第134話魔空間


 「あれはっ!」


 「まさかアイミの暴走の時の!?」


 「‥‥‥っ」



 あたしたちはシェルとショーゴさんが飲み込まれた暗黒の渦を見てすぐにそれがあの空間であることに気付く。


 召喚をする為の異空間。

 何も無くただ浮遊しているだけの空間。



 「お母様、いくら我々でも空間と異空間を操られては手出しが出来ません」


 確かに空間や異空間を複雑に操られてはコクたち黒龍や武闘派の赤竜は手出しが出来ない。

 動きの速いショーゴさんや精霊魔法の使い手シェルもイオマに異空間に飛ばされた。


 あたしは慌ててその空間に干渉して二人を助け出そうとする。



 「『駄目ですよお姉さま、お姉さまの力でも今のあたしの異空間操作に追い付けませんよ? この世界の異空間はあたしの支配下ですから』」



 そう言ってにっこりと笑うイオマ。



 「くっ! この世界の異空間が!!」


 「何と言う事ですの!? 全ての空間壁がイオマの支配下に!?」


 「‥‥‥っっ!」




 この世界はいわば大きな風船の様な物である。


 いや、「あのお方」が作り上げた世界は皆風船で出来たようなモノで包まれている。

 その世界の異空間とは風船の外壁に更に小さな部分を膨らませ結合点を最小に押しとどめた状態。

 いわば風船の上に出来たコブの様な物である。


 【異空間渡り】も【召喚】も【転移】も言わばその風船の外壁を操作したもの。

 そしてその外壁を任意にどこにでも動かせると言う事は異空間も自在に位置を動かせる。 


 そう、その外壁である壁自体が今はイオマの支配下に置かれてしまっていた!



 「その真理は女神様たちでさえ知らない事なのにですわ‥‥‥」


 「イオマ、あなたはですわ‥‥‥」


 「‥‥‥、」



 驚くあたしたちにイオマはにっこりと笑う。

 そして両の手をあげ一気にその力を振るう!



 「『お姉さまでもどうにもできない空間にご招待しますよ!』」



 そう言って空間の外壁を操りイオマが別の異空間を作り上げる。

 途端に周りがゆがんでこの場に居る者たちが皆他の場所に放りだされる。



 「こ、ここは!? お母様!」


 「なにここっ!」


 「黒龍様!」


 「主様、一体何が起こったでいやがります!?」


 「イオマ様! もうおやめください!!」

 

 「主様! イオマ様を止めでください!!」


 「エルハイミ殿! 勇者の少女よ!! これは一体!?」


 「アラージュ落ち着きなさい、それよりティアナ将軍の転生者を守るのよ!」



 あたしたちが放り出されたのは誰もが想像する魔界のような所。

 大地は荒れ、空は淀んだ色をしている。

 そして周りは殺伐とした枯れた樹木がしだれ、草木ですら元気がない。



 「『うふふふふふっ、ようこそ我が魔空間へ。ここでは魔力操作も精霊力も弱まる。そしてすべてはあたしの意のまま! さあ、お姉さまはじめましょう!』」



 そう言いながらイオマは魔力を膨らます!



 「まずいですわ! みんな私の後ろに来てくださいですわ!」


 「イオマっ!?」


 「‥‥‥ちゃきっ!」



 あたしは慌ててみんなをカバーする為に前に出る。

 もう一人のあたしは宙に浮きなおも魔力を膨らますイオマを見る。


 そして仮面のあたしは剣を構える。



 「『行きますよ! さあどこまで守り切れますかお姉さまっ! 【界位嫌悪】デスワールド!!』」



 イオマの発したその力ある言葉はほどなくその力を発揮した!



