第136話最終回 大切なもの


 「エ、エルハイミ殿が‥‥‥」


 「勇者の名もなき少女が‥‥‥」


 「魔王と一緒に消滅した‥‥‥」


 「世界は、世界は救われた?」



 城の中に戻された連合軍の人たちは最後イオマやあたしが消え去った虚空を見上げている。



 「そんな、エルハイミが‥‥‥」


 「お母様がっ!」


 「エルハイミ母さん!」


 「主様‥‥‥でいやがります‥‥‥ (目の端に光るもの)」


 「見事でした、主様‥‥‥」


 「エ、エルハイミぃーっ!!」





 「はい? どうしましたの?」






 「「「「「!?」」」」」




 連合軍の人たち同様に虚空を見ながら涙しているシェルやコク、悔しそうに床を叩くセキやぎゅっと胸の前でこぶしを握っていたクロエさん、眼を閉じ黙祷を捧げていたクロさんに叫んでいたマリアまで一斉にこちらを見る。


 あたしはきょとんとして小首をかしげ頭の上に「?」マークを浮かばせる。



 「エ、エルハイミ?」


 「お母様!?」


 「あ、あれ? エルハイミ母さん??」


 「主様、でいやがります‥‥‥ (おこマーク)」


 「主様‥‥‥ (ため息)」



 「あ、あれ? そうか、もう一人いたんだっけ! エルハイミぃー!」



 呆然とするみんなをあたしは不思議に思いながら飛んでくるマリアを受け止める。

 

 そして‥‥‥



 「も、もうっ! 心配したんだからねエルハイミぃっ!」


 「お母様っ!」


 「あー、そうだよね、エルハイミ母さんがそうそう簡単にいなくなるはず無いもんね」


 「この拳をどうしてくれようでいやがります!」



 「ふむ、これでやっと終わりですかな? して主様イオマはどうなったのですかな?」


 シェルやコクはあたしに抱き着いてきて皆もあたしを取り囲む。

 そしてクロさんに言われたイオマなんだけど‥‥‥


 あたしは異空間に手を突っ込んで光り輝く球体の玉を引っ張り出す。



 「これはイオマの、『魔王』の魂ですわ。流石にあの状態で救出するのは難しくすべて世界壁に私ごと吸収されてしまいましたわ。でも何とかイオマの魂だけはこの通り確保できましたわ!」



 「ちょっと待ってよ、じゃあ、ショーゴは!?」



 あたしはもう一度異空間に手を突っ込みイオマよりは小さい光の玉を引っ張り出す。


 「あちらの異空間だったのでショーゴさんの魂だけは確保は出来ましたわ! これで冥界の女神セミリア様にお願いすれば転生出来ますわ!」


 あたしがそうにっこり言うとなぜかみんな大きなため息をつく。



 「それで、エルハイミ母さん自体は大丈夫なの?」


 「と、言いますとですわ?」


 「体を三つに分けてそのうち二体も消失して大丈夫かと聞いていやがります!」


 セキやクロエさんに聞かれあたしは「ああぁ」とか漏らしてしまった。



 「お母様の事ですから問題はないと思いますが、実際どうなんですか?」


 「そ、そうよ! エルハイミの魂は全く問題無いみたいだけど、二人もエルハイミがいなくなっちゃったんだよ! だ、大丈夫なの?」


 コクとシェルはあたしに抱き着きながら聞いてくるが、実際あのあたしたちは死滅した。

 でも「あのお方」のこの世界の端末であるあたしにしてみればそれは些細な事。

 髪の毛一本抜けて落ちたも同然だった。


 あたしは試しにまた三人に分かれてみる。

 それは今まで通りの感覚。

 今の所最大三人にまでしか別れられないのは同じだけどどれか一つが残っていれば問題無いみたい。




 「エ、エルハイミ殿無事でしたか!? しかしエルハイミ殿が三人も!? これは一体どう言う事ですか!?」


 アラージュさんたちもあたしに気付いてやって来た。


 「確かにエルハイミさんが三人も‥‥‥」


 カーミラさんがそう言いあたしたちを見る。

 そう言えば連合軍の人にはあたしが分かれられる事は秘密にしたままだった。



 にょきっ!



 「それは主様だからできる事なのです!」

 

 「然り、主様は神なのですから!」



 今までどこに逃げていたのかデルザとベーダがひょっこりと会話に割り込んできた。



 「デルザ、ベーダあなたたちですわ‥‥‥」 


 「こ、これにはちょっとした訳がありましてですわ‥‥‥」


 「そ、そうだ、こっちのがエスハイミでこっちがエムハイミ、私がエルハイミですわ! 実は三つ子なのですわ!」



 あははははっと笑うあたしたちに全員がジト目で見てくる。

 しかしそんな中に一人の女の子があたしの前にやって来た。



 「お姉ちゃんって三つ子なの?」





 「「「ティアナっ!」」」





 ああ、間違いない。


 この魂の色はティアナだ。

 彼女は顔立ちこそ違えど生前と同じく真っ赤な髪の毛、そして碧眼のつぶらな瞳であたしたちを見ている。



 そしてとても可愛らしい!




 「あたしそんな名前じゃないもん! あたしはサティア! お姉ちゃんたちは?」



 あたしはティアナ、いや、今はサティアの前で一人に戻る。

 勿論サティアは驚いたけどそれがどうなっているのか興味深々であたしの周りを見てる。



 「サティアちゃんと言いますの? 私はエルハイミ。エルハイミですわ!」





 ぶわっ!





 あたしの名前を聞いた途端にサティアに風が吹き抜けた。



 「エ、エルハイミ? エルハイミ‥‥‥ お姉ちゃんエルハイミって言うの? なんだろうもの凄く胸が熱くなってくる‥‥‥ なんでだろう? あたしお姉ちゃんを知っているような気がする!」



 あたしはサティアの目線までしゃがんでそしてにっこりとする。



 「そうですわね、きっとサティアちゃんは私と会うために生まれてきたのですわ!」


 「あっ、え、えっとぉ、お姉ちゃんすごくきれい!」



 あたしと同じ視線になってまじまじとあたしの顔を見ていたサティアは少しはにかんでそう言う。

 そしてにっこりとして言う。



 「うん、そうかもしれない。エルハイミお姉ちゃん!」


 「はい、サティアちゃん!」


 

 とうとうあたしはティアナを見つけた。

 ショーゴさんやイオマがいなくなってしまったり色々あったけどやっと愛するティアナを見つけた。



 「さあ、サティアちゃん行きましょうですわ!」


 「うん、エルハイミお姉ちゃん!!」





 あたしたちは手を取って新しい一歩を歩き出すのだった。


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