第121話選択
あたしたちはイオマを追ってボヘーミャに来ていた。
「まさかイオマが『魔王』の魂を持っていたなんて‥‥‥」
アンナさんは深いため息をついていた。
あたしたちはまずは学園に来てアンナさんに会いシーナ商会が何処にあるのかを聞いた。
しかしこの街でまだ明確にシーナ商会は立ち上がっておらず、それらしい建物も店もまだ出ていない。
アンナさんはあたしたちに協力を約束してくれてシーナ商会を探してくれると言う事だ。
「しかしそう簡単にイオマが見つかるかしら?」
「ボヘーミャのシーナ商会が見つかればまずは行ってみるしかありませんね、お母様」
シェルもコクもイオマを探すのにいろいろと考えてはくれているが一筋縄ではいかないだろう。
しかしボヘーミャでもシーナ商会を立ち上げたのであれば何らかの情報は入りそうなものだ。
「それでエルハイミちゃんとしてはイオマが何処にいると思うのですか?」
「そうですわね、ボヘーミャのシーナ商会が表面に出るとすれば必ず誰かの指示があるはずですわ。イオマは多分ワザとシーナ商会をここで開き私の動きを見るでしょうですわ」
あたしは出してもらったお茶を飲んでからそう言う。
そしてティーカップを置いてから続ける。
「シナモナ一族研究施設の可能性もありますわ。今のイオマは『異空間渡り』が出来その魔力量はティアナを超えている。イージム大陸へまで行く事も可能ですわ」
あたしがそこまで言うとアンナさんはまたまたため息をつく。
あまりにもこちらの手の内を知るイオマ。
そして有能な部下たち。
すべてはあたしの為だとカルマは言っていた。
そしてデルザやベーダ、アルフェもイオマにつくからにはカルマと同じなのだろう。
しかしあたしの為って一体何なのだろう?
「とにかく私は一旦エリリアさんに会いに行こうと思いますわ。いくら女神様の力を超えても分からない事は分からないのが私ですから」
あたしはそう言ってここボヘーミャにいる知恵の女神様の分身である「知識の塔の管理者」エリリアさんに会いに行こうと思うのだった。
* * * * *
「まさか僕あたりを頼って来るとは意外だよ? 君は既に規格外の力を得ているというのにね」
「それでも分からない事は分かりませんわ。私がここへ来たのでもうお分かりでしょうですわ?」
あたしがそう言うとエリリアさんは本を閉じこちらに向かって言う。
「神託は降りてこないよ? ただあの子が「魔王」だったというのは意外だった。僕の予想では彼女は大きく動くよ」
「でしょうねですわ。だからエリリアさんを訪ねてきたのですわ」
あたしに言われこんどはエリリアさんは大きくため息をつく。
「僕に出来る事は協力しよう。今までの事を詳しく話してくれ」
そう言ってあたしにも椅子をすすめる。
あたしはその椅子に座りながら今までのことを話し始めたのだった。
* * *
「ふむ、そうなると彼女は君の為だと言っているのだね?」
「ええ、そして私をイオマのモノにしたいと言っていますわ」
エリリアさんはその大きな眼鏡のずれを治しながらこう言う。
「まず確実にここボヘーミャでシーナ商会は開かれるだろう。しかし君が探している人物はまずいないだろうね。そして予測ではよく知っている場所、多分イージム大陸に彼女はいるのではないかと思うよ。そして君の為と言うのは‥‥‥」
「私の為と言うのは?」
「多分この世で君という存在を更に特別にするか排除するかだな」
特別な存在か排除?
一体どう言う事だろうか?
「いや、多分どちらも効果的には同じか。君をこの世界の人々から離反させ居場所を無くそうとしているのではないだろうか?」
「私の居場所を無くすのですの?」
あたしは首をかしげる。
「君を彼女のモノにしたいのであれば人々とのかかわりを断ち切るのが一番早い。君は既に特別な存在となっているのは周知だ。そして天秤の女神アガシタ様の代行であると言う事も自ら宣言している。つまり君は現世では『女神』として扱われ人々は君を徐々に畏怖し始めるだろう。それは君に関わり合いを持つ者だって同じになって来る」
そこまで言ってからエリリアさんは窓の外を見る。
「僕たちには寿命というモノがない。それは今の君も同じだろう? しかし『魔王』である彼女は普通の人間の命しかない。だから何が何でも君を彼女のモノにするのであればその行動は急激なものになるだろう。そして君の愛する転生者も君を自分のモノにするには切り札として必ず持ち続けるだろう」
そこまで言ってエリリアさんはあたしを正面から見据える。
「向こうは本気だ。君は『愛する者』か『魔王』である彼女のどちらかを選ばなければならに事になるかもしれないね」
「それは‥‥‥」
イオマが本気なのはわかっている、でもあたしはイオマを恋人としては愛せない。
でもイオマも引かないのであれば‥‥‥
「それでも私はティアナを選びますわ!」
それはあたしがここにいる存在意義。
あたしはティアナの為に世界だって敵に回したってかまわない。
あたしはそう、断言するのだった。
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