第123話エルハイミ教
ボヘーミャでシーナ商会が開店してから一週間が経った。
あたしたちはここは勿論ベイベイの屋敷やシナモナ一族の研究施設、ティナの町やユーベルト、ガルザイルとおおよそイオマが動きそうな所は全て監視をしていた。
「動きはありませんね、お母様」
「イオマは『異空間渡り』出来るんでしょう? いくら風のメッセンジャーの風の精霊の動きを傍受してもそれを使われたら駄目じゃない?」
ベルトバッツさんたちを使い監視していたコクや風の精霊を監視していたシェルはあたしにそう言う。
「仕方ありませんわ、今は様子を見るしか手がかりが無いのですから。それにイオマの『異空間渡り』は流石に私程頻繁には出来ないようですわ。空間のゆがみも感知できませんもの」
あたしはそう言いながらクロエさんに入れてもらったお茶を口にする。
「いい加減飽きたよ~。エルハイミ母さんお肉!」
「シーナ商会も普通に運営している様だな、主よ」
「デルザめ、メイドの仕事を放っておいて何をしていやがるかでいやがります。掃除はこまめにしなければだめだというのにでいやがります」
「ふむ、しかしカルマがしっかりやっている様だな、屋敷は整然としていてそこは評価してやらんでもないが」
「エルハイミぃ~チョコ食べた~いぃ!」
ここボヘーミャのゲストハウスに一旦戻って来たみんなは口々にそう言うが確かにもう一週間も経っている。
あたしがイオマを探して動き回っているのは知れているだろう。
しかしイオマは今だ大きな動きをしていない。
彼女はあたしを自分のモノにしたいとはっきり言っていた。
そしてティアナを手元に保護しているとも。
むこうが有利なカードを持っていても力ではあたしにかなわないから絡め手で来るだろう。
あたしの気持ちは変わる事が無いのに。
「しかしこうなると別の方法でイオマを探さなければですわね?」
「とはいえ、足掛かりになりそうな所へのアプローチは全部しましましたわよ?」
「確実に私たちの動きは向こうに知れ渡っているというのにですわ」
あたしたち三人のエルハイミはそう言って唸る。
予想ではもっと早く動き出すと思っていたのにシーナ商会のボヘーミャの開店で止まっている。
一体何を考えているのだろう‥‥‥
「ん? エルハイミ、渡りのエルフから連絡! 『エルハイミ教』に一斉に動きが出たらしいわよ!?」
「はい? 『エルハイミ教』ですの?」
現在あたしの名前を使った宗教が世界中に急速に広まっていた。
勿論その主神はあたしなんだけどこの二年間でイメージ操作して大人の女性のあたしが女神様紛いの事をやり、現在この世界の主神である天秤の女神アガシタ様の代行として影響を及ぼしつつある。
イオマが「魔王」として覚醒する前は「エルハイミ教」を世の中に広め、他派の女神教を統合しつつ各国の国教にして世界の安定を目指していた。
しかしそんな「エルハイミ教」に動きが出た?
「シェル、一体どう言う事ですの?」
「うん、ちょっと待って‥‥‥ 『エルハイミ教』がこの世に災いをもたらす『魔王』の覚醒を確認した? 『エルハイミ教』としては勇者の少女‥‥‥ 女神エルハイミに似た少女を探し出しそれを討伐させる? なにこれ!?」
シェルは渡りのエルフたちからの情報を受け取りその内容を口ずさむ。
「『魔王』覚醒を公にしたのですの!?」
「勇者の少女ですの??」
「討伐させるとは一体ですわ!?」
シェルから聞き取った内容はどうにも理解しがたい。
「エルハイミ教」に何が起こっているってのよ!?
コンコン
「む? ベルトバッツか? 入れ」
あたしたちが驚いていると扉がノックされた。
そしてベルトバッツさんが入って来た。
コクの前に跪き頭を下げる。
「ご報告させていただきますでござる。現在ボヘーミャにある『エルハイミ教』より公布があったでござる。女神エルハイミによく似た少女を探し出し教会へ連れて来いとの事でござる。世を乱す『魔王』が復活し、それを倒す勇者となるその少女を見つけ出し女神エルハイミの名の下その『魔王』を討伐せよとの事でござる!」
まさしく先程シェルが受け取った内容そのものであった。
「一体どう言うつもりよ、イオマったら!」
「ふむ、これは確実にお母様を呼び出していますね?」
シェルはふくれて苛立つ。
そしてコクの言う通りイオマはわざわざあたしを呼び出してきた。
「シェル、この話は他の場所でも同時にですの?」
「ちょっと待って、みんなに聞いてみる」
そう言ってシェルは風の精霊を呼び出し世界中に広がるエルフのネットワークにメッセージを送る。
「ベルトバッツさん、この公布を聞いて街の様子はですわ?」
「はい、姉御。『エルハイミ教』より直々に出た公布故すでに大騒ぎになっているでござる。早速女神エルハイミに似た少女を探す者、『魔王』復活におののき騒ぐ者と街は既に混乱を始めているでござるよ」
やはりそうなるか。
「エルハイミ教」は既に知名度も上がり国によっては国教にまでなっている。
そこから不安要素が公布されれば世の中は騒ぎになるのは当然だ。
しかし分からないのはイオマの狙い。
あたしだけを自分のモノにすればいいのに何故ここまで事態を広げるのだろう?
あたしは考えてみてもその狙いが見えない。
「エルハイミ、これってやばいわよ‥‥‥ 世界中で騒ぎになっている‥‥‥」
シェルはどうやらメッセージの返事を受け取り始めている様だ。
メッセージを受け取るごとに青くなってきている。
「うわっ! ファイナス長老!!!?」
「どうしましたのシェル?」
シェルは脂汗をだらだら流してぎぎぎぎっとあたしに顔を向ける。
「やばい、イオマが『魔王』だった事伝えてなかったから説明しろって怒っている。どうしよう、エルハイミぃっ!」
あー、こいつちゃんとファイナス市長に連絡入れなかったな。
そりゃぁエルフ族にしてみれば何度も襲撃喰らっているのだもの、「魔王」復活しましたって「エルハイミ教」が公布すればただでは済まないわよね?
真っ先にシェルに直接話が来てもおかしくはないわ。
シェルは何をするでもなく両手を腰前にぶらぶらさせ右往左往しながらアワアワ言ってる。
「お母様、しかしそうなると行くしかないですね、『エルハイミ教』へ」
「そうですわね、イオマが何を考えているか分かりませんがこうなっては行くしかありませんわ」
あたしたちはそう言ってボヘーミャの「エルハイミ教」に向かうのだった。
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