 「くはぁっ! お、お母様っ!」

 

 「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 「ぐっ!」


 「な、何なんでいやがりますか、これはぁっ!」


 「ふぎゃぁぁぁああぁぁっ!」



 いきなり襲ってきたそれはこの異界そのものだった。

 この異界から嫌悪され負の感情を叩き込まれその存在も嫌悪され憎まれそして拒絶される。


 並の攻撃魔法や精神魔法ならまだ対処のしようがあるのにこの異界自体から嫌悪されてはここにいるだけでその負荷足るもの計り知れない。


 アラージュさんやカーミラさん、転生のティアナ、ここまでたどり着いていた連合軍の兵たちはいっせいにその場でこの重圧に耐えられず気絶する。


 それでもあたしたちはこの嫌悪を押しのけ防壁を展開する。



 「くっ! イオマぁっ、ですわぁっ!」


 「駄目ですわ、並の者はみんな気絶していますわ!!」


 「‥‥‥こうなったら空間事斬りますわ!」



 三人のあたしはこの異界から抗いそして空間事切り裂こうとする。

 しかし!



 『だめっ! エルハイミ!! 今その空間を切ったら世界が破裂する!! あたしには分かる、いくら離れてもエルハイミとは魂でつながっている。そしてあたしのいる異空間とエルハイミのいる異空間が破壊されるとそこから世界が破裂する!! この世界が無くなっちゃう!!』



 あたしが瞳を金色に輝かせ存在を開放して力を振るおうとしたその瞬間だった。

 他の異界に飛ばされていたシェルから念話が来た。

 

 そして彼女は驚く事を言う。



 「そんな、この異界を切り裂くと世界全体が破裂するのですの!?」


 「『全く、余計な事を言ってくれますねシェルさん。聞こえましたよ? そう、お姉さまこの異世界は世界の外壁を使ってます。単に新しく外壁を作った影響の少ない世界じゃないんです。だからこの世界を壊せば全ての世界が壊れます。わかりますか? 今まで私が受けて来たこれらの嫌悪。【魔王】と言う事だけで、【隠し子】と言うだけで愛されず蔑まれた私が。だから選んでください、私を愛するか私を拒絶して世界ごと消えてなくなるか!』」



 イオマはそう言って涙を流しながらあたしたちを見ている。



 「『本当にあたしの事を思って優しくしてくれた初めての人‥‥‥ あたしが身を引いても窮地になれば助けに来てくれた人‥‥‥ 師匠たちとは違う、本当にあたしと言う存在を大切にしてくれた人‥‥‥ すき。 大好き! 私にはもうお姉さましかいないんです!!』」



 ぶわっ!!



 イオマから発せられるその力が更に強くなる。



 『イオマのバカっ! あんたはあたしたちの仲間よ! 友達よ、そして家族じゃない!!』


 「くっ、全くわがままなお母様の義妹‥‥‥いえ、妹です」


 「ああっ! これ何とかしてよ! イオマっ! あんたあたしのお姉ちゃんなんでしょ!!」


 「くっ! イオマの癖に生意気でいやがります! もう世話してやらないでいやがりますよ!!」


 「ぐっ、イオマ、人間の分際で我らと対等になれた存在。貴様は主様や黒龍様と共にいるのではなかったのか!?」


 「うにゃぁぁあああぁぁ、もう止めてイオマぁっ!」



 みんなが口々に言う。

 そして。



 『イオマっ! お前は俺と共に主を守るのではなかったのか!? いい加減に目を覚ませ! ぐはっ!』



 ショーゴさんの声まで聞こえて来た!?



 「『違う、みんなしてあたしをお姉さまから引き離そうとした! お姉さまがあたしのモノになるのを邪魔した! みんなだってあたしを拒絶するんだ!』」



 『馬鹿野郎っ!! みんなお前を家族と思っているんだぞ! イオマっ! 俺はもう長くない! 主の事を託せるのは家族であるお前なんだぞ!! ぐはっ!』


 『ちょっ、ショーゴ!? エルハイミ、ショーゴが変! 胸の双備型魔晶石核がおかしいっ!』

   

 


 別の異界でシェルの叫びがするのだった。    

  

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