最終章
第122話シーナ商会
「エルハイミちゃん、街にシーナ商会が開かれました!」
エリリアさんの話を聞きあたしたちはゲストハウスでこれからの事をどうしようか考えていた時だった。
学園長の妻であり、この学園の事実上最高実力者であるアンナさんが慌ててやって来た。
アンナさんの話ではシーナ商会は貿易ギルドに属するわけでもなくいきなり学園長に開店の知らせとボヘーミャ学園に対して出資と支援を申し込んできた。
「今までいろいろな国や有力な商会などからの出資や支援話は有りましたがシーナ商会は異常です。学園に対して見返りを特に求める事無く高額な出資金と寄付金を提供してきて運営に対しても特に口出しをすることは無いと言ってきています」
「動き出しましたのですわね?」
あたしはアンナさんの話を聞きながらこれがイオマの陽動であることは理解している。
あたしはさっそく三人に別れわざとシーナ商会に行く事にする。
一人はシーナ商会に直接。
一人はベイベイの屋敷に。
そしてもう一人はシナモナの研究施設に行くのだった。
* * * * *
「カルマ、カルマはいますかしらですわ?」
「はい、主様お呼びでしょうか?」
わざと一人でベイベイに行く。
そしてカルマを呼び出し聞く。
「ボヘーミャにシーナ商会が開かれましたわ。まずこちらにデルザたちは戻りまして? そしてこの事はカルマは知っていまして?」
「恐れながら主様、デルザ様たちは今だお戻りになられていません。そしてボヘーミャでのシーナ商会の開店につきましては私は知らされておりません」
はっきりとそう言う。
あたしは注意深く彼女を見るが動揺や焦りの感じは一切見られない。
どうやらベイベイとは完全に別での行動になるようだ。
* * * * *
「ジーナ、ただいま戻りましたですわ」
「エルハイミ様、どうしたのですかいきなり?」
あたしはシナモナ一族の研究施設に戻る前にジーナに会いに行く。
今はこの家に住んでいるのはジーナ一人だけ。
イオマの師匠であったエリッツさんは天命を全うした。
あの時は流石にイオマも涙したものだが思えばエリッツさんはイオマの中に「魔王」の魂があったのに気付いていたのかもしれない。
エリッツさんは最後にあたしに「イオマの事、頼むよ‥‥‥」と言っていた。
「それでどうしたのですか?」
「ジーナ、来てはいないと思いますがイオマはこちらには?」
あたしの質問にジーナは首をかしげる。
ジーナはまだイオマが「魔王」を覚醒させたことを知らない。
そしてデルザたちに協力をするとは思えない。
だから先にジーナに会いに来た。
「イオマさんはあれからずっとこちらには来ていませんが? 研究施設も来た様子はないですし、村でも見かけたという話は聞いていませんが?」
「そうですの‥‥‥ では研究施設に行ってみますわ。そうそう、シェル」
「ん、分かっている。これでしょ?」
一緒についてきているシェルはジーナに風のメッセンジャーを渡す。
「ジーナ、もしイオマを見かけたらこれで連絡をして欲しいのですわ」
「何があったというのですか、エルハイミ様?」
「イオマが『魔王』だったのですわ‥‥‥」
「!?」
流石にジーナでも驚くだろう。
「魔王」についてはこちらのイージム大陸ではわずかながらに語り継がれているしあたしがティアナを探すにあたって障壁になるかもしれない事は話してあった。
なので今はジーナにも協力してもらって何か情報があればすぐに知らせてもらいたかった。
ジーナは風のメッセンジャーを受け取り心配そうにあたしに聞いてくる。
「エルハイミ様、イオマさんは‥‥‥」
「大丈夫ですわ、『魔王』が覚醒してもイオマはイオマのようですわ。人々に危害を加えるとは思いませんわ」
あたしがそう言うけどジーナはまだ心配そうにあたしを見る。
そしておずおずと言う。
「エルハイミ様、あの世でエリッツも心配しているでしょう。イオマさんの事は‥‥‥」
「分かっていますわ。だから私が彼女を止めますわ!」
あたしはそう言ってシナモナ一族の研究施設へ向かうのだった。
* * *
「やはり誰も来た様子が有りませんわね?」
「なんでこんな所へ来るのよ?」
「主よ何か考えがあるのか?」
研究施設につくけど特に変わり映えはしていない。
ただあたしはここにエリッツさんの日記が有った事を知っている。
あたしはそこへ行ってみるが‥‥‥
「やはりですわね‥‥‥ 大方ベーダあたりの仕業でしょうかしらですわ」
エリッツさんの日記はすでに無くなっていた。
そしてイオマに関係しそうな物も。
「主よこれは?」
「居場所を特定されるようなものはすでに回収済みと言う事ですわ。ベイベイのカルマにも聞きましたがイオマとデルザ、ベーダ、アルフェはもう直接接触はしてこないでしょうですわ」
