第113話ダークエルフの村
そこは北の大地にある山間の小さな隠れ里。
特に結界が無いのは森の木々がここの住人とあまり仲が良く無い証拠でもある。
しかしそれでも最低限の結界が張ってあるようで普通の人ではまず見つけられない。
「黒龍様、戻ったでござる。村にはダークエルフばかりでござった。ジュメルの神官らしきものは一人もおりませんでござる」
「ご苦労。ふむ、そうするとここはジュメルがおらずダークエルフだけと言う事ですね? しかしそんな所で『テグの飼育場』などを保有するとは」
「前の『テグの飼育場』の管理者も言ってましたわね、もともとはジュメルの人体実験の拠点であったと。多分帝都からいち早く逃げ出しここで力を蓄える気だったのでしょうですわ」
ダークエルフは秘密結社ジュメルに協力して十二使徒への従者、もしくは伴侶として寄り添う事が多かった。
更に魔結晶石核の複製を作る時にはダークエルフの族長が上級精霊を呼び出すのに協力をしていたとも聞く。
しかしヨハネス神父をあたしたちが倒したあたりからどうやら帝都を逃げ出しジュメルとも疎遠になっていたようだ。
「でも分からないわね? ジュメルでも無いのになんで『テグ』なんか必要なのかしら?」
「『テグ』は基本ヒュームばかりですからね。たまに獣人の子もいましたが容易に増えるという点では私たちヒュームが一番簡単ですからね」
シェルが首をかしげながらそう言うとそれを引き継ぎイオマが実情を言う。
でもダークエルフと言う事はあたしには思い当たる節がある。
「闇に属する者たちを従事させるには生贄が必要ですわ。それも生きた生贄が‥‥‥」
「!?」
それを聞いたシェルもイオマも息を呑む。
知識の片隅には有っても生贄自体に人間を使うというのはやはり驚きを伴う。
通常儀式で生贄を必要とする場合はほとんど動物で代用するが、やはり人間の方が魂が魔素を沢山保有しているので効率がいい。
「そうするとあの中のいる『テグ』たちは生贄用と言う訳ですか、お姉さま?」
「ダークエルフらしい!」
苛立つ二人。
『お母様、配置終わりました。結界の解除を願います』
イオマやシェルが憤っているとコクから念話が飛んで来た。
どうやら準備が出来たようだ。
「行きますわよ!」
あたしはシェルとイオマにそれを伝えて立ち上がるのだった。
* * *
「なんだこの感じはっ!?」
「どう言う事だ? 村の結界が!?」
見張りをしていたダークエルフたちも気付いたようだ。
あたしが結界を取り払いイオマが【静寂の魔法】を掛けて見張りを黙らせる。
ヒュンっ!
トスっ!
トスっ!!
「ぐっ!」
「うっ!」
村の入り口のダークエルフはシェルの放つ矢に見事に眉間を射抜かれて絶命する。
それを合図にコクとセキ、そしてその後方ををシェルが援護しながら突入する。
一間置いてあたしやイオマも村に入って行く。
そして見れば流石にダークエルフ、いち早く異常に気付いた者たちがコクたちと戦っていた。
しかし黒龍や赤竜の化身にかなう訳もなく、更にシェルの精霊魔法で吹き飛ばされるからその数をどんどんと減らしていく。
「エルハイミっ! 貴様らかぁッ!!」
声のした方を見ればそこにザシャがいた。
そう、あのヨハネス神父のパートナーだったダークエルフが。
「ザシャ、大人しくしなさいですわ。そうすれば命までは取りませんわ」
「くそっ! 長老、駄目だ! あいつは女神を超える力を持っている。逃げろっ!」
ザシャはそう言って周りにも同じことを言いあたしの前に立ちふさがる。
「何故お前がここに来る? 私たちダークエルフを根絶やしにするつもりか?」
「いいえ、私はここにある『テグの飼育場』に用事があるのですわ」
短剣に毒を塗ったものを構え用心深くあたしを睨む。
そしてあたしの答えにちらっと一番大きな建物を見る。
ふむ、あそこなのかな?
だとすれば後はダークエルフたちが大人しくしてくれれば済む話だ。
ばっ!
「うっ!!」
「ぐっ!」
「なにっ!?」
いきなり姿を現しイオマやあたしを襲おうとしたダークエルフたちをあたしは空間事固定する。
まあ、こいつらの常套手段なので最初から注意していたのだけどね。
「イオマ、危ないですから私から離れないでですわ」
「お姉さま♡」
ものすごく喜ぶイオマ。
まあ実際に危ないから仕方ないんだけどね。
「あっ! ずるいイオマっ!!」
向こうでダークエルフたちを大地の精霊で拘束していたシェルがこちらに気付く。
そしてこっちに走って来てあたしに抱き着く。
「ちょっ、シェル! 今はこんな事をしている場合ではありませんわ!!」
「シェルさん、ずるいです! お姉さまに守られるのは私なんですよ!」
「あ”あ”ぁっ! イオマ、シェルいつの間にっ! お母様っ!」
やばい、コクまでこっちに向かい始めてるっ!
「あ、コクっ! ちっ、これじゃあ手加減できないじゃないっ!」
ぐしゃっ!
セキは一人で戦う事になった為手加減出来ず殴ったダークエルフをミンチ肉にしてしまった。
「あ”っ!」
今までそれでも殺さない程度に痛めつけられていたダークエルフたちだったが流石にこんな少女に一撃でミンチ肉にされたのではたまったものでは無い。
途端に精霊魔法を唱え始める。
「なんだいなんだい、騒がしい! 何が起こっているんだい!?」
大きな声が張り上げられる。
ダークエルフにしてはガタイの良い女性のダークエルフが出てきた。
筋骨隆々という訳では無く背の高い大柄なナイスバディ―の女性。
ダークエルフ特有の大きな胸も健在だ。
「長老! だめだこいつらはエルハイミだ! 女神以上の連中だ!!」
ザシャはそう叫ぶと長老と呼ばれたそのダークエルフは周りを見渡す。
そして腕を組みあたしに向き直る。
「良い女なのは認める。だが何故あたしたちダークエルフを目の敵にする?」
「あなたたちが抵抗せず大人しくしてくれれば命までは取りませんわ」
あたしがそう言うと長老は目をすっと細める。
そしてまた大声で言い渡す。
「良いだろう、お前たちこれ以上騒ぎをするんじゃないよ! ザシャ、村の連中を集めな!」
そう言ってニヤリと笑ってあたしを見る。
「これで良いだろう? さあ用件を聞こうじゃないか?」
「良い心がけですわ。私は何もあなたたちを殲滅しに来たのではないですわ」
「ふん、エルフの従者を従える者に言われても信用は出来ないがね。これ以上抵抗しても被害だけしか出ないようだからね」
あたしたちはしばし睨み合うのだった。
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