第126話勇者


 あたしたちはここジマの国から「魔王討伐」軍を編成してイオマの待ち構える「魔王城」へと進行を進めようとしていた。



 「エルハイミ何その仮面は?」


 「ふむ、せっかくのお母様のお顔が見れなくなってしまいますね?」


 シェルやコクはあたしが作り上げたこの仮面を見て首をかしげる。

 実はまだ連合軍やジマの国の人々にはあたしが分かれられることは内緒にしてある。


 あたしは今までの話を聞きイオマの差異を感じていた。

 なので勇者である名もなき少女は顔を隠し誰だかわかりにくい様にして今までのあたしたちはそのまま素顔で動こうと思っている。


 「エルハイミ殿、あちらの仮面をかぶった方が勇者の名もなき少女ですか? 何となくエルハイミ殿に似ているような‥‥‥」


 「おや? 彼女は何者ですか? エルハイミ殿にそっくりですが?」


 「あら本当、エルハイミ殿にお面かぶせたかのような‥‥‥」


 ミナンテ陛下もアラージュさんやカーミラさんもあたしに聞いてくる。

 あたしは愛想笑いをして「私の影武者ですわ、勇者の名もなき少女とは別に私は動きたいのですわ」とか誤魔化してシェルやコクを引っ張る。



 『あの私は連合軍と共に勇者の名もなき少女を演じますわ。私の一人がいれば連合軍たちも万が一が有ってもどうにかなりますわ。その間にこちらの私たちでいち早くイオマたちを押さえますわよ!』


 『またずいぶんと遠回りなことするのね?』


 『お母様、なぜそのような事を?』


 念話でシェルやコクと会話するけどあたしはイオマの事が気になっていた。

 今までのイオマだったら感情的になってあたしに対して我ままは言ったかもしれない。

 しかしその昔は同じ冒険者だった者を召喚獣に城を守らせるからと言って命まで奪わせるような事はしない。


 そしてこの「魔王による世界征服」なんて茶番を広げる理由もおかしい。


 教え子だったアルフェをメッセンジャーとして送り込むのは分かるとしてもわざわざあたしを「勇者」に仕立て上げる理由もおかしい。



 どうも「魔王」が覚醒してからのイオマに違和感を感じる。



 あたしはそれが心配になって勇者と連合軍から別行動をとろうと思う。


 『イオマにおかしな所を感じますわ。今までのイオマでは無いのかもしれませんわ。だから連合軍とは別行動をしますわよ』


 あたしがそう念話で言うとシェルもコクも驚くものの何処か納得が言ったかのように頷く。

 そしてあたしたちは目配せをして他のみんなを含めここから姿を消すのだった。



 * * * * *


 

 「よいか、我々には女神エルハイミ様が見つけ出した勇者の名もなき少女がいる、魔物など、魔王など恐れるに足らん! 全軍前進! 魔王城を取り囲め!!」



 連合軍とジマの軍隊が隊列をしたままイザンカとの国境近く、世界最大の迷宮暗黒の女神ディメルモ様の居城に出来た魔王所へと向かう。

 勇者の役を演じるあたしは仮面で顔がよく分からない様にしてこの軍隊に同行する。


 が、程無く前に魔獣の群れが現れた。



 「前衛展開! 魔術師どもは補助魔法を発動させろ!!」


 連合軍が掛け声をあげながら魔獣に突っ込む。

 勿論ジマの軍隊も同様だ。


 あたしは仕方なしに兵士たちがやばそうな所へ魔法をかける。

 それは【絶対防壁】だったり【回復魔法】だったりと今の所はサポートに徹する。



 「うわっ! なんだあの魔獣は!?」


 「見た事無いぞ!? 気をつけろ!!」



 兵士たちの一角にかなり強力な気配がする。

 これはこの世界のモノではない?


 あたしは慌ててそちらに行く。


 そして驚く。

 それは召喚された異界の魔人。

 肉体を持つそれは魂だけで呼び出されるレッサーデーモンとは訳が違う。



 「『鋼鉄の鎧騎士』を出せっ! 兵たちは下がらせろ!!」



 まもなく連合軍の「鋼鉄の鎧騎士」二号機が起動して魔人の前に立ちふさがる。

 一応ミスリルを使った武器や鎧で身を固めているのでアークデーモンくらいなら余裕で倒せるだろう。

 しかし相手は魔人だ。

 果たしてどこまで戦えるか?



 「グロロロロロロロロォ!!」



 魔人は「鋼鉄の鎧騎士」を見つけると真先に襲ってきた。

 やはりどれが脅威になるのかちゃんとわかっている様だ。


 口を開き魔光弾を放つ。

 それを二号機はミスリルの盾で防ぐ。



 ぼぉぉおおおぉぉぉぉんッ!!

 

 

 着弾と共にミスリルの盾を業火が包む。

 しかし二号機はその炎を盾ごと振り払い剣を魔人に突き刺す。


 流石にそれはまずいと魔人も何処からともなく赤黒い剣を引き出しその剣を弾く。

 そしてここから剣戟による応酬で火花を散らしながら立ちまわりを続ける。



 「これが噂に聞く『鋼鉄の鎧騎士』か!? なんて力だ!!」


 「しかしあの化け物も引いていません! これほどとは!!」


 ジマの軍隊は驚きを隠せない。

 今の所魔人と互角に戦っている。

 まあ連合軍の二号機操縦者だってそれ相応の人物が選ばれているのだろう。

 しかしあたしはティアナの戦いを見ているのでこれすら生ぬるく感じる。

 それほどティアナの駆る初号機は強かったのだ。


 だが‥‥‥



 「ぐろろろろぉぉぉぉおおおおおぉぉぉっ!!」



 大きく振りかぶった魔人の一撃が防御した剣ごと二号機を弾き飛ばす。

 そしてよろめき地面に片足をついた所に追撃の一閃が振り下ろされる!



 がきぃぃいいいいぃぃぃんっ!!



 しかしその一撃をあたしはティアナの剣で受け止める。

 身の丈六メートル近くある魔人の一撃を小柄なあたしの体が剣で受け止めたのだ。


 あたしはティアナの剣に炎をまとわりつかせ魔人の剣を薙ぎ払う。

 そして魔人に飛び込み一閃、魔人を一刀両断に切り伏せる。



 ずばっ!



 すたっ!


 

 着地と同時に剣を振り炎を消す。

 そして一振りして腰の鞘にしまう。



 ずうぅぅうううぅぅぅんっ!



 袈裟切りに切り伏せられた魔人は燃えながら地面に転がる。

 あたしは何事もなかったかのように振り返り元の自軍にとぼとぼと戻る。


 途端に兵士たちの歓声が上がる!


 「すごい! 流石勇者様!!」


 「あの化け物を一撃で!」


 「『鋼鉄の鎧騎士』と互角に戦っていたあの化け物を一撃でっ!!」


 歓声の中あたしは唇を噛んでいた。

 あの魔人は本気で殺しに来ていた。


 イオマ、あなたは一体何を考えているの?


 

 あたしはその自問自答に苦しむのだった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る