流石に出来る子たちだ。
イオマだってその辺は用意周到に進めているのだろう。
居場所に関する情報は完全に遮断している。
そしてあたしが最大三人にしか別れられない事も熟知している。
だからあたしはわざと三人で行動をしているのだが、残り一人のあたしが上手く行ってくれるといいのだが。
あたしはシェルとショーゴさんを連れて引き上げる事にするのだった。
* * *
「よくぞ参られました、主様」
「貴女は確かエプシロでしたわね?」
「おおぉっ! 私の様な者の名を覚えてくださっていたとは! 感激にございます、主様!!」
頬を赤くして興奮して頭を下げる。
ここはボヘーミャのシーナ商会。
アンナさんに教えられた場所に来て店の人間を呼び止めた瞬間その場の店員がすべて跪いて頭を下げた。
まあ、確実にデルザたちがやっているシーナ商会だとは思っていたがよくよく見ればどこかで見た事のある子たちばかりだった。
そしてあたしは応接間に連れられて今こうしてエプシロに会っている。
彼女は確かアルフェの下についていたはず。
それがどうやらここボヘーミャの店を預けられている様だ。
「私が来たと言う事はもうわかるでしょうですわ? イオマは何処ですの?」
「恐れながら主様、私はイオマ様たちの居場所を知りません」
はっきりとそう言う。
「ではここを開店させる指示は誰からですの?」
「はい、アルフェ様より半年前より下準備をするよう言われておりました。そして予定通り昨日ここボヘーミャでもシーナ商会を開店いたしました」
まあ、どうせそんな所だろう。
しかしそれらしい場所にあたしたちエルハイミは三人同時に動いた。
そしてその様子を必ずイオマたちは監視している。
だから!
『コク、どうですの? ベルトバッツさんたちからの報告は有りましたの?』
『お母様、今の所動きは無いようです。私たちもここから監視しておりますがそれらしき者は見受け出来ません』
念話でコクに聞いてみるがまさかここも見張りがいない?
いや、これだけ明確に動き出したのだ。
きっとイオマならあたしが動き出すと同時に何かしてくるはずだが‥‥‥
『わかりましたわ、では引き続き監視をしてくださいですわ』
『了解いたしました、お母様!』
コクの返事を聞いてからあたしは念話を切る。
そしてもう一度エプシロに話しかける。
「聞いても答えてはくれないのでしょうですわ。私もあなたたちに無理矢理とするのは気が進みませんわ。でも聞かせてくださいですわ。ボヘーミャで何をするつもりなのですの?」
「いや、むしろ無理矢理されたいです! っと、失礼しました。すべては主様の為にございます。我々のここでの役目は陰ながら学園の手助けをし、ここの魔道具の販路を世界に広めるのが目的。既にその事は学園にもお伝えしているはずですが?」
赤い顔しながらはぁはぁしてあたしをうっとりと見ているエプシロ。
あたしはこめかみを押さえて軽く見なかったことにする。
どうしてこの子たちはイオマみたいに‥‥‥
しかし確かに学園側の言い値で学園で生産されている魔道具をシーナ商会が買い取り世界にばらまきたい旨は聞いている。
だがそれではあまりにも普通。
これほど拠点を拡張するからには目的があるはず。
「では質問を変えますわ。シーナ商会はこの後何処へ拠点を広げるつもりなのですの?」
「残念ながら主様、私はここだけの話しか聞かされておりません。すべてはデルザ様たちのご配慮となります」
むう、一体何をしたいのかよく分からないなぁ。
拠点を広げるのは「魔王」が覚醒する前。
それが半年も前から動いていたとすると‥‥‥
「わかりましたわ、今日はこれで帰りますわ」
「ああっ! 主様、そうおっしゃらずご自分の屋敷として私共をお使い下さい! 必要なものが有ればすぐにでも取り寄せます!!」
今にも足にしがみつきそうなエプシロ。
しかしあたしは首を振り言う。
「いえ、それには及びませんわ。私は学園のゲストハウスにしばらくおりますわ。気が変わったらイオマたちの事を教えてくださいですわ」
あたしはそう言ってその場を立ち去る。
後ろで「あああぁぁっ! 主様ぁ~っ!!」とか聞こえてくるが無視してそのまま学園に戻る。
『コク、私が商会から出た後もここは見張ってくださいですわ』
『わかりました、お母様』
コクに念話してわざと歩いて学園に帰る。
さて、イオマたちはこの後どう動くのだろうか?
ベイベイのあたしとベムの村のあたしもわざと目立つように動いている。
何としてもイオマたちの足を掴まなければだ。
あたしは人行く街の中を一人でとぼとぼと歩くのだった。
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