生き生きしていて、楽しんでいるようだ。

 ずっと同じペアのままというわけにもいかず、10分区切りで休憩を挟む時に人を入れ替えながら、俺たちはしばらくバスケに熱中した。

 組み合わせが一巡したところで長めの休憩をとることにする。


「松方君、高校に入ってさらに上手になったんだね」


「ホントか?そう言われると嬉しいな。おい、聞いたか相原?」


「ホノカは優しいからねー。うちはそうは思わなかったけど」


「あれ?前に上手くなってるって言ってなかったか?」


「ちょ、エツジ!うちはそんなこと言ってない!まあまあとは言ったけど上手いとは…」


「相変わらず素直じゃないんだな」


 やれやれ、というリキヤの態度に相原がキーキー言っている。なだめる新井さんも大変だなと思いつつもその光景が何だか微笑ましい。


「はぁー…もういいわよ。声出したら喉乾いてきちゃった。飲み物買ってくる」


 その言葉の途中で相原と目が合った。アイコンタクトの意味合いはついてきてということだろう。俺に伝えた後、今度は新井さんにも目線を送っていた。その意味も何となく察することが出来る。


「俺も飲み物無くなったし一緒に行くよ」


「だったら俺も買いに行くかな」


「俺がついでに買ってきてやるよ。スポドリでいいよな?」


 流れでリキヤもついてきそうになったが、なんとか阻止することができた。「いや俺も行く」と一回では受け入れてくれなかったが、俺と相原で強引に押し切った。なんとなくだが、この時間が2人きりの時間で一番のチャンスだと思った。だからこそこれが俺たちのやれる精一杯のこと。我ながらナイスアシストだと思う。

 この体育館の唯一の自動販売機は外にあり、横にテーブルとベンチがあって休憩できるようにもなっている。飲み物を買った後、「ちょっとだけ休憩してこっか」という相原の提案に賛成して横のベンチに腰を掛ける。リキヤの飲み物はまだ残っていたので少々戻るのが遅くても大丈夫だろう。


「それにしても相変わらず相原はリキヤと仲が良いんだか悪いんだか」


「それはうちのせいじゃないし!あいつがいちいち悪態つくのが悪いんじゃん!」


 相原本人はムキになっている自覚は無さそうだ。クスッと笑ったら「何?」と睨まれたのでそれ以上言うのは止めておいた。


「まあでも新井さんとリキヤは良い感じだったんじゃないか?」


「うーん…どうだろ。前から仲は良かったし、悪くはないけどもう少し積極的になるといいんだけどなー。ホノカは背が高くてスタイルも良いし、大人しめだけど優しくて、最近になってますます美人になったんだからもっと自信を持っていいと思うんだよね。リキヤにはもったいないくらいなんだから…エツジもそう思わない?」


 そう語る相原は随分力がこもっていて、あまりの迫力に押されてしまう。


「あ、ああ、確かに新井さんはもっと自信持っていいと思う。久しぶりに会ったけどまた綺麗になってたな」


 リキヤと新井さんが並んで歩いている姿を想像してみるとお似合いという言葉がすぐに浮かんだ。リキヤも身長が高いのでバランスが良く、性格的にも雑なリキヤを新井さんがフォローするといった感じで上手くいきそうだ。

 俺が頭の中で2人の様子を勝手に想像していると、正面からじとーっとした視線を感じた。


「……どうした?」


「別に…。ただうちは何も言われてなかったなーって思っただけ。ホノカのことは綺麗になったって言うのに、うちには何もなしかー…」


「いや、それは相原が聞いてきたから答えただけで…」


「そりゃそうだよね。昔からうちは女の子っぽくなかったし?そういうのにも疎かったから。…でも…これでも高校に入って少しは努力したんだよ?別に期待してたわけじゃないんだけどね?可愛くなったと思ってるわけでもないんだけどね?ただちょっとはマシになったっていうか…なんかホノカだけ言われるのも…」


「面と向かって言うのは恥ずかしいんだけど…相原も可愛くなったと思う。それは夏休みに会った時にも思ったけど、わざわざ言うのもなって思って。それに俺なんかに言われても、だよな」


「俺なんかってことはないけど…。でもなー…そんな取って付けたように言われてもなー…」


「本当だって。ていうか相原は前から女の子らしかったぞ?」


「絶対嘘じゃん…。だってうちだよ?がさつだし、可愛くないし…」


「そうか?確かにサバサバしてる部分はあるけど、俺はそういうとこ良いと思うけどな。それにいつも部活で一緒だったからな。意外とまめなところとか健気で繊細なところも俺は知ってるよ。相原こそ自信持てよ。俺からしたら中学の頃から相原は可愛いと思ってたぞ?」


 喋り終わった後に相原を見るときょとんとした顔をしていた。しばらく見ていたらその顔が段々と赤くなっていく。

 自分が臭いことを言っているのは自覚していたが、相原の反応が面白かったのでこれでもかと言わせてもらった。もちろんお世辞ではなく全部本当のことなので悪いことはしていない。


「あれ?もしかして相原…照れてんのか?ほら、そういうとこが女の子らしくて可愛いじゃん」


「う、うっさい!調子に乗んな!」


 からかいすぎたのかプイっと顔を背けてしまったが、拗ねているように見えるその顔は紛れもなく可愛らしい女の子だった。

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