第116話目覚め


 あたしたちはテグの奴隷たちを連れてベイベイの屋敷に戻って来た。



 「お姉さま、この子たちはいつも通りで良いのでしょうか?」


 「そうですわね、いつも通りまずはここで訓練をしてからですわね。でもダークエルフの村にいた彼女たちはみんな赤毛でしたわ。もしかして同じ一族なのかもしれませんわね。状況によっては全員同じところにした方が良いかもしれませんわね?」


 あたしがそう言っているとすっとデルザがあたしたちの前に現れる。


 「主様、イオマ様、皆様ようこそお戻りになられました。あちらにお茶の準備が整っております。テグたちに関してはさっそく私どもめで対処いたしますのでご心配なく」


 そう言って深々とお辞儀する。

 デルザはあたしたちを居間に連れて行きお茶の準備が整っているテーブルへと案内する。

 そして使用人の子たちに命じてお茶を配り始める。

 この辺の教育は行き届いている。



 全く、よく出来る子なんだけどこの子らの始めているシーナ商会が恐ろしい事になっている。



 ここで訓練を受けたテグたちはアルフェ、ベーダ、デルザの三部門に分かれ鍛えられ世界中で活躍している。

 一体どこでどう覚えたのか勝手にゲートの増設までしているからここベイベイの街を中心にシーナ商会独自の流通ルートが出来上がっていた。



 「デルザ、経営報告はどうなりましたか?」


 「はい、イオマ様ここに」


 そう言って分厚い書類を引っ張り出しデルザはイオマにそれを渡す。

 イオマもそれをパラパラとめくっているがしっかりと内容を理解しているのが凄い。

 幾つか気になる点を指摘してデルザに指示を与える。



 「全て順調です。ベイベイ、ユーベルト、ティナに続き現在ボヘーミャにも拠点を作成中です。シーナ商会は既にイージム大陸まで勢力を伸ばしていますので全大陸の制覇出来ますね」


 「イオマ、本当に大丈夫なんでしょうねですわ? 何か国家以上の力を感じるのですがですわ‥‥‥」


 「大丈夫ですよ、お姉さま! お姉さまに不利になるような事はこのイオマが許しませんよ! ですから次の『テグの飼育場』まで少しここでゆっくりしてください」


 にこやかにそう言うイオマ。

 その姿は完全な大人の女性で淑女然としている。



 「イオマ、なんかまた屋敷が大きくなってない?」


 「ふむ、ベルトバッツにも劣らぬ使い手も増えているようですね?」


 シェルはお茶を飲みながら窓辺で外の様子を見ている。

 最近購入して拡大した敷地にいつの間にか屋敷の増設したのを見ている。

 

 そしてその中庭でベーダの配下の者だろう、新たに来たテグの子たちを鍛える者がいるようだ。



 「そうそう、お姉さまには後で神殿の方へも来ていただかなければなりません。どこの女神宗派も『エルハイミ教』に合流したがっていて司祭たちだけではなかなか話が進んでいません。お姉さまが出て行っていただければその辺も速やかに処理できますので」


 「これでは道化ですわね。しかし仕方ありませんわ、こうして女神の顔も演じなければならないのですわね?」


 「はい、世の中を安定させるにも各国の動きを制するにも必要になります」


 あたしとしては目立ちたくは無いのだけど「エルハイミ教」を使う事によりいろいろと便利でもある。

 まず国家という枠組みに属さずに済むし、国教となるようにベーダが各国で動いているので教団間でのネットワークや協調性が強く各国を監視するのに便利だ。

 そして何よりあたしが「実在する女神」を演じているので勝手な解釈をして変な歪曲した教えを広める事無く、神官たちは自分勝手な事も出来ず「エルハイミ教」としてどこでもその根幹は同じに出来ている。



 「じゃあまたエルハイミは分かれてよ! イオマと一緒に行くエルハイミは女神様やってあたしと一緒のエルハイミはまた『テグの飼育場』探しに世界を回ろうよ!」


 「そうですね、お母様が分かれていただければまたいつも通りにお母様の魔力をいただけますからね。今のお一人ではなかなか機会がいただけません」



 うーん、シェルもコクもまたあたしを分けさせたいようだ。

 するとイオマはもあたしを見ながら頷く。



 「お姉さまは何処でも必要とされています。ティアナさんがなかなか見つからなくて大変でしょうがお姉さまにしか出来ない事もたくさんありますので」



 そう静かに言うイオマはとても知的で思慮深い大人の女性であった。

 あの時のティアナは勿論、大人バージョンだったコクにも負けない魅力的な女性になっている。

 十五歳くらいの外観のあたしとは比べ物にもならない。

 

 「わかりましたわ。では落ち着きましたらまた三人に別れますわ」


 あたしがそう言うとシェルもイオマもコクも凄く嬉しそうにする。

 あたしは色々と大変な事も有るんだけどね。


 「それではここでしばらくゆっくりしてから次の行動を始めましょうですわ」


 あたしは残りのお茶を飲み干すのだった。



 * * * * *



 かぽーん。



 「はぁぁぁあああぁぁぁ、やっぱり湯舟は良いですわねぇ~」



 「そうですね、お姉さま‥‥‥ごくりっ」


 「お、お風呂は良いわよねエルハイミ!」


 「お母様、お背中御流しいたしましょうか?」


 

