第三章
第53話
新学期早々、席替えが行われる。教室がざわめいているのはそのせいだろうか。
席替えを控えた生徒たちの反応は様々だ。ある者は教師の監視レベルが高い前列からの脱出を願い、ある者は授業が受けやすいように黒板が見やすい位置を願い、ある者は仲の良い人ないし仲良くなりたい人と少しでも近い席になれるように願っている。それぞれ願望はあるにしても、席替え自体には喜んでいる人が多い。
一方であまり気乗りしない人もいる。元より自分が希望していた席にいる人、近くに仲の良い人がいる人等、今いる場所に満足している人たちだ。窓際一番後ろで前には気の知れた仲の内山君がいる俺もその内の1人。
「今の席よかったのになー…。せっかく二宮君とも仲良くなれたのに」
内山君も気乗りしていないようだ。内山君とも席が近いおかげで友達になれたので、やはり俺たち学生にとって席替えとは学校生活に大きく影響を与える行事なのだ。
「僕、まだ話したことない人沢山いるんだよなぁ…。馴染めなかったらどうしよ…」
内山君が口にした不安に共感できる人は多いのではないだろうか。今となってはケイスケやエリカのおかげでクラスに馴染めてきてはいるが、俺もまだまだ日陰者。自虐ではないが内山君の気持ちはわかる。内山君も静かなタイプだし、人見知りをするようなのでできれば席を替えたくないと思うのは当然だ。
特定の誰かと隣になるのが嫌だというわけではなく、騒がしい人は騒がしい人と、静かな人は静かな人と近いほうがそれぞれ上手くいくと思う。言い方は良くないが単に言えば陽キャと陰キャで別れるということ。主に静かな人たちの主張かもしれないけど…。
いくら文句を言ってもそんな都合のいいシステムで席が決まるわけではなく、教卓の上に置かれているのは手作り感満載のくじ引きの箱。古来よりこの方法が主流なのは変わらない。
「やっぱり不安になってきた…。どうしよ?一番前の席を引いて、しかも隣の席の人と仲良くなれなかったら…。やっぱり二宮君と離れるの嫌だよ!」
そう言ってくれるのはありがたいが俺にはどうしようもない。俺よりも焦っている内山君を見ていると何だか心配になってくる。
「大丈夫だって。席の場所はわかんないけどマイナスに考えすぎだよ。もしかするとまた俺も近くになるかもしれないし」
それに、内山君の人の良さなら誰とでも仲良くなれるだろう。
くじは廊下側の前の席に座っている人から縦の順に引いていく。そうなると俺は必然的に最後に残ったくじを引かなければならない。高校生にもなって「不公平だ」なんてごねるわけにもいかないし、残り物には福があるという言葉もある。所詮は運なので俺はただ祈りながら順番が来るのを待った。
皆が席を移動する中で俺1人だけ座ったまま待機している。つまるところ俺は以前と同じ席を引き当てたということだ。どうやら俺は運がいいらしい。
あとは隣と前の席に誰が来るかが問題だ。できれば内山君がよかったが彼は最後に振り返って「また遊びに来るから…」と悲しい顔をして去っていった。次の候補としてケイスケ辺りだと喋りやすいのだが。
「よろしくね。エツジ君」
どうやらやはり俺は運がいいらしい。隣に来たのはお目当てのケイスケではなかったが、おそらくこのクラスで一番仲が良い人だった。
「よろしくな。エリカ」
まだ移動し終えてない人もいる。エリカの移動量は少なかったようだ。
「エツジ君が隣にいるなんて嬉しいわ」
「俺もエリカでよかったよ」
夏休み前の俺だったら目立つことを嫌っていたので、エリカが隣に来ても素直に喜べなかったのだろう。でも、今は純粋に喜んでいた。夏休みを通して距離が縮まったように感じていたのは俺だけかと思っていたが、横で喜んでいるエリカを見ると俺だけではないのかもしれない。
「フフッ…。私、日頃の行いがよっぽど良かったのかしら」
「そんなに言うほど良いことか?」
「ええ。とっても。もう一生席替えしなくてもいいわ」
「言い過ぎだろ」
照れ隠しで一瞬目を逸らした。エリカが俺をからかうのはいつものことではあるが、例え冗談であっても嬉しいものは嬉しい。
夏休みに俺のエリカに対する意識が変わったことを抜きにしても、エリカが隣に来たのは俺にとって素直に良いことだ。
エリカとは気楽に喋ることができるし、集中する時はお互い静かにするだろう。勉強面においても教え合うことができるので、このクラス内においてベストな人物だと思う。向こうもそう思っているから喜んでいるのだと思う。
「授業でわからないことがあってもエリカに聞けるから助かるな」
「エツジ君でもわからないことあるの?でもまあその時は遠慮せず聞いてね。私も…頼らせてもらうから…」
エリカにわからないことは俺にもわからないと思うが、何はともあれ無事に席替えを乗り越えることができそうだ。
「これから毎日学校に来るのが楽しくなりそうね」
「そうだな。俺も―――」
「僕の席はここだね!」
俺たちの会話を遮るようにハキハキとした大きな声で席を確認したのは
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