第135話ただ一つを求めて
『ショーゴっ! エルハイミ、何とかしてよ、ショーゴが、ショーゴがぁッ!!』
「ぐおぉぉぉぉぉっ! は、離れろシェル! イオマ、いい加減に目を覚ませぇっ! ぐはあっ!!』
『ショーゴぉっ!! うわぁっ!!』
その瞬間世界が揺れた。
いや、普通の人には分からないかも知れないけどあたしにははっきりわかった。
一体あっちで何が起こっているのよ!?
『エルハイミぃっ! ショーゴが、ショーゴがぁぁっ!!』
「落ち着きなさいですわシェル! 何が起こったのですの!? それにこの揺らぎは!?」
「『まさか‥‥‥ ふ、ふん、ショーゴさんやってくれますね‥‥‥ 自爆したお陰で異界壁が不安定になりひびが入ってしまった‥‥‥ これでは世界の壁が崩壊してこの世界が無くなってしまう!』」
イオマはそう言って異界からの嫌悪を止める。
そして手を振ると緑のキラキラした光の粒子とシェルが空間に現れる。
「あ、ここは!? エルハイミ!? エルハイミっ! ショーゴが、ショーゴがぁッ!!!!!」
シェルが泣きながらあたしに抱き着いてきてわめく。
「落ち着きなさいですわ、一体何が有ったというのですの?」
「ショーゴが、ショーゴがあたしを突き飛ばした瞬間に爆発ちゃったのよ! 双備型魔晶石核の胸があのエルハイミがアイミを使った時のように緑の光を放ちそれが膨らんで行って‥‥‥」
なっ!?
ショーゴさんの双備型魔晶石核が暴走?
い、いや、ショーゴさんは前から変な事をつぶやいていた。
まさか双備型に異常があったのに気付いていた?
「『全くやってくれます‥‥‥ でも、もうこれでは崩壊が止められない。ふふふふっ、まあいいです。これで終わり。全部終わりですよお姉さまっ!! あはははは、あーっはっはっはっはっはっはっ!!』」
イオマは宙に浮きながら大笑いを始める。
そしてがっくりと肩を落とす。
「ショーゴさんのバカ。なんで…… 本当に死んでしまうなんて‥‥‥ それに双備型を最後に暴走させるなんて‥‥‥」
「イオマ?」
「イオマ、先ほどの衝撃、世界の壁にひびが入ったとはどう言う事ですの!?」
あたしたちはうなだれるイオマを見る。
そして驚く。
顔の半分が憎悪に歪み、そして顔の半分がいつものイオマのまま涙をぼろぼろと流している。
『ぐっ、もう遅い! ショーゴさんのせいで世界の壁にひびが入った。もうそのひびを修復する事は出来ない。この世界は終わりだ! お姉さま、私と一緒に来てくれれば‥‥‥ でも、もう終わり。すべて滅ぶのです!!』
「お姉さま‥‥‥いくらお姉さまの力でもこの世界を構築する壁の修復は出来ません。それは女神様でも出来ない事。世界の壁にまさかひびが入るだなんて‥‥‥ ショーゴさん、もう少しでお姉さまがあたしのモノになったのに‥‥‥ なんで‥‥‥ みんなに恨まれたってかまわなかったのに‥‥‥ なんで‥‥‥」
『ええぇい、もう終わりです! 全て消えてなくなるのです! イオマ、もう終わりにします!! この永遠の転生もこの世界も、すべて消えてなくなるのです!!』
魔王とイオマの声が交互にそう言ってイオマは体を光らせる。
『ははははははっ! これで完全に手は無くなりましたよお姉さま! 私はこの異界、いや、世界壁と融合しました! もう崩壊を止める術は無くなったのです! 一緒に滅びましょう、お姉さまっ!!』
「このバカイオマっ! 降りて来いでいやがります! ドラゴン百裂掌!!」
異界からの嫌悪から解き放たれたクロエさんは怒り心頭のままイオマに向かってドラゴン百裂掌を打ち込む。
しかしそれはイオマに届くことなく防がれてしまった。
「この期に及んで防壁を張りますか? イオマっ!!」
それを見ていたコクが怒鳴る。
「いい加減降りて来なさいよ! ショーゴだって、ショーゴだってぇっ!!」
セキがわめく。
「イオマの馬鹿ッ! ショーゴが死んじゃったんだよ!? もういいでしょ! もう止めてよ!!」
「イオマぁっ! 帰ろうよぉ!!」
シェルもマリアもイオマに叫ぶ。
しかし。
「もう止められない。たとえこの防壁を崩してもこの世界の崩壊は始まった。もう終わりなんですよ‥‥‥」
半分の涙を流すイオマがそう言う。
「みんなが嫌い。優しくしてくれるみんなが嫌い。わがままなあたしを、『魔王』の心が浸食したあたしを最後まで本気で殺そうとしないみんなが嫌い。私なんて、私なんて‥‥‥ ショーゴさんまで死なせて‥‥‥ お姉さまがあたしのモノになれば、お姉さまさえあたしのモノになってくれれば‥‥‥ 家族何て‥‥‥ そんな温かいもの‥‥‥ うえぇーんっ! ごめんなさぁーぃぃいいいぃっ! あたしのせいで、あたしのせいでぇ、全部が終わっちゃう、無くなっちゃうっ!!」
「イオマっ?」
『くっ! 何をいまさら! もう終わりなんだ私! もうすべてを終わりにするんだ!! お前の欲しがっていたあの女も一緒に消えてなくなるんだ!!』
「でも、でも、あたしはみんなに酷いことした、お姉さまに酷いことしたぁ! こんな、そんなつもりじゃなかったのにぃっ!!!!」
ちゃきっ!