 屋敷の大浴場でみんなでお風呂に入っている。

 ここはユーベルトの実家のお風呂よりずっと大きくて一度にたくさん入っても余裕があるように大きく作っておいた。

 そして温泉では無いものの魔法でもお湯が出せるように細工しておいたから豊富なお湯でゆったりとお風呂が楽しめる。


 あたしは大きく伸びをして首をこきこき鳴らす。

 いくら「あのお方」の端末になって女神を超える力を持っても本質は「エルハイミ」のままなのでこうして普通の人と同じことをするのは大好きだ。



 「はぁぁぁぁ、お姉さまいつ見てもお変わりなくお美しい‥‥‥ じゅるり」


 「エルハイミはほんと良い身体しているわよね、外観上はあたしと同じくらいな年齢に見えるのにあたしよりずっと大きな胸して‥‥‥ ごくりっ」


 「ああ、今すぐお母様の魔力をいただきたいですね。ふーふーっ」



 なんかみんながやたらをあたしの周りでギラギラした目をしている。



 「ほんと、みんなエルハイミ母さんの事好きよねぇ~」


 「主様が黒龍様に手を出していないのが救いではいやがりますが」


 「エルハイミぃ~、またユーベルトでチョコもらって来ようよぉ~」


 既に湯船から出てセキやクロエさんは体を洗っている。

 マリアはさっきからあたしの胸の間で寄りかかって足をぱちゃぱちゃしている。



 「マリアちゃん、うらやましいですね‥‥‥」


 「ほんと、あたしと変わってもらいたいわ!」


 「そろそろマリアはクロエの所へ行って洗ってもらいなさい。私がお母様のお体を洗って差し上げますから」



 あたしを取り囲むように三人が近寄って来る。

 なんかやばそう‥‥‥


 「そ、そろそろ出ますわ! ほらマリアも洗ってあげますからねですわ!」


 あたしは慌てて湯船から出て洗い場に行く。


 ざばぁ~。



 「「「あ~っ」」」



 おあずけでも喰らったかのように三人が声をあげるけどあたしはさっさと洗い場に逃げるのであった。



 * * * * *


 

 「それでシェルは私のベッドで何をしようとしているのですの?」


 「もうエルハイミったらぁ、二人の時はいつも一緒に寝てるじゃないの~」


 シェルがベッドに入っているのはいつもの事で気にもせずあたしもそのままベッドに入ってしまった。



 問題はお前だお前ぇっ!


 なんで裸なの?

 何をしようとしているの!?



 「やっと来ましたか、お母様」



 すると別の場所からやはり別の声がしてすっとあたしの後ろからベッドに入り込む気配が。

 

 「コクですの?」


 やばいなぁ、シェルが裸だから何か言われるなぁ。

 あたしは意を決して振り向く。


 するとなんとコクも裸っ!?



 「コ、コクっ!?」



 何が起こったか理解できないままあたしはシェルとコクに押し倒される。

 


 「エルハイミぃ~」


 「お母様ぁ~」


     

 「ちょ、ちょっと二人共ですわぁっ!!」


 

 がちゃっ



 「お姉さま、一緒に寝ても良いですよね、しばらく一緒に寝てませんでしたものね‥‥‥ えっ!?」


 二人に押し倒されもがいていたあたしだったけどその声に振り向くとネグリジェ姿のイオマが立っていた!?



 「お、お姉さま、これは一体どう言う事ですか!? シェルさんもコクちゃんもお姉さまが一人の時は手を出さないって約束だったじゃないですか!! は、裸でお姉さまに何をしているのですか!? わたしだってお姉さまといちゃいちゃしたいのにっ!」



 珍しく感情的になるイオマ。

 いつもは何だかんだ言って一呼吸置いてから文句を言ってくるのに今日は感情をいきなりあらわにしている?


 あたしは寝間着がはだけ胸が出ているのをしまいながらイオマを見る。



 「イオマ?」


 「お姉さま、ずるいですよシェルさんやコクちゃんばかり! あたしだってお姉さまとっ! ‥‥‥くっ、そうよ、何時もエルフはあたしの邪魔ばかりする。お姉さまもいつもあたしの前で他の女にばかり手を出している‥‥‥」



 ドクンっ!



 何この雰囲気!?

 イオマから変な感じがするっ!?



 「ダメ‥‥‥ お姉さまはあたしのモノ‥‥‥ 渡せない、誰にもお姉さまは渡せないっ!」



 ドクンっっ!!



 「な、なにこれ!?」


 「イオマなのですか!?」


 シェルもコクもイオマのこの異様な感じに気づく。


 「イオマっ!?」


 思わずイオマの名を叫ぶ、しかしイオマは感情を爆発させる。




 「だめっ! お姉さまは私のモノっ! 絶対に誰にも渡せないっ!!」


 

 



 爆発的に更に異様な雰囲気を醸し出すイオマをあたしは見るのだった。

  

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