第120話引き裂かれる思い


 イオマが消えて一晩が経った。



 「駄目ね、デルザ、ベーダ、そしてアルフェは見つからないわ」


 「ふむ、あの三人であれば問題はないでしょうけどもしや‥‥‥」


 シェルやコクは屋敷の修復と同時に負傷者の確認に手を貸してくれている。 

 あたしは三人に分かれたままケガ人の手当てや屋敷の修復を始めている。


 イオマが呼び出したモンスターたちはコクやセキ、そしてショーゴさんやクロさんクロエさんによって討伐され既に光の粒子になって消えさった。



 「ぷっはーっ! やっと出られた!!」



 茨の檻に監禁されていたマリアも無事発掘されあたしが解放してあげる。

 しかし、コクの言う通りあの三人とベーダの配下の者が見当たらない。



 「デルザたちはイオマについたのかもしれませんわね」


 「あの子たちがですの?」


 「しかしあの子たちはイオマの言う事をよく聞いていましたわ」



 シーナ商会のブレインと言っても良いあの三人は事実上イオマの手足となってこの二年間世界各国へと影響を及ぼしていた。

 そして「エルハイミ教」も彼女たちが裏で各国の国教とする為に動いている。



 イオマはティアナを保護したと言っていた。


 それは多分最近の事なのだろう。

 ベーダの配下の者あたりがいろいろ動いていたのだろうか。



 「ティアナ‥‥‥」



 「ねえエルハイミ、これからどうするの?」


 シェルがあたしに聞いてくる。



 「それは勿論」


 「イオマを追って」


 「ティアナを奪い返すのですわ!」



 三人のあたしはいっせいにそう言う。



 「しかしお母様、イオマは一体どこに行ったのでしょう?」


 冷静なコクに指摘され肝心な事が不明のままである事に気付かされる。


 「それは‥‥‥」


 「エルハイミ母さんにしては珍しいね。まさか何も考えていないの?」


 ズバリそうセキに言われあたしは黙り込んでしまう。



 そう、イオマが「魔王」として覚醒した事も、「魔王」になる以前からティアナを見つけ出し保護している事も、あたしたちの行動パターンも熟知して対処していた事も全てあたしの予想を上回っていた。


 正直イオマの総魔力はティアナを超えてはいるけどあたしには遠く及ばない。

 いくら半神半人の魂を持ちそして女神に近い力の行使が出来ていても「あのお方」の端末であるあたしにはかなわない。



 でもイオマはあたしを出し抜いた。


 

 それは完全なる知恵比べでの敗北を意味するが、全てイオマのあたしに対する思いから来ている。



 ―― 私を愛してください! ――


 

 単純明快なイオマの要求。

 そしてあたしには絶対に出来ない事。

 家族としての愛情ではなく恋人としての愛情。


 

 あたしはイオマを愛する事は出来ない‥‥‥



 * * * * * 



 「お呼びでしょうか、主様」


 「カルマ、あなたはイオマたちの居場所を知りませんかしらですわ?」



 屋敷の修復も終わり、けが人も回復させひと段落した頃あたしはこの屋敷でデルザに次いで取りまとめを行っていたカルマを呼び出していた。


 彼女は片膝をつき深々とあたしに頭を下げながら言う。



 「恐れながらイオマ様がどちらに行かれたかは私にはわかりません。デルザ様たちについても同様です」



 「本当ですの?」


 「デルザはやはりイオマについたのですのね?」



 あたしはカルマの後ろからすっと現れ三方向からカルマをを見つめる。

 彼女はひれ伏したまま何も言わない。

 しかしその頬には一筋の汗が流れている。



 「すべては主様の為です‥‥‥」



 やっぱりそうだったか。

 デルザ以下も同じくイオマを援護する立場か。



 「あなたたちに危害を加えるつもりは毛頭ありませんわ。でもこれだけは教えてくださいですわ、何故私の為だと?」


 「恐れながら、それもお答えする事は出来ません。しかしながら誤解なされますな。すべては敬愛する主様の為、我ら一同主様への御恩は決して忘れませぬ」



 あたしの為ねぇ。

 多分無理矢理すれば話してくれるだろうけどそれでは駄目だ。


 

 あたしはため息をつきカルマの肩にそっと手を置く。



 びくっ!



 「言えないのであれば無理強いはしませんわ。でも私は私の目的の為には考えを変えるつもりはありませんわ!」


 「主様‥‥‥」


 カルマは涙を目に浮かべながらまた頭を下げる。


 「良いのですわ。あなたたちは自由になった身、今まで通りにしなさいですわ」



 あたしはそう言ってすっとカルマから離れる。

 するとシェルとコクがあたしの側にやって来た。


 「エルフのネットワークで調べてもらった。ボヘーミャに行きましょう」


 「全くイオマときたら、どれだけお母様を困らせれば気が済むのでしょうか?」



 どうやらシェルたちなりに色々調べてくれたらしい。

 ボヘーミャか‥‥‥



 そう言えば最後にイオマも新たにボヘーミャに拠点を作っていたと言っていた。

 もしかすると‥‥‥



 「わかりましたわ、行きましょうボヘーミャへですわ!」





 あたしたちはボヘーミャに向かう事となったのだった。

   

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る