「‥‥‥確認する、その防壁は完璧なのですわね?」
「『!?』」
仮面のあたしはティアナの剣をイオマに向ける。
そして力をためる。
『な、何をいまさら言う。この防壁は世界の壁と一体となった私の作り出したモノ、たとえお姉さまの力でも壊す事は出来ない!』
「‥‥‥もう一度確認する、その防壁は完璧なのですわね?」
『くどい! たとえ神の力であってもこの壁は崩せない!!』
『魔王』のその言葉を聞き仮面のあたしはその剣にたまった力を解き放つ。
カッ!
それはまばゆい光を放ちイオマの前の障壁を穿つ!
どんなものでも、例え女神でさえも破壊するその光はしかしイオマの防壁を超えることは無かった。
『は、ははははっ、や、やはり越えられない! たとえお姉さまの力でも!!』
しかしあたしは続けざまにまたその光を放つ。
その威力のせいで仮面のあたしのまとっているライトプロテクターが弾き飛ばされ、仮面にもひびが入る。
しかしあたしは光を放つのをやめない。
『む、無駄だと言っているっ!』
「任務完了ですわ‥‥‥」
仮面のあたしはそう言ってティアナの剣ごとその防壁に飛び込む。
そして世界の壁と同じその防壁をあたし自身を使って破壊する。
『何っ!?』
仮面のあたしが光となってその防壁を、世界の壁と同じ硬さの防壁を破壊する。
それはキラキラとしたガラスの破片のように光り輝き霧散する。
「自暴自棄になってどうするというのですわ! ショーゴさんの言葉思い出しなさいですわ!」
そう言ってあたしはイオマの目の前にまで転移する。
そしてイオマに手を伸ばそうとすると‥‥‥
『駄目だっ! それでもお姉さまは私と一緒に滅びるのだ!』
「イオマ、いえ、魔王。あなたは勘違いしていますわ。あなた自身、イオマ自身は滅び等望んではいませんわ。ほら‥‥‥」
あたしは半分が憎悪に歪む顔からも流れ出る涙をその手で拭う。
「もう良いのですわ、帰ってきなさいですわ。私がすべてを受け止めてあげますわ。イオマも魔王も‥‥‥」
「お姉さま?」
『わ、私は‥‥‥』
そう言って両の頬を手で押さえあたしはイオマにキスをする。
『しかし世界の崩壊は止まらない! もう遅いんですよ、お姉さま!』
「お姉さま、ごめんなさい! ごめんなさい!!」
「かまいませんわ、私はこの私を使って世界を、みんなを守りますわ! イオマ、私と一つに‥‥‥」
そう言ってあたしは世界の壁と一つに成っているイオマと重なっていく。
それはあたしが世界の壁に取り込まれ全ての壁に混ざっていく瞬間。
そしてイオマと一つに成っていく瞬間。
「『ああ、お姉さま‥‥‥ お姉さまと一つに成っていく‥‥‥ 私には、あたしには帰れるところがあったんだ‥‥‥ こんなにも嬉しいことは無い‥‥‥』」
キンッ!
世界がひしめいた。
そして世界を取り囲むこの世界の壁のひびが修復されていく。
あたしと言う存在によって‥‥‥
「エルハイミっ!!」
「お母様っ!」
シェルとコクが叫ぶ。
イオマの作り出した異界が消え元の城の中に戻る。
そして誰もが感じる。
勇者であるあたしともう一人のあたしによって「魔王」が消え去ったと言う事を‥‥‥
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