第117話イオマの脈動


 「お姉さまは誰にも渡さないっ!」



 イオマがそうはっきりと叫ぶと彼女の中で何かがはじけてた。

 いや、封印が解かれたかのようにイオマの魂から何かがあふれ出して来る。



 「エルハイミ、これってまさか!?」


 「シェル、コク下がってくださいですわ! くっ、まさかイオマが『魔王』の魂を持っていただなんてですわっ! これでは『魂の封印』はもう使えませんわ!!」



 シェルが叫ぶ中あたしは瞳を金色にしてイオマの魂を見ていたが今まで見ていたイオマの優しいオレンジ色から赤黒い色へと魂の色が変わっている。


 そして魂の奥底から魔力があふれ出して来る。



 「お姉さまぁ、私のもとへ来てくださいよぉ。わたしは、ワタシはぁ‥‥‥」


 

 ドンっ!!!!



 一気にイオマが膨れ上がったのではないかと思うほどその存在感が膨れ上がり赤黒い光を放つ。



 「イオマっですわっ!!」


 

 カッ!



 まばゆい赤黒い光が部屋を包む。

 そしてひと際大きく光りあたしたちの視界を塞ぐ。

 しかしその光は一瞬で収まり今までの事が嘘のようにこの場に静寂が訪れる。



 いや、静寂ではない。

 これは台風の前の静けさと同じだ。




 「ふぅうううぅぅぅ、参りましたね。まさか今の私がこうなってしまうとは‥‥‥ 全て思い出しました。私が『魔王』と呼ばれていた事も。まさか母さんに会ってから急速に目覚め始めるとは思いませんでしたよ。あの人まだ生きていたんですねぇ」



 静かに、そしていつものような口調で「魔王」は話し始める。



 「全く、でも今の私の気持ちは抑えられない。お姉さま、愛してます。お願いです私のモノになって下さい」


 「イオマ‥‥‥なのですの?」



 見た目はいつものイオマのままでもその表情は妖艶にほほ笑んでいる。



 「そうですよお姉さま、私はイオマ。すべてを思い出したイオマであり『魔王』と呼ばれていた者です。ああ、安心してください、『魔王』になったからと言っていきなり襲うようなことはしません。お姉さまが大人しく私のモノになってくれさえすれば今まで通りイオマのままでいますから」



 そう言って唇を舌で舐める。

 その動作はまるで色欲の神の様。



 「イ、イオマが『魔王』だったなんて!」


 「これはどう言う事です? イオマの魔力があんなに大きく‥‥‥」



 いそいそと服を着ながらシェルとコクはベッドから降りて身構える。

 あたしもゆっくりとベッドから降りてイオマの前に立つ。



 「イオマ、まだイオマとしての意識が有るのですわね?」


 「ええ、勿論ですお姉さま。でも今までの私とは違いますよ。お姉さまが私のモノになってくれないと困った事しちゃいますよ?」



 そう言って嬉しそうに笑う。


 まだイオマとしての意識は保っていると言う事か?

 ならばまだ「魂の封印」が出来るのでは?



 「んふっ、お姉さまもしかして私の意識があるからと言って『魔王』としての『魂の封印』がまだできるとか思っちゃってます? 無理無理無理っ! もう私は目覚めちゃいました、だからほらここにも印が出ちゃってるでしょ?」



 そう言ってイオマはキャミソールをまくり上げて足を開く。

 そして左足を少し持ち上げて太ももの付け根近くの内側を見せる。


 「ほら、完全に印が出ちゃった。もうこの体も何も完全に目覚めた魂と融合してます。ああ、でも今の私はイオマですからお姉さまが大好きなのは変わりませんよ?」


 「ちょっと、本当にイオマなの?」


 「うーん、シェルさんうるさいですよ? 全くいつの時代もエルフは私の邪魔をする。少し黙っていてください」


 そう言ってイオマはふっっと息をシェルに向けて吹くと途端にシェルはベッドにふっ飛ばされる。



 「にゃぁぁああああぁぁぁっ!!」



 ぼふっ!



 魔法じゃないっ!?

 いや、あれってあたしと同じ、直接マナに干渉している!?

 女神の御業と同じ!?


 「友人であるシェルさんに酷い事はしたくないですけど、お姉さまに関しては別ですよ? そうそう、コクちゃんも同じです。お姉さまだけは渡せないですよ?」


 「イオマ。くっ、まさか女神様と同じことが出来るとはっ!」


 どうやらコクは気づいたようだ。

 先ほどのイオマの行いは女神の御業、と言うよりは意識などしていない行動が力になって発現しているだけだ。



 「さあ、お姉さま私を愛して。私をお姉さまのモノにしてくれるならいい子にしますから‥‥‥」


 「イオマ、あなたは私の義妹ですわ。家族に対する愛情は注げても恋人としての愛情は注げませんわっ!」



 あたしはイオマを空間事拘束しようとする。

 しかしイオマも女神と同じく魔法を使わずに御業を発動させる。



 びきっ!

 バキバキっ!!



 大きく後ろに下がり壁ごと破壊して距離を取る。


 

 「うふふふふふっ! お姉さまの力に対抗出来た! ねえ、お姉さまもっと遊びましょうよ!!」



 そう言ってイオマは手を振ると魔法陣が床に発生してそこから怪しい触手がどっと沢山あふれ出した!


 「お姉さまを捕まえていけない事しちゃいましょう! 私が忘れられないくらい気持ちよくしてあげますからぁ!!」


 「冗談ではありませんわっ! こんな大いなる意思に『めっ!』されるような事は許されませんわっ!!」


 あたしは大きくその場を飛び退き迫って来る触手を切り刻む。


 ざしゅっ!




 「何事だ、主よ!?」


 「黒龍様!」


 「なんでいやがりますっ!? あのうにょうにょはっ!? 主様の生みだしたご褒美でいやがりますか!!!?」



 いや、こらクロエさんっ!

 なんであたしがうにょうにょの触手を生み出すのよ!?

 しかもご褒美って何っ!?



 「はぁあぁぁ、、みんなも来ちゃいましたね? 邪魔しなければ酷い事したくないのに」


 そう言ってイオマはまたまた床に魔法陣を展開してそこから今度はアークデーモンを呼び出す。



 「お前たち、邪魔な人たちの相手をしなさい。ああ、殺してはダメですよ? 彼らは私のお友達なのだから」


 そう言って数十体呼び出したアークデーモンたちをショーゴさんやクロさん、クロエさんにけしかける。



 「イオマなの、あれっ!?」


 「あら、マリアちゃんじゃないですか? そうそう、マリアちゃんったらお姉さまの胸の間でお風呂に入るなんて羨ましいことして。ちょっと嫉妬しちゃいますよ?」


 そう言ってイオマは手を振るとマリアを茨の檻で拘束する。


 「うわっ!?」


 「これでライム様との通信は出来なくなりましたね? 万が一アガシタ様あたりでもこられたら流石に私一人じゃお姉さまを奪えないですもんね」


 そう言ってイオマはキャミソールを剥がし裸になると次の瞬間魔力を編み上げて自分の体にまとわりつける。

 そして出来上がったのはボンテージ姿の女王様ルックっ!?



 「ふふっ、お姉さまぁ、早く私のモノになってくださいよぉ。そうすればこの鞭でたぁ~っぷりと可愛がってあげますよぉ~。ああ、あの凛々しいお姉さまが苦痛に喘ぐ姿を見らっるなんてっ! もうそれだけで濡れちゃいますっ!」




 いや、なんか「魔王」じゃなくて「女王様」が目覚めちゃってるんじゃないの!?




 あたしが思わずそう思っているとクロエさんがドラゴン百裂掌を放つ。


 「うねうねの方が良いに決まっていやがります! ドラゴン百裂掌っ!!」


 アークデーモンくらいならクロエさんのドラゴン百裂掌でかたずけられるだろう。

 そう、誰もが思った。



 どががががががっ!



 「なにっ!?」



 ばきっ!



 しかしなんとこのアークデーモンクロエさんのドラゴン百裂掌を防壁を作って防御してさらに最後の心臓を掴む一手を手首を掴んで押さえた所に空いた拳で殴りつける。


 クロエさんは大きく吹き飛ばされて壁にのめり込む。



 「クロエっ!? どう言う事ですイオマ!? アークデーモン如きにクロエが倒されるとは!?」


 「ふふふっ、コクちゃん、あなたたちの手の内はみ~んな知っています。そうすればアークデーモンでも十分に対処できるんですよ。さあ、お姉さま観念して私のモノになってください」



 「ふざけんなぁっ! イオマ目を覚ましなさいっ!!」



 高笑いするイオマに風の上級精霊が襲いかかる。

 見れば復活したシェルが精霊魔法を使っていた。


 「風の刃の牢獄よ! 動けば体に傷がつくわよ! 大人しくしなさいイオマっ!」


 「あら、シェルさんもう復活したんですね? 流石にお姉さまに魂の隷属しているだけのことは有る。でも‥‥‥」



 びしっ!


 すぅ‥‥‥

 


 「えっ!?」



 イオマは手に持つ鞭を振るうと風の牢獄は霧散してしまった。


 「駄目ですよぉ、女の体に傷をつけちゃぁ。お嫁に行けなくなってしまいますよ? あ、でもお姉さまを私が痛めつけてもしっかりと回復して元通りの柔肌に戻しますから安心して鞭や蠟燭を使えますよ!」



 いや、安心じゃないからっ!

 あたしにそんな趣味無いからぁっ!!



 「【爆炎拳】!!」


 「ドラゴンクロ―!」


 ショーゴさんもクロさんも現れたアークデーモンに攻撃を仕掛けるけどすべて防がれてしまう。

 



 「何事です!? イオマ様、主様!!」



 デルザやベーダ、そしてアルフェもやって来た。

 ベーダなんかは手下を沢山連れてきている。



 「あら、アルフェ、ベーダ、デルザ。なんでもありません、下がっていなさい」



 「しかしイオマ様、これは一体!?」


 「アークデーモン!?」


 「イオマ様、そのお姿は!? あ、主様っ! お怪我は有りませんか!?」



 デルザたちもこの状況に困惑している。

 しかし彼女たちを取りまとめているイオマから下がれと命じられ動くに動けずにいる。



 「全く、あなたたちには失望しました。これはお姉さまの為の事ですよ? 私の言う事が聞けないと?」



 「い、いえ。決してそのようなつもりはございません!」


 「しかし、イオマ様、主様の御前にアークデーモンがっ!」


 「いかにショーゴ様やクロ様、クロエ様がおいででもこの数では!」



 その場に片膝つきながらデルザを筆頭に頭を下げるけどイオマは不服そうだ。



 「下がれと言っている! 私はお姉さまと楽しいひと時を過ごしているのだ! そして最後にはお姉さまを私のモノとしてたっぷりと楽しんで頂くのだ!!」




 どんっ!




 イオマから更に魔力があふれる。

 これってティアナ以上!?

 いや、ライム様にも引けを取らない!?



 「面倒です、皆さんちょっと痛いかもしれませんが死なないでくださいね?」




 そう言ってイオマの魔力が膨れ上がりこの場に有り得ないものが召喚されるのだった。 

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