第40話
この取り調べは任意では無いようだ。逃げ道を閉ざすように俺とコウキを囲んで座られた。警察顔負けの鋭い眼光は、一つの失言すらも見逃してはくれないだろう。もう一度言うが、悪いことはしていないのだが…。
「さて、とりあえずどういうことなのか説明してもらえるかしら?」
「説明も何も遊んでただけだって。他校の子と交流を深めようって趣旨で集まったんだよ。向こうが商業高校ってことで女子と男子で綺麗に別れたけど」
コウキも言うべきところははっきりと言う。そわそわしてるとそれに付け込まれて言いたい放題言われるからな。コウキがそのスタンスなら俺も堂々としていよう。
「コウキ兄、昨日電話で合コンって言ってたよね?」
早くも痛いところを突かれたコウキは初っ端から大ダメージを負った。シズクちゃんの冷たい眼差しが追加のダメージを与えている。
「で、エツジもそれを知ってて参加したってわけ?」
「ちょっと待て。エツジは悪くない。俺が知らせずに誘ったんだ。断ることもできたのに俺の顔を立てようと参加してくれたんだ」
せめてエツジだけでも、とコウキは庇ってくれる。今回ばかりはその行為に甘えてやり過ごそう。
「そんなことだろうと思ったわ。だけど参加した時点で同罪よ」
「そうね。理由はどうあれ参加したことに変わりはないわ」
コウキというシールドは案外もろかったようだ。まだやれると言わんばかりに応戦しようとする瀕死のコウキに「コウキ兄はもう黙ってて」とシズクちゃんがとどめをさす。その一言でコウキは死に体となってしまった。
「エっ君からは何かないの?」と聞かれたので、コウキの死を無駄にしないために俺も覚悟を決めた。
「仮に合コンだとしても、別に俺とコウキが参加するのは問題ないんじゃないか?2人とも彼女いないんだし、そういうのにも興味有って当然だろ?」
はっきりさせるべくはここ。再三言うが俺たちは何も悪いことをしていない。そこを主張しないと大前提が崩れてしまう。
その主張に「問題大有りね」と異議を唱えたのはエリカだ。
「そもそも私たち高校生で合コンするというのが良くないわ。男女の交際については否定しないけど、相手については然るべき人と時間を重ねてそうなるべきよ。合コンなんて盛りのついた不埒な輩が集まる場は私たちには必要ないはず。健全で高校生らしい出会い以外は認めないわ」
偏見が過ぎるだろ。今時合コンなんて珍しいことでもないはずなんだが。エリカが語り終えると、「そうよそうよ」とサユリも頷く。
「エツジに合コンなんてチャラついたことしてほしくないの!そんなに彼女が欲しければもっと身近な所に相応しい人がいるんじゃない?……その…ほら…いるでしょ…近くに…」
サユリやエリカが合コンのようなチャラついた催しが嫌いなのは知っている。マコトやシズクちゃんも同じだろう。だからこそ友達の俺たちがそれに参加しているのを嫌がるのもわかる。
「言いたいことはわかるけど、身近にそんな人がいないから参加するのも一つの手だと思うが」
「よーく考えてみて?誰か心当たりあるんじゃない?た、例えば…一緒にプリクラを撮った人とか……誰かしらいるんじゃない?」
「心当たり無いな。一緒に撮った人なんてサユリ以外いないんだけどな」
「……どういうこと?サユリ、もしかしてあなた……。ちょっとエツジ君!聞いてないわよ!どうしてエツジ君の家で2人きりの時に言ってくれなかったのよ!」
まーた無茶苦茶を言っている。そんなこと逐一報告しないだろ。ただでさえ恥ずかしいのに。
俺が勘違いしてしまったのも毎度2人が張り合うのが理由の一つだろう。このやり取りを聞いていれば、もしかして…なんて思ってしまうのも大多数ではないだろうか。
「待って。エツジの家ってどういうこと?私行ったことないんだけど!」
「あら、そうだったの?ただ単に2人で勉強して…それから、あんなことやこんなことをしただけよ?」
どんなことですか?
「何よそれ!…ずるい…私だって…その…ほぼほぼ…キ…プリ…みたいな?」
よく聞こえないが多分お得意の捏造だろう。
マコトの忠告が無ければ、目の前のサユリとエリカのやり取りを違う気持ちで受け取っていただろう。今だって、「どうなの?!」と問い詰められているのに悪い気はしていない。モテたことのない俺がそれに近い気分を味わっているだけだが。
本質は違う、それはわかっている。どこかで、これが純粋な男女の好意として向けられたものだったらなーと思う自分がいるのは、まだ幻想に囚われているからだろうか。
――――――わかってるよね?
離れた席から俺を見ているマコト。無言なのにその意思ははっきり伝わってくる。以心伝心という言葉が当てはまるくらいには俺とマコトの関係は深い。
――――――わかってるよ…。
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