第4話

 しばし余韻に浸っているとポケットでブブッとスマホが震えるのを感じた。


母さん〈夕飯できてるけどいらないの?〉


「やば、連絡するの忘れてた。もう帰らないと。そういえばエリカたちは何か用事があったのか?」


 この駅は俺たちの学校から近くて周辺も店が多いので生徒たちをよく見かける。遊ぶと言ったらだいたいこの辺りが多い。2人と会うのはおかしいことではないがふと疑問に思った。


「私たちも部活が終わったらあなたたちと合流するつもりだったのよ」


 「そうだったのか」と納得してサユリの方を見るとサユリは納得していないようだった。


「別に呼んでないんだけど」


「あら、そうだったの?てっきりいつものメンバーで集まるのかと思ったわ。まさか2人だけで抜け駆けなんてするわけないと思ってたわ」


「そもそもなんで知ってたのよ!」


 あ、そういえば教室でこのこと話したな。まあいいか。


「話の途中で悪いがそろそろ帰らないか?4人だけど久々に集まれたし、今日のところはこの辺で」


 ここらで区切りをつけないとだらだらと長引きそうだったので会話の途中に割って入る。

 リキヤは「まだ何もしてないんだが」とごねていて、サユリとエリカは何故か2人で睨みあっている。結局、次回またみんなで遊ぶという形で折り合いをつけてもらった。


 渋々、駅に向かう3人の姿と漂う雰囲気に中学の頃を思い出す。ついこの間のことなのに懐かしくも感じる。外見や立場が変わっても中身は変わっていないのに、みんなを遠く感じているからだろうか。

 ただ、久々に4人で話しているこの時間はなんだかんだで悪くない。


「楽しいな」


 誰にも聞こえないように呟いた言葉はそのまま空気中に消えていった。


「ねえ、エツジ」


「どうした?」


「さっき先輩に言ってたことなんだけど」


 どのことだろう?


「サユリは俺の彼女って……」


 あー、その部分か……。


「恥ずかしいから掘り返さないでくれよ。彼女なんていたことないんだから、なんて言ったらいいかわからなかったんだよ」


「馬鹿になんてしてないよ。むしろ…嬉しかった……」


 また最後の方聞こえなかった。たまに声が小さくなるんだよな。


「まあ彼氏役として言ったことだからな。あんまり気にしないでくれ」


「……じゃあその後言った可愛いっていうのは?」


「あれも彼氏役としてだな」


 俺を見ながらサユリはムッとしている。


「でも嘘は言ってないよ。誰がどう見てもサユリは可愛いだろ?」


 今度は逆方向を向いている。よくわからないやつだ。


「へ、へぇー、そうなんだー。エツジも可愛いって思ってるんだ。フーン…あの、さ、エツジさえよかったら本当の―――」


「そういえば私もエツジ君に相談があるのよね」


「ちょっと!今私が話してる途中でしょ!」


「あら、そうだったの?声が小さくて聞こえなかったわ。それより―――」


「なに続けてんのよ!今日は私の為に来てもらったんだからね!」


「でもあなたの頼み事は終わったのでしょう?なら次は私の番ね」


「待て待て。次とかないから。今回は本当に困ってそうだったから引き受けたけど」


「なに?サユリのは引き受けて私の頼みは断るの?」


 こういう時のエリカは圧がすごいんだよな。


「頼み事なら俺もあるぜ!エツジ、一緒にバスケやろうぜ!俺とお前なら全国だって―――」


「「うるさいゴリラ!」」


 見事にそろった声にリキヤだけじゃなく俺も驚いてしまった。


「私よ!」


「いいえ私よ」


「俺だろ!」


 3人に詰め寄られている俺が今1番困っていることに気付いてほしいのだが。


「お前らなー」


 仮にも学校のアイドル的存在、仮にも男子女子ともに人気の美人委員長、仮にも1年でバスケ部期待のエース。


「自分の立ち位置考えたら他に相談する相手がいるだろ!」


 ――――――いい加減、陰キャの俺を頼るのやめてもらえませんか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る