第125話倒れ行く者たち
全世界が大騒ぎになっていた。
ガレント王国とホリゾン帝国の戦も終わり、水面下でも秘密結社ジュメルが崩壊したと言う事がささやかれていた最中であった。
魔王が全世界に対して世界征服の宣戦布告をしたのだった。
しかしそんな中、新興宗教である「エルハイミ教」が女神エルハイミの名の下いち早くボヘーミャで勇者の少女を見つけ出し「魔王討伐」の命を授ける。
だがそれでも各国は知られざる「魔王」の話におののき、秘密結社ジュメルの様な不気味さを感じていたために早速連合軍に「魔王討伐」の命を下す。
そして各々の国を守るために軍備を整えているのだった。
「どこもかしこも慌ただしいですわね?」
「そりゃぁ『魔王』なんて得体のしれないモノの宣戦布告だものね。しっかしまさかメル様から直々に何とかして来いって‥‥‥ あたしじゃ何もできないじゃない?」
「それはお母様がいるからでしょう。全く最古のエルフの癖に情けない」
「メルは子供あやしてる姿が‥‥‥ ぷっ! あははははっ! あのエルフが子守だってぇっ!! ぷーくすくすくすっ! だめ、思い出しただけで笑える! あれだけあたしたちを精霊化で困らせたくせに!!」
あたしはガルザイル郊外にある連合軍駐屯場で出兵準備している兵たちの様子を見ている。
討伐に関してはまず連合軍に白羽の矢が立った。
「エルハイミ殿、本当にあのイオマ殿が『魔王』なのですか?」
アラージュさんは未だ信じられないと言った風にあたしに聞いてくる。
あたしは何も言わず首を縦に振る。
そして付け加えて言う。
「ええ、そしてティアナを見つけ出し捕らえていますわ」
「ティアナ将軍を!? 転生していたのですか!?」
カーミラさんはあたしの答えに大いに驚く。
そして「鋼鉄の鎧騎士」二号機を見上げる。
「大丈夫ですわ、私が必ずティアナを取り戻して見せますわ。それと二号機のこの子はイオマに操られることは有りませんわ」
「鋼鉄の鎧騎士」は強力な兵器ではあるがその核にイオマが仕掛けをしていて操れるようになっていた。
流石にそれを解除するのは難しく十体の「鋼鉄の鎧騎士」は封印されてしまった。
ゆくゆくはこの問題が片付いたらそれらを解除して使えるようにしなきゃね。
あたしはそっとため息を吐く。
しかしまさか連合軍をイージム大陸に送り込むのにあたしが呼ばれるとは思いもしなかった。
しかしガレント王国としてはその位の事をあたしにやらせないと各国から「鋼鉄の鎧騎士」を出せと言われてしまう。
内情を知っているアコード陛下の立場としては「鋼鉄の鎧騎士」が使えないというのは対外的に非常にまずい。
なのでガレントとしても動く「鋼鉄の鎧騎士」を提供した連合軍を使うしかなかったのだ。
「エルハイミ殿は勇者の名もなき少女として我が連合軍に同行すると言う事になっております。『エルハイミ教』の女神エルハイミ様直々の命となれば確かに他の国も勇者の名もなき少女、エルハイミ殿に手出しは出来ないでしょう。そして『魔王討伐』の名声は広く広まるでしょう」
アラージュさんにそう言われてもうれしくも何とも無い。
連合軍の人たちには話してないけどこれってイオマの自作自演にあたしが巻き込まれ付き合っているのだから。
全く、本当にきついお仕置きが必要ね?
あたしはそんな事を思いながらゲートを開き総勢六千の連合軍と「鋼鉄の鎧騎士」二号機をイージム大陸に運ぶのだった。
* * * * *
あたしたち連合軍と名もなき勇者の少女一行は協力関係にあるジマの国にゲートを開き転移していた。
事前に風のメッセンジャーで話はついていたのだけどそれは表向きの部分。
いまミナンテ陛下と話すのは本音の部分となる。
「エルハイミ殿、お久しぶりです!」
「お久しぶりですわ、ミンナンテ陛下」
あたしはミナンテ陛下に挨拶をする。
ちなみに今は連合軍代表が謁見を終わって城の書斎で関係者だけで話をしている。
あたしたちはミナンテ陛下に今までの事を話す。
「つまり、あのイオマ殿が『魔王』の転生者であり覚醒してこの騒動を起こしたと?」
「ええ、そうなりますわ。そして私のティアナを捕らえていますわ」
あたしがそう言うとミナンテ陛下は頭をぼりぼりと掻く。
「であればどうも勝手が違いますな。既に被害が出ています」
「はいっ!?」
あたしは思わず変な声を出してしまった。
しかしミナンテ陛下は厳しい表情のまま続ける。
「実際死人まで出ています。最も斥候で動いていた雇われ冒険者ですが魔王城と思しき城に潜入して調査させようとしたら魔物たちにやられてしまいました」
あたしは大いに驚く。
確かに魔物が全部制御出来ているかは疑問だけどまさか死人を出す程?
あのイオマがそれを良しとしている?
「ミナンテそれは本当ですか?」
コクが横から口を出す。
するとミナンテ陛下は頷きながら言う。
「はい、黒龍様。我々は宣戦布告を受ける前にいきなり現れた城を調べに行かせました。当初は黒龍様たちが何かを始めたとばかり思っていたのですが城の近隣にいきなり魔物たちが現れ近づく者には容赦なく攻撃を仕掛けてくるのです」
コクはそれを聞き顎に手を当て考えこむ。
「一体どう言う事よ? エルハイミ、まさかこれってイオマの指示!?」
シェルもあたしたちの話に割り込み始めた。
いや、みんなも思う所があるのだろう、口々に疑問を言い始める。
「イオマがそのような事をするのだろうか、主よ?」
「えー、でもその魔物って召喚獣でしょう? だったらイオマが呼び出したって事だよね、エルハイミ母さん?」
「ふん、多少力を持ったからと言ってイオマの癖に生意気でいやがります!」
「しかし実際に被害が出ているとなるとな。我らの迷宮のローグの民が心配になりますな黒龍様」
「怪獣がいっぱいなのエルハイミ!?」
最後にマリアがそう言ってあたしの肩に飛んでくる。
あたしはマリアを肩に載せたまま首を振る。
「イオマがむやみに人を気付付けるとは思えませんわ。多分召喚獣に城に近づけさせない為に命令したのが不幸を起こしてしまったと思いますわ」
しかしミナンテ陛下は首を振った。
「しかしエルハイミ殿、その後も同様で近づく者には魔獣たちは一切容赦はしません。そして宣戦布告後にはさらにその行動範囲を広げ始めています」
どう言うつもりなのだろう、イオマは。
今までの行動もそうだけどあたしの知っているイオマとずれが出始めている。
あたしは魔王城が有ると言われるそちらに顔を向けるのだった。
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