第115話きっかけ
ダークエルフの族長で村長でもあるキートスが爆弾発言をした。
なんとエルフに対して明確な敵対をしていた「魔王」がキートスと暗黒の女神ディメルモ様の半神半エルフであったというのだ。
「そんな馬鹿なっ! ディメルモ様はあんなに私を愛してくださり生まれたドラゴンニュートのお子にも愛情を注いでくださったというのに、隠し子がいたなんて!!」
いや、コクには悪いんだけど驚く所そこじゃないからっ!
「魔王」だよっ、そっちに驚いてっ!!
「そんな、『魔王』の正体がディメルモ様とダークエルフのハーフだなんてですわ」
「ふん、どうだい? あたしゃぁ嘘なんてついちゃいないよ?」
驚愕の真実にあたしは思わず唸る。
そしてなぜかキートスは勝ち誇ったかの様に高笑いをする。
だがしかし‥‥‥
「まあそれは置いといてですわ」
高笑いするキートスにあたしはそう言ってびっと指をさし言う。
「あなた方が生贄として保有している『テグの飼育場』の奴隷たちを解放させてもらいますわ!」
「なっ!? 奴隷たちを開放するだと‥‥‥ そ、そんなことしたらあたしの楽しみが無くなっちまうじゃないかっ!?」
「はい?」
今まで高笑いしたり高慢で威圧的な態度だったキートスが途端に取り乱し始める。
「ちょ、長老、今はひかえてもらえませんか‥‥‥」
何故かザシャがもの凄く恥ずかしそうにそう言う。
そして周りのダークエルフたちも同じくうんうんと頷いている。
「何言ってるんだい! 奴隷たちがいなくなったら誰があたしの相手してくれるんだい!? お前らダークエルフの男どもは軟弱ですぐに勃たなくなっちまう! ところが奴隷のヒュームたちはあたしを満足させてくれるんだよ!?」
いやちょっとマテっ!
何の話だ!!
あんたダークエルフだよね?
アマゾネスじゃないよね?
しかもメル様と同じ時代の人だよね?
もうそっち方面枯れてもおかしくない人だよね!!!?
あ、いや、メル様もそっちの方は年の割に元気だけど‥‥‥
「いや、だってなぁ‥‥‥」
「長老相手じゃ流石に勃たないって」
「俺も無理、見た目はああでもあの加齢臭はなぁ‥‥‥」
なんか後ろでダークエルフの男どもがひそひそ言っている。
「と、とにかく奴隷たちは解放いたしますわ! そして今度こそティアナを見つけ出すのですわ!!」
「はぁ? ティアナ? 誰だそれ?」
あたしはびっと指を立ててここぞとばかりに力説する。
「私の最愛の人ですわ!! 転生して何度でも私とまた会える永遠を誓った伴侶ですわ!!」
遠くをキラキラした目で見て片腕を胸に当てもう片方の手を空に向けキラキラとした光を降り注げあたしは乙女の如くそう言う。
しかしキートスは頬をポリポリと掻き首をかしげる。
そしておもむろに親指を突き立ていう。
「つまり奴隷の中にお前さんのこれが転生しているってのかい? どの男だ? あたしのお気に入りじゃないだろうな?
「男などと言うおぞましいものではありませんわ! 私のティアナは純情可憐な乙女ですわ!!」
あたしが言い切るとなぜかイオマやシェル、コクやセキがため息をつく。
なんで?
「くふっ、くははははははぁっ! なんだいお前さん同性愛者か? だったら女は全てくれてやってもいいぞ! あたしゃ男だけいればいいんだからね!」
「そうもいきませんわ! いたいけな少年が毒牙にかかるのも私が阻止しなければいろいろと大いなる意思に『めっ!』されてしまいますわ!!」
何故かあたしにはそう感じる。
これはきっと「あのお方」からの警告なのだろう。
「ぐっ、だが奴隷全部とは‥‥‥」
「お母様、もういいでしょう。こいつは私が滅します! 許せません、私に内緒で隠し子まで!!」
ドンっ!!
コクがどんっっと殺気を吐き出す!?
「ちっ! なんだいこのガキは!? まるで黒龍様のような殺気じゃないか!?」
「コクは黒龍の転生した姿ですわ」
あたしがそう言うとキートスは思わずコクを凝視する。
「なんだって? あの黒龍様の転生だと? 全くあの黒龍様の面影が無いじゃないか!?」
「それは私が魂の隷属をして私の魔力を与えたからですわ」
狼狽するキートスにあたしは冷ややかにそう言う。
するとキートスはその場にしゃがみ土下座する。
「ま、待ってくれ、黒龍様! あたしが悪かった、あれはあたしが懇願してディメルモ様に抱いてもらって一発で当たっちまったんだ。後にも先にもあたしがディメルモ様に抱かれたのは一回きりなんだよ! 黒龍様がいない隙にディメルモ様とやっちまったのは謝る!! だから許してくれっ!!」
大口叩いてた割りには黒龍の恐ろしさはしっかりと知っていたようだ。
今のコクはまだ幼竜と言っていいほどではあるがそのドラゴンブレスはその辺の成竜以上だ。
「ふん、まあいいでしょう。ディメルモ様は天界に行かれ私は新たな主様に恵まれた。この私が愛して止まないお母様に!」
そう言ってコクはあたしに抱き着いて来た。
「あっ! コクっ!!」
「コクちゃんまでっ! だめですよ、二人ともずるいっ!!」
あ~、シェルとイオマが騒いでいる。
しかしこれってどうしよう?
キートス以下ダークエルフはあまりの事に完全に戦意消失、更に身内の恥をさらされて自分では無いのに赤くなって下を向いている者ばかり。
これがあの十二使徒を支えそしてあたしたちを苦しめたダークエルフたちなのか?
「エ、エルハイミ。とにかくお前らの欲しがっている奴隷は連れて行け。我々は今それどころでは無いのだ」
たまりかねてザシャがそう言う。
まあ族長で長老であるキートスがこれではまっとうに話が出来るのはこいつくらいか?
あたしは頷き奴隷たちをここへ引き連れて来てもらう。
そして驚く。
「お、お姉さま、この奴隷たちって‥‥‥」
「みんな髪の毛が赤い?」
「これ、お母さん居ないんじゃないでしょうね?」
「ふむ、まさか赤毛の者たちばかりとは思いませんでしたね、お母様」
あたしはとにかく意識を束縛している魔法を解除する。
だが他のテグたちと同じくそれほど変化は見られない。
ただ男どもはキートスを見るといやいやと首を振り股間を押さえて後ずさるものが多かった。
一体キートスってどんだけなのよ‥‥‥
「それで主様、この中にいるのでいやがりますか?」
「女たちは主様の前に来るがよい」
クロエさんとクロさんが奴隷の女性たちだけをあたしの前に引き連れてくる。
あたしはさっそくその魂を見るのだけど‥‥‥
「駄目ですわね。ティアナはいませんでしたわ‥‥‥」
「お姉さま‥‥‥」
「エルハイミ‥‥‥」
「お母様‥‥‥」
がっくりと肩を落とし大きなため息をつくあたし。
「なんだい? あんたの女はいなかったのかい?」
キートスは座ったままだったけどコクに許されたので頭をあげていた。
そしてあたしに言う。
「女にだけに転生するのかい? 男には?」
「ティアナは女にしか転生しませんわ。間違っても男になんか‥‥‥」
と、あたしにちょと不安がよぎる。
まさか男に転生って事は‥‥‥
あたしは慌てて男のテグたちもその魂を確認する。
しかしそこにはティアナはいなかった。
大きく安堵の息を吐く。
いくらティアナでも男になっちゃったらいろいろと困る。
「いなかった様だね?」
「ええ、いませんでしたわ。でも奴隷たちは解放させてもらいますわ。そうすれば私たちはこれ以上何もせずここを立ち去りますわ」
「それは本当かエルハイミ!? まさかこいつらを村から出した後に我々を皆殺しにするつもりじゃ無いだろうな?」
ザシャがあたしに食って掛かる。
しかしあたしは首を横に振って言う。
「目的は果たせましたわ。あなたたちダークエルフに思う所は有りますが種族を滅ぼす事は良しとしませんわ。静かにここで暮らすのであれば私たちはあなたたちをどうこうするつもりはありませんわ」
そうきっぱりと言うあたしにザシャは睨んだまま言う。
「本当だな? 我々は数が少なくなりすぎここを故郷としてしばらく閉鎖的な生活をするつもりだ。もうジュメルには手を貸さん。結局破滅を望んでも自分たちが救われるわけでは無かった‥‥‥」
そう言ってザシャは下を向く。
「ヨハネスは最初この腐った世界を滅ぼし作り直そうと言った。しかしいつの間にかそのヨハネス自身が腐ってしまった。私はそんなヨハネスに‥‥‥」
「貴女に何があったかは私はもう何も言いませんわ。でも破滅を選んでもそれは救いにはならない事は事実ですわ」
あたしはそう言ってキートスに向き直る。
「貴女も破滅を望んだのですの?」
「そうだな、あたしは永く生き過ぎこいつらの面倒を見るのも疲れたのかもしれない。だから気まぐれにジュメルの連中に手を貸してしまった。だがまた子供を宿した時にはその気が変わったもんさな」
「はいっ? こ、子供ですの!?」
「ザシャはあたしの娘だよ?」
「「「はぁっ!?」」」
あたしとイオマとシェルが同時に声をあげる。
「そ、そんな! ザシャがお母さんの子供っ!? お姉さまっ!?」
ん?
なんかイオマが変な事言ったような‥‥‥
「長老、その話はしないでください! こんなのが親だなんて恥ずかしくてっ!! いっそ世界ごと滅んだ方が良かったって思ってしまうっ!!」
ザシャは真っ赤になってそう言う。
「なんだよお前だって男追っかけてずっとあたしのもとから離れていたくせに」
「あぁれは、ヨハネスに騙されて‥‥‥」
この親ありてこの子ありだわね。
あたしはため息をついてからキートスとザシャに言う。
「とにかく奴隷たちは解放させてもらい私が引き取りますわ。あなたたちにはもう用は無いですわ。静かに暮らす限り私はあなたたちにどうこうするつもりはありませんけど、世を乱すのであれば容赦はしませんわ」
「ふう、あんたといい黒龍様といい、喧嘩を仕掛ける相手じゃないよ。約束するよ、あたしらはここで静かに暮らす」
キートスはそう言ってお手上げだと両手をあげる。
あたしはザシャを見ると不服そうではあったが何も言わない。
「良い心がけですわ。ではさようならですわ」
「ああ、出来れば二度と会いたくないね。っと、そっちの嬢ちゃんだが‥‥‥」
キートスはじっとイオマを見る。
「いや、違うか? 何でもない」
「??」
イオマは首をかしげる。
なんだろね?
ちょっと気にはなったけどあたしはみんなを連れていったんベイベイの屋敷に転移するのだった。
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