第112話十三番目の飼育場(二年後)
あたしたちはここルド王国の更に北にある場所に来ていた。
「こんな所に隠れ里があるとはね」
「しかしここに『テグの飼育場』があるはずですよ」
「今までの所とやはり雰囲気が違うようですね、お母様?」
まだだいぶ距離は有るもののここは山間にあるその村がどうにか見えた。
シェルは弓矢の調子を見ながらその村に対して空の弓を引き「びんっ!」と放つ。
イオマもコク準備を進めている。
今の時期は夏になるがこの北の大地では日本の北海道のように涼しくて過ごしやすい。
そんなここに人里離れた隠れ里が有った。
「主よ、やはり情報通りのようだな」
「ふん、ダークエルフ如き何と言う事は無いでいやがります」
「これ、クロエ。目的はダークエルフの殲滅では無いのだぞ?」
「でも結局暴れるんでしょ?」
「セキ、皆殺しは可愛そうだよぉ~」
ショーゴさんやクロエさん、クロさんはその村を凝視していたようだがどうやら住人を見取ったようだ。
セキはあの後脱皮してコクと同じ十歳くらいになるので体をもっと動かしたくて仕方ない様だ。
先日も魔怪人たちを瞬殺していたのに暴れ足り無いからと言って管理者までぶっ飛ばしていた。
マリアが見つけ出すのが遅かったら完全に死んでしまっていただろう。
無用な殺生はしないで他の飼育場との情報が欲しいというのに。
「どちらにせよ情報通りであればここはダークエルフの隠れ里のはずですわ。いつも以上に気を付けた方が良いですわ!」
あたしはびっと人差し指を立てててみんなにそう言う。
ちなみに今のあたしは一人になっている。
なんだかんだ言ってこの二年間探す「テグの飼育場」にはティアナはいなかった。
三人に別れそしてみんなと様々な「テグの飼育場」を探し回ったけどその都度いろいろと問題が有ったり残ったジュメルのちょっかいを受けたりと面倒事を処理する方が多かったような気がする。
でも今回の情報はかなり期待が強い。
場所が場所だけに内部の状況はまだ分からないけどダークエルフが作ったこの隠れ里に「テグの飼育場」が有るというのだ。
そして前の飼育場の管理者の言っていた「赤毛の女の子がいた」と言う情報があたしたちをここに集結させたのだった。
「これで十三番目か。まだまだあるけど今度こそティアナがいると良いわね?」
「そうですねぇ、ミハインも、ティナも、そしてユーベルトもあの子たちでいっぱいになってきましたもんねぇ」
「お母様のお名前が轟く手伝いが出来るのです、あの子たちも本望でしょう。それに『エルハイミ教』のお陰で世界各国の他の女神宗教も統一の動きが出て我らのお母様が事実上主神になったも同然です」
うーん、その辺はなるべく触れないので欲しいのだけど‥‥‥
「でもさ、あのエルハイミ母さんってこのエルハイミ母さんと違ってもっと大人だから最近のエルハイミ母さん見ても知ってる人の方が少ないんじゃないかな?」
セキは屈伸運動をしながらそう言う。
そう、「エルハイミ教」が世界的に広がりあたしが崇めらるようになってしまったのだけどそうなって来るとティアナの捜索に支障が出始めた。
なのでアガシタ様もやっていた民衆の描く女神様にあたしの姿を変えておいた。
そう、今の十五歳くらいの姿ではなく、実年齢の二十三歳くらいの大人の女性に。
多分と言うか、あたしはママンに似ているから大人になればああなるだろうと体をそのように成長させてみたらトレードマークのこめかみ左右の三本づつの棘の様な癖っ毛以外うり二つと言っていいほど似ていた。
そしてやっぱりスタイルが「ボンッ、きゅっ、バーンっ!!」になってあの頃のティアナに負けないくらいの胸になり、そして大人バージョンのコクにも負けないスタイルになった。
思わず別れたあたしにもう一人のあたしが見惚れていけない事をしてしまいそうになる位に‥‥‥
な、ナルシストって訳じゃ無いのよ!?
い、良いじゃない、自分の胸なんだから思い切りパフパフとかやってみても!
おかげで今の「エルハイミ教」であたしが出る時はその姿なのでみんなそっちが「エルハイミ」だと思ってくれるようになった。
「しかし、ダークエルフの集落がこんな所に移転していたとはね‥‥‥」
「シェル、殲滅が目的では無いですわよ? 無力化できたならばむやみな殺生はしてはいけないですわよ?」
純血のエルフにしてみるとダークエルフは裏切り者でどうも馬が合わないようだ。
それでもその種族自体を滅ぼす暴挙に出るのは良く無い。
あたしは天秤の女神アガシタ様の代行でもある。
この世界の平和を守る義務がある。
シェルは小さく「分かってる」とだけ言って立ち上がった。
「お母様、斥候はベルトバッツに、周囲はクロとクロエ、そしてショーゴで。無力化にはお母様とイオマ、露払いは私、セキ、シェルでよろしいですね? マリアは状況を確認、逃れる者を見張りなさい」
コクがすぐに段取りを決める。
今回は「テグの飼育場」自体に被害が出ない為に迅速かつ確実に無力化させ、更にこの隠れ里から一人も逃さない様にしなければならない。
「多分ここにはダークエルフの族長もいますわ、大丈夫とは思いますけど十分に注意していきますわよ!」
あたしのその言葉にみんなも頷き行動を始めるのであった